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166話 勇者対メティス

 ワンパンで飛んでいったメティスを追いかける。

 低空飛行がゆえ、距離的に届くか心配だ。


「っの!」


 メティスが地面に魔法を撃った。

 たぶん、ウインドショットだろう。

 発生させた上昇気流を活かし、空中で制止している。


「はあ、はあ、はあ」


 肩で息をしながら、ものすごい形相でおれをにらみつけている。


(スゲェな……パンツ丸見えだよ)


 一応言っておくが、見たくて見てるわけじゃない。

 目線を逸らすなどの配慮が必要なのは理解しているが、相手はこちらを殺そうとしているのだ。

 そんな輩から注意を逸らすことなど、できようはずがない。

 少なくとも、おれには無理だ。


「ドぎつい下着が見えてますよ。隠してください」


 見たいヤツと思われるのもイヤなので、一応忠告した。


「見たいならどうぞご自由に。代わりに、勇者様(あなた)には地獄を見せて差し上げます」


 怒りに血走った目から、本気度が伝わる。


「よっ」


 行動に移される前に、おれは飛び上がってさらにワンパンをかました。


「焦るなよ。さっきも言ったが、決着はあそこでつけようぜ」


 盛大に鼻血を吹き出し飛んでいくメティスに手を振り、着地とともに追いかける。


(ヤバイ)


 今度は強く殴りすぎたせいで、城の辺りで止まりそうにない。

 ゴルフで例えるなら、グリーンオーバーは確実だ。


「くそっ」


 おれは走る速度を上げた。

 上空と地上の違いはあるが、遮る建造物(モノ)がないのはどちらも同じである。

 おかげで、すぐに追いつき追い越せた。


(おっ、あれだな)


 地面に大きな穴が開いている。

 あの下に、リルドたちがいるはずだ。


「くらえ、旗つつみ」


 プロゴルファーな猿の必殺技だが、当然おれにはできない。

 ゴルフ未経験なことも一因だが、なびいている旗に打ったボールを包ませ、そのまま落下してカップインするなどという化け物じみた作戦は、プロでもむずかしい。

 そしてなにより、ゴルフ場でないここには、包むべき旗がなかった。

 精々が飛んできたメティスを空中で待ち構え、下にある穴に叩き落すだけだ。


「それっ」


 タイミングを見計らってジャンプした。

 空中で制止できない以上、早くても遅くてもダメだ。


(うん。バッチリだな)

「ファイヤーボール」

「おいおいおい」


 急に放たれた魔法に面食らうが、これぐらいの嫌がらせは予想済みだ。


「あっ、それ……よいしょ」


 魔素でコーティングした足でファイヤーボールを蹴り上げ、ダブルスレッジハンマーでメティスを叩き落した。

 ちなみに、ダブルスレッジハンマーとは、グーの形にした手をもう片方の手で包み、標的となる相手に振り落とすプロレス技である。

 伝わらないかもしれないが、ドラゴン●ールでたまに見るアレだ。

 べつの技が入ったことで話がブレてしまったし、成功というには乱暴この上ないが、なんとなく旗つつみっぽいモノは再現できた。

 それだけで、ちょっと満足だったりする。


「よっと」


 自然落下し、穴の中に着地した。


「大丈夫ですか? メティス様」


 袂を分けても、受けた恩が消えるわけじゃない。

 それを証明するように、リルドがメティスに回復魔法(ヒール)を使用していた。

 あらぬ方向に曲がっていたメティスの足が真っすぐに戻り、意識も戻ったようだ。


「邪魔です! お退きなさい!」


 世話になっても、邪険にする姿勢は変わらなかった。


「はっ、馬鹿だねぇ」


 突き飛ばされ尻もちをつくリルドを、シリアが嘲るように鼻で笑う。

 その傍らには紅く光る機械のようなものがあり、あれが夢魔族が使う悪夢を見せる魔法の増幅装置とみて間違いない。


(あの色はヤベェんじゃねえか?)


 根拠はないが、機械が放っている紅い光りは、オーバーワークを示している気がしてならない。


「ほんと、お前も中々の性悪だよな」

「うるさい! 死ね!」


 呆れるおれに、シリアが中指を突き立てた。

 それが地球と同じ意味なのかは知らないが、場所が場所なら殺されても文句の言えない行為である。


(まあ、おれは元が日本人だからな。それほどムカつきはしないけど……)


 いい気分でもなかった。


「極めて同感です! 死になさい!」


 メティスが同調したのは、シリアに対してだ。

 その証拠に、おれの心臓めがけてレーザーアロウが放たれた。

 一撃で殺してやろうという気持ちが、ありありとうかがえる。


「まあ、無理だけどな」


 半身になって躱しながら、メティスに蹴りを入れた。

 サッカーボールがゴールに突き刺さるように、吹き飛んだ身体が壁にめり込む。


「シ……リア。回復を」

「アンジェラホンジェラマッカーサー」


 絶対に違うのは理解しているが、シリアが唱えた呪文はそう聞こえた。

 ドクンッとメティスの身体が脈打つ。


「助かりました」


 次の瞬間には、立ち上がれるほど回復していた。

 風波斬で斬った後すぐに回復したのは、シリアの魔法が原因だったわけだ。


(なら、最初に止めるべきはシリアだな)

