表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/339

167話 勇者対大魔王メティス

「裁きを受けなさい!」


 見るからに硬そうな黒と白の体毛が、無数に飛来する。


「よっ」


 飛び退いた地面に、それらが突き刺さった。


(うん。避けて正解だったな)


 さっきまでおれがいた場所は、剣山みたいになっている。

 しかも一本一本が長く、一メートルくらいの高さがあった。


(白と黒の違いに意味はあんのか? 片方が毒で、もう片方が補助、みたいな)


 試しに竜滅刀で斬ってみたが、特になんてことはなさそうだ。

 髪の毛の矢、という認識で、いまのところ問題ない。


「まだまだイキますよ! それそれそれ!」

「ったく、調子に乗ってるとハゲるぞ」

「ご心配は無用です。これは永久に生えてきますので」


 そうであるなら避け続る意味はなく、対処しなければ針のむしろだ。


「ウインドショット」


 魔法で吹き飛ばし、上手くいけばメティスに跳ね返す。

 そうなれば万々歳だったが、無理らしい。

 毛針はおれの放った突風など、おかまいなしに迫りくる。


(お~お~、ずいぶん強力じゃねえか……いや、待てよ)


 単純に、おれの魔法が弱いだけかもしれない。


「ウインドアロウ」


 魔法の威力を上げても、結果は変わらなかった。

 接近速度が若干落ちたような気はするが、微々たるものすぎてよくわからない。


(魔法は無理だな)


 初心者に毛が生えた程度では、ラスボスに歯が立たない。


「んじゃ、これならどうだ!? 風波斬!」


 これまで、何度となく窮状を打開してきた必殺技だ。


「よしっ」


 風の刃は眼前に迫っていた毛針をすべて粉砕し、メティスに直撃した。


「ああっ」


 通行人と肩がぶつかったぐらいの軽い悲鳴とは裏腹に、メティスの身体から盛大な血しぶきが上がった。


(イケる!)


 盛り上がりには欠けるが、このまま終わらせてしまおう。


「風波斬!」


 トドメのつもりで放ったそれが、メティスにクリーンヒットした。

 けど、血しぶきはおろか、体毛を刈ることさえ出来なかった。


「ふふふ、その技はもう通じませんよ」

「でまかせ……じゃなさそうだな」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で泰然自若とした雰囲気は、自信の表れだろう。


 …………


「マジかよ!? ピンチじゃねえか」


 唯一の必殺技が、有効打ではなくなってしまった。

 威力の調整や物理特化のゴリ押しなど、やれることはまだあるが、心許ないのも事実である。


「けどまあ、やるしかねえんだよな」


 急に手札が増えることはありえない。

 あったとしてもそれは急造で、切り札にはなりえない。

 いまあるもので最善を尽くす。

 それが第一だ。


「それっ」

「させませんよ」


 まずは竜滅刀による直接ダメージを試みたが、メティスが撃ち出した大量の毛針に遮られ、接近すらできなかった。

 地面を蹴って正面から側面に移動したが、全身毛だるまのメティスには関係ない。

 どの角度に移ろうとも、毛針の射線上にいることに変わりはなかった。


「ったく、冗談じゃねえよ」


 近づくどころか、どんどん離されていく。

 一足飛びに間合いを詰めるという手もあるが、空中で毛針を迎撃しながら痛恨の一撃を見舞う、というのはむずかしいだろう。


「マジで邪魔だな」


 地面に突き刺さった毛針は高さもあり、おれの視界を遮る。

 上は大丈夫だが、足元で細工をされている場合、対処が遅れる可能性が出てきてしまう。


「風波斬」


 竜滅刀を薙ぎ、多くの毛針を切断した。

 が、すぐに元通りにされてしまう。


(際限なく撃てるっていうのも、本当みたいだな)

「どうしました? 手詰まりですか?」

「否定はしにくいが、それはお前も同じだろ」


 毛針でおれに致命傷は与えられない。

 それはメティスも理解しているはずだ。


「では、次の手といきますか。サンダーアロウ!」


 手のひらを上にむけ、メティスが複数の雷撃の矢を上空に放った。


「ショット!」


 振り下ろした手に同調し、打ち上げた雷撃の矢が急降下する。


 ??


