表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/339

164話 勇者は四号と合体した

『あああああああああああ』


 最初に悲鳴をあげたのは、勇者パーティーの四人だった。

 みな一様に頭を抱え、もんどり打つように転がっている。

 だれ一人死んでいないことが判明したが、あの苦しみようを見てしまうと、それがよかったのかどうかは疑問だ。

 発狂こそしないが、おれも嫌な記憶が走馬灯のように駆け巡っている。


(これはアレだな。夢魔族の迷宮で体験した悪夢だ)


 おれに対する切り札としては弱い気がするが……


「あれ?」


 地面にヒザをついた。

 身体に力が入らず、立っていられない。

 というより、全身から力が抜けている。


(こりゃ、ヤベェな)

「助けるぞ。いいな」


 四号の提案はありがたいが、二つ返事でお願いします、とは言えなかった。


「お前はそれでいいのかよ?」


 おれの問いかけに、四号が複雑な表情を浮かべた。


「正直、複雑ではあるよ。メティスに世話してもらったのは、事実だからな」


 気持ちはわかる。

 四号がこの世界に来た経緯は不明だが、ごく普通の地球人がこんなところに飛ばされたら、だれかしらの庇護がなければやっていけない。


「メティスが善人じゃないのはすぐに分かったけど……中々な」


 気まずそうにこめかみを掻く四号からは、多様な感情が読み取れる。

 いいことも悪いこともあったのだろう。

 けど、そのどれもが、いまの自分を形成する材料になっている。


「やったことに後悔してるのか?」

「してねえよ」

「なら、胸張れよ」

「張ってるよ。張ってるからこそ、お前に託すんだ」


 胸をドンっと叩かれた。


「おれには思い残すことがねえんだよ。だから、思い残し(それ)がある、お前がやれ!」


 後処理を含めてぶん投げられたわけだ。


(でもまあ、その通りだよな)


 少し前の話じゃないが、システムを作って終わりじゃない。

 管理運営まで責任を持つことが、依頼を請ける最低条件である。


「やらせてもらいます!」

「おう! 任せた!」


 おれと四号はガッチリと握手をし、合体した。

 傷が一瞬で回復し、力も入る。

 状態は万全だ。

 いや、前より断然いい。


(これならイケる!)

「レーザーアロウ」


 立ち上がると同時に、メティスが魔法を撃ってきた。


「よいしょ」


 右手を突き出し、掌に魔素の盾を生み出した。

 ガンッという音と体に伝わる小さな衝撃。

 それ以外はなにもなかった。


「ちっ」


 舌打ちするメティスは、とりあえず保留だ。

 まずは状況確認を優先しよう。

 足元の魔方陣は巨大で全貌を掴むことはできないが、遠くからも発狂したような絶叫が聞こえる。


(城壁内は、間違いなく有効範囲だな)

『うあああああああああああ』

『ぎゃああああああああああ』


 耳に届く阿鼻叫喚の大きさからして、城壁の外の森まで届いている可能性もある。


「感情豊かな子供は夢魔族の好物であり、感情を喰われ続ければ廃人になってしまう」


 というようなことをロールが言っていたが、危ないのは子供だけじゃない。

 ベイルやアローナたちのような強者たちが痙攣しているのだから、常人なら事切れていても不思議じゃない。

 いや、すでにそうなっている者もいるだろう。


「こりゃ、一刻を争うな」


 全滅までのカウントダウンは、すでに始まっている。


「風波斬」

「キャアアアアアアア」


 メティスの身体が真っ二つになり、溶けて消えた。


「ええっ!?」


 パワーアップしたかもしれないが、この結果は予想外だ。

 けど、終わったなら問題ない。


(次だ。次)


 シリアを止めないかぎり、事態は終息しないのだ。


「どこだ? どこにいる?」


 周囲を探るように視線を方々に散らすが……ダメだ。

 手がかりすらない。


「危ない!」


 リルドの声がしたのと同時に、背中に激痛が走った。


「よそ見はいけませんよ。勇者様」


 振り返ると、笑顔のメティスと目が合った。

 その手にはアローナの使っていた剣が握られている。


「このっ」


 怒りを込めて竜滅刀を薙いだが、メティスはヒラリと後方に避けた。


「乱暴者は嫌われますよ」

「卑怯者となら、どっこいどっこいだろ」


 イヤミにはイヤミだ。

 刺さるモノがあったらしく、メティスの口元がヒクヒクしている。


「心の狭いやつだな」

「シリア! 出力を上げなさい」

「いいわよ!」


 魔方陣が光り、負荷が大きくなる。

 体力が急速に削られ、背中の痛みが増す。


「風波斬!」


 跳び上がり、地面に斬撃を叩きつけた。

 土が削られ魔方陣が欠けたが、影響はなさそうだ。


「元を潰さなきゃ意味ねえな」

勇者様(あなた)に出来ますか?」

「出来る!」


 小馬鹿にしたような口調に、おれははっきりと答えた。

 けど、すぐには無理だ。

 メティスを放っておくことはできないし、シリアの居場所もわからない。


「でりゃ」


 袈裟斬りに振るった竜滅刀が、メティスを斬った。

 手ごたえはある。

 けど、これではダメだ。


「ふふっ。今度は油断しないのですね」


 すぐに元通りに回復してしまう。

 たぶん、細切れにしても同じだろう。

 魔法で細胞一つ残さず消滅させても、復活する可能性は否定できない。


(でも、試してみる価値はあるか)


 魔素を手の平に集中させた。


「ファイヤー」


 ボールというのはやめた。


「ふふっ」


 笑いながらメティスが移動したのは、勇者パーティーがうずくまるすぐそばだった。

 おれが本気でファイヤーボールを撃てば、あいつらも巻き込んで殺してしまう。

 敵ではあるが、殺したいほど憎んではいない。

 それに、あいつらも被害者だ。

 同情はしないし、仕える相手を間違えたのも自業自得だが、


『アアァァああァァグアガァ』


 頭を抱え悶え苦しむ以上の制裁は必要ない。


「お前、本当に性格悪いな」

「誉め言葉として受け取っておきます」


 メンタルも立て直したのか、イヤミも効かなくなってしまった。


(どうしたもんかな……)


 時間はない。

 こうして悩んでいる間も、どんどん体力は減少している。


「にゃああ!(集中しろ!)」


 三毛猫の声にビクッとした。


(まったくもって、その通りだな)


 油断して、背中に傷を負ったばかりではないか。


「サンキュー」

「にゃ(いいってことよ)」


 三毛猫はリルドに抱きかかえられながらも、男前な表情を浮かべていた。


(んん!?)


 不安そうな表情を浮かべているが、リルドは平然と立っている。


「無事なのか?」

「多少辛いですが、問題ありません。夢魔族の力は、獣人族には効きづらいですから」


 そういえば、そんな話を聞いた覚えがある。


「なら、一つ頼めるか?」

「物によりますね。メティス様に弓引くことはできません」

「なら大丈夫だ。夢魔族のシリアの居場所を探ってくれ」

「ふふっ、ご乱心ですわ。勇者様」


 言葉の表面を見れば、それで間違いない。

 けど、おれはリルドが動くことを確信している。


「見つけたときの伝達方法はいかがしましょう?」

「空にドデカい魔法をぶっ放してくれ」

「了解しました」


 トコトコとリルドが走り出した。


いいねやブックマーク、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