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159話 勇者の前に勇者パーティーが揃った

 押し込まれる龍殺滅死斬と、押し返す風波斬。


「ゼリャアアアアアアアア」


 互いの力は拮抗しているが、アローナの気合いに呼応するように、龍殺滅死斬の勢いが増していく。

 漫画やアニメでよく見るアレだ。


(このままじゃ押し切られちまうな。おれも強く踏ん張んねえと)


 イメージとしては相撲だ。

 土俵を割ったら負けであり、その先に待っているのは死だ。


「でぇりゃああああああ」


 気合いを入れて押し返そうとするが、全然動かなかった。


(キツイなぁ)


 経験したことはないが、関取と組み合ったらこんな感じなのかもしれない。


(って、んなわけねえか)


 アスリートと身体を鍛えていないIT屋が互角であるわけがないし、どうこうできる理由もない。

 けど、負けるわけにはいかなかった。


「ぼくは死にません!」


 シチュエーションは違うが、自分を鼓舞するために有名なセリフを叫んだ。

 意外と余裕だな、と自分でも思うが、実際その通りであった。

 肉体的にはまあまあ辛いが、くだらないことを考えるだけの気持ちのゆとりは持ち合わせている。

 これがあるうちは大丈夫だし、余力がある証拠でもある。


「うるさい! あんたは死ぬのよ!」


 思わぬアンサーだ。

 異世界人であるアローナが地球のドラマなど知るはずがないから、心境の吐露と受け取ったのだろう。


「いい加減! 死になさぁぁぁぁぁい!!」


 押し込まれる力が、もう一段階強くなった。


「ちょっ、おい!? マジかよ!?」


 踏ん張っている脚は大丈夫だが、石畳にヒビが入った。

 割れるのも時間の問題だ。

 この状況で足元がおぼつかなくなるのは、非常にマズイ。

 肉体的にも精神的にも土台は重要であり、そこが揺らぐと、すべてが崩れてしまう。


「おりゃああああああ」


 押し返しながら前進したが、周囲の石畳にはすでに亀裂が入っており、元いた場所と大差なかった。


(んじゃ、このまま押し切るしかねえか)


 アローナも同じ考えらしく、力を振り絞ってくる。

 北風と南風がぶつかり上昇気流を発生させるように、威力を増し続ける龍殺滅死斬と風波斬(二つの技)が、あらゆるモノを引っ剥がしていく。

 ミシミシバキバキといった破壊音から察するに、建物が壊れるのも時間の問題だ。


「にゃあああああああ」


 三毛猫の悲鳴が耳に届いた。

 無事であることを祈るが、確認してやる余裕はない。

 集中力を少しでも乱したら、やられてしまいそうだ。

 とはいえ、このままでは被害ばかりが大きくなる。


(全力でやるしかねえな)


 矛盾した表現になるが、おれは余力を残した状態で全力を出している。

 この先に待ち構えている、メティスとの戦闘も考慮しての選択だ。


(けど……そうもいってらんねえな)


 どちらにせよ、第一関門(アローナ)を突破しなければ、その先はない。

 まずはここに打ち勝つことが優先だ。


(よし! やるか!)


 覚悟を決め、柄を握る手に力を込めた。


「風波」


 斬! と言い切る前に、龍殺滅死斬と風波斬が消滅した。


「んん!?」


 呆気にとられるおれの前には……


「はあはあはあ」


 肩で大きく息をしているアローナがいた。

 額には大粒の汗が浮かんでいて、ヒザも笑っている。

 疲労困憊の様子からして、技を維持できなくなったのだろう。

 おれも第二波を撃とうと構え直したから、一波目の風波斬に力を送っていなかった。

 たまたま同じタイミングで技の維持を放棄したがために、双方の技が干渉しあって消失した……のだろう。


「ッテ」


 割れたガラスが頬をかすめ、痛みが走った。


「ふざけんじゃないわよ!」


 アローナが怒声を張り上げた。

 なんのことやらわからないが、それはこちらのセリフである。


「なんであんたが無事なのよ!?」

「無事じゃねえよ」


 頬を拭った指には、血がついている。


「あたしは本気で放ったの! 一〇〇じゃなく、二〇〇パーセントの龍殺滅死斬を!」


 そこに異論はない。

 何度か見てきたが、そのどれよりもすごかった。

 おかげで、街が滅茶苦茶だ。


「あんたは死ななきゃいけないの! 絶対に死ぬはずだったのよっ!」


 駄々っ子のように地団太を踏まれても困る。

 おれに死ぬ気はないし、殺されてやるつもりもない。


「でないと……あたしが……」


 アローナの顔に、悲壮感が漂い始めた。

 夢魔族の迷宮で、悪夢を体感させられたときのそれに似ている。

 いまもってそれが影響するほど壮絶な体験をしたのかもしれないが、それはそれだ。

 敵として対峙しているおれには関係ない。

 むしろ、この好機を逃す手はない。

 殺す気はないが、そこそこの一撃を浴びせて退場してもらおう。


「しっかりしろ! アローナ」


 おれが行動に移すより早く、ベイルが乱入してきた。


「そうだ。我ら勇者パーティーが膝をつくということは、世界が闇に支配されるということだぞ」


 ガンロックも戦線復帰だ。

 面倒臭いことこの上ないが、いまの発言は許容できなかった。


「人を魔王のように言うじゃねえよ」


 …………


 抗議したが、だれも取り合ってくれない。

 まるで、いないかのような扱いだ。


「頑張ってください、アローナ。あなたとベイル。二人の勇者が揃えば、打ち破れない悪は存在しません」


 いつの間にか、ガンロックの横にはマリアナがいた。

 容姿、声、着ている服などからして、魔法皇国トゥーンで戦ったシスターで相違ない。


(ここにいるってことは、マリアナも勇者パーティーの一員なんだろうな)


 ガンロックとマリアナに添えている両手で回復魔法を使用しているので、間違いないと思う。


「みんな」


 仲間の登場に気が緩んだのか、アローナの瞳に涙が浮かんだ。


「やるぞ。剣を構えろ」


 涙を拭ったアローナが、ベイルの言葉に応える。


「そうだ。勇者の道は、戦士であるこのガンロックが拓いてみせる」

「サポートはお任せください」


 四人が互いを支える姿は、一つの大きな柱のようだ。


(うん。なんか勇者パーティーっぽいな)


 一致団結し、最後の力を振り絞る感じは画になる。

 見せ場だし、胸熱の展開が予想できた。


(けど、そういうことは余所でやってくれよ)


 正直、辟易する。

 大体にして何度も、いや何度でもいうが、これではおれが悪役ポジションではないか。

 状況からして確実に退治される役柄であり、彼らの引き立て役にほかならない。


「もう一度やるわ! みんな、力を貸して!」


 やる気が闘気に変わり、アローナの全身から立ち昇っていく。


(もう、なにを言っても無駄だな)


 諦めよう。

 おれが魔王なら、それでもいい。

 どんなに言葉を重ねようとも、解り合うことはないのだ。

 それに、これ以上青春ごっこに付き合っているヒマはない。

 さっさと終わらせて、メティスと決着をつけよう。

 おれたちは互いの覚悟を決め、武器をかまえた。


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