「アンロックシールド」


 メティスがシリアと紅く光る機械を守るように、魔法を展開させた。

 打ち破ることは可能だろうが、相殺というのはむずかしいかもしれない。

 巨大な力をぶつけた結果、機械ごと爆発し、大規模な二次、三次被害を出すことも考えられる。


(迂闊なことはできねえな)


 けど、放置するわけにもいかない。

 なら、答えは一つだ。


(メティスとの決着を先につけよう)


 間合いを詰め、左ジャブから右ストレートを顔面に当てた。


「あぐっ」


 後ろにのけ反りがら空きになった脇に左ボディーブローを食い込ませる。


「ぐうっ」


 手応えはバッチリだ。

 苦しそうな表情から、息が詰まっているのがよくわかる。

 本能的にメティスがあごを上げた。

 気道を確保したかったのだろう。

 そこに、おれは情け容赦なく、右のアッパーであごをかち上げた。

 大の字に倒れたまま、メティスは動かなくなった。

 そのままならいいのだが、またも脈動し立ち上がる。


「いい加減にしろよ。もう力の差は理解したろ? 諦めてトドメを刺されろよ」

「馬鹿を言わないでください。私はまだ戦えます」

「そうかもしれねえけど、自分の格好を見たらどうだ?」


 初めて会ったときと変わらない神官着に身を包んではいるが、その服は汚れてシワだらけだし、自分の血もこびりついている。


「最後に勝てば問題ありません」

「無理だよ」


 四号と合体したいま、負ける要素はない。


「お前が得てるドーピング的な力も、無制限に搾取できるわけじゃないだろ?」


 ベイルたち勇者パーティーはべつだろうが、一般市民から奪える力など、たかが知れている。


「シリア! やりなさい!」

「なあ!? もしあたしが魔法を止めたら、殺さないと約束してくれるか?」


 メティスを無視し、シリアが訊いてきた。


「いますぐやめるならな」


 おれの答えを受け、シリアが機械に手をかざした。

 すぐに紅みが消失し、動きを止めた。


「馬鹿者! 今すぐ再発動しなさい!」

「あんたと一緒にいても生き残れないからね。あたしは降ろさせてもらう」


 風見鶏がごとく、シリアは簡単にメティスを裏切った。


「ふざけたことを言ってないで、言う通りにしなさい!」

「うるさいんだよ! あたしはあんたの部下じゃない。言うことを聞かせたいなら、そこの獣人族に言うんだね。まあ、状況からして裏切られたみたいだけどね。あはは。無様なあんたは、そこでのたれ死ぬしかないんだ」


 メティスを見下し、シリアが(そし)るような言葉をぶつける。

 大勢が優位なほうにつくというのは、利口な生き方でもある。

 けど、相手は見るべきだ。


「レーザーアロウ」


 メティスが放った矢が、シリアの心臓を貫いた。


「えっ!? 嘘!? だって……あたしがいなきゃ……装置……動かせない」


 胸に開いた風穴を眺めながら、シリアは死んだ。


「いいのかよ?」

「構いません。あれで私の決心も固まりましたからね」


 メティスが立ち上がり、魔法を撃つ体勢を取る。


「レーザーショット!」


 シリアのそばにある機械が破壊された。


(自爆か!?)


 その可能性がよぎったが、違うらしい。

 機械に暴発する兆候はなく、小さな爆発音が発せられているだけだ。


「本当は嫌なんですけどね。こうなってしまうと、主の元に帰るまで戻れませんから」


 変化はない。

 けど、ウソやはったりとも思えなかった。


「あ~、嫌だ。またあの醜い姿になるのは、本当に苦痛でなりません」

「おいおい……マジかよ!?」


 それは突然だった。

 メティスの髪と歯が、一気に抜け落ちた。


「にゃああああ!!(なんてこったい!!)」


 三毛猫が驚くのも当然だ。

 と同時に、鳥肌が立った。


(ここにいるのは危険だな)


 おれはリルドと三毛猫を抱え、地上に飛び上がった。


「リルド。こいつを連れて、出来るかぎりここを離れろ」

「わ、わかりました」


 三毛猫を抱え、すぐさま走り出すリルド。

 聞き分けが良くて助かる。


「逃げても無駄ですよ。この世界の住人は、一人残らず殺しますからね」


 穴から、異形の化け物が這い出てきた。

 吊り上がった赤い瞳と、大きな口から覗く巨大な牙。

 黒と白の混ざった体毛に全身を覆われており、細かなフォルムはわからない。

 だが、聞こえてきた声は、メティスのモノで間違いなかった。


「それが、お前本来の姿なのか?」

「いいえ。これは世界を救済するときに使用するモノです。世界を無に帰し、一からやり直させるための姿です」

「なるほど。つまりは世界征服をするってことか。なら、ちょうどいい。大魔王の討伐も、勇者(おれ)の仕事だからよ」


 これが、異世界フォデスで行う最後の戦いだ。


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