 対処すべきなのだろうが、そのどれもがおれの頭上にはない。

 毛針の上に落ちて掃除してくれるならありがたいが、そんな意味のないことをするわけもなかった。


「だよな!」


 雷撃が落ちた衝撃で、白い毛針がしなるように曲がる。

 そして戻ってきた反動を利用し、そこら中に雷撃を飛散させた。

 パチンコやピンボールを連想するそれは、落ちる角度やスピードでそれぞれが違う動きをするので、非常に予測しづらい。


「ああもう!」


 見てから反応するので、どうしても回避が遅れてしまう。


「ファイヤーアロウ! アイスアロウ! サンドアロウ!」


 メティスが各種魔法の矢を打ち上げる。

 雷だけでなく、それらすべても飛散させる気でいるようだ。


「マジで性悪だな」


 このままだと、被害だけが大きくなる。

 見渡すかぎり更地だから影響は少ないが、復興を視野に入れるのなら、傷跡は浅いに越したことはない。


「んじゃ、おれもマネるか」


 左手を銃のようにし、狙いをつける。


「レーザーアロウ」


 標的はメティスの奥にある黒い毛針。

 計算通りの角度で当たれば、跳ね返ってメティスに当たるはずだ。


「よしっ」


 見事に命中した。

 けど、思惑通りにはいかなかった。

 おれのレーザーアロウは黒い毛針に吸収され、どこかに消えてしまった。


「レーザーアロウ」


 黒がいけなかったのかもしれない。

 おれは改めて、白の毛針に魔法を撃った。

 反射しそうだったが、ダメだ。

 しなった拍子に黒の毛針に触れ、レーザーアロウは消失した。

 メティスの魔法が黒の毛針と接触しても消えないのは、術者の特権なのだろう。

 相手の技を逆手にとって形勢逆転するチャンスだったが、むずかしそうだ。


「ああもう、マジで面倒くせぇな! こうなりゃ、すべて焼き払ってやるよ!」


 悪役感たっぷりの言葉とともに、おれはファイヤーボールを撃った。

 射線上に飛散するメティスの魔法を蹴散らしつつ、毛針に激突した。


「えっ!?」


 白の毛針を消失させていくが、黒の毛針に当たるたび、ファイヤーボールが一回り小さくなっていく。

 おれとメティスの間には無数の黒の毛針があり、すべてを焼き尽くすことなく、ファイヤーボールは効力を失った。


「なら、もう一発だ」

「どうぞご自由に」


 おれが再度アタックするのと同時に、メティスも毛針を飛ばす。

 続けざまに二発三発と重ねても、意味がない。

 どれもこれも、メティスにたどり着く前に消えてしまった。


「どうすんだだだだだ」


 油断していた。

 メティスは毛針をおれとの間だけでなく、横や後ろにも飛ばしていたようだ。

 死角から飛んできた雷撃が当たり、身体が痺れる。


(多少イテェけど、これなら我慢できるな)


 将来的には、トラ柄ビキニの宇宙人と付き合うことも、夢ではなくなった。

 なんてくだらないことは思い浮かぶのに、これといった打開策は浮かばない。


「しゃ~ねえけど、やるしかねえか」


 勝利するには、無茶をするしかなさそうだ。


「風波斬!」


 幅を厚めに放ち、それを隠れ蓑に接近する。

 後方やサイドから魔法が当たるが、こちらも身体を覆う魔素を厚く濃く展開して防ぐ。


「風波斬!」


 こちらは毛針を刈りこむため、出来るだけ低く地平を這うような高さに撃った。

 短くできれば、その上を走ることも可能だろう。


「イデッ」


 貫通はしなかったが、毛針は踏むと痛かった。

 けど、足は止めない。

 もう少しで、竜滅刀の間合いに入るのだ。


「アイアンメイデン」


 メティスが両手をバチンと合わせた。


(やべっ)


 おれは反射的に上空に跳んだ。

 正解だった。

 おれのいたところは、左右の毛針が曲がり串刺しになっている。

 その様子は、まさに鉄の処女(アイアンメイデン)と呼ばれる処刑具を連想させた。


「反射神経は褒めますが、そこから動けますか?」


 メティスが笑っている。

 こうなってしまえば、絶好の的だ。


「ニードルフラッシュ!」

「風波斬!」


 大量の毛針に風波斬をぶつけるが、すべてを粉砕することはできなかった。

 飛んできた毛針から、身体を丸め腕と足を盾にし、顔や心臓を守る。


「ぐあっ」


 大量の毛針が突き刺さる。

 魔素のガードが無ければ、皮膚と骨を貫いて致命傷になっていたかもしれない。

 けど、耐えることには成功した。


「でりゃああああああ!」


 落下の勢いそのままに、おれは竜滅刀を振り下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