表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/339

158話 勇者対アローナ

 迫りくる斬撃は、細く小さかった。

 街中かつ人込みであることから、アローナは龍殺滅死斬の威力を抑えたのだろう。


(いや、違うな)


 前に見たそれとは似ても似つかないから、たぶんべつの技だ。


(ってか、コレ……ただの飛ぶ斬撃だよな!?)


 避けるのは簡単だし、当たっても大したダメージは負わない気がする。

 初手で決める、と息巻いていたが、これでは無理だ。

 だとするば、べつの目的があるのだろう。


(なんだろうな?)


 思いつくのは、市民が逃げる時間稼ぎをすることであったり、戦場を移すことで街への被害を減らすこと、などである。

 もし仮にそうだとするなら、おれに異論はない。

 けど、賛同できるのは前者だけだ。

 メティスと決着をつける以上、戦場になる城下町が無傷で済むことはない。

 むしろ、城下町だけで済めば上出来だ。

 多かれ少なかれ、必ず犠牲は生まれる。

 その覚悟は出来ているし、批難から逃げるつもりもない。

 けど、可能なかぎり犠牲は減らしたい、というのも本音である。


(そのためには、コロコロと戦場を変えるべきじゃねえんだよな)


 平時有事にかかわらず、人が動ける速度などたかが知れている。

 大事なのは、ここに留まれば危ない、と認識させ、避難するように誘導することである。


「よいしょ!」


 アローナが放ったのと同程度の風波斬を撃った。

 互いが激突し、相殺された。

 爆風も衝撃波も生むことなく、静かなものだ。

 けど、戦闘の緊張を生み出すことには成功した。


「戦えない者は、さっさと避難しなさい!」


 アローナが城の外を指さす。

 危機感も重なり、若い連中はすぐに走り出した。

 けど、老人や子供はそうはいかない。

 老人は動くのに時間がかかるし、子供たちは事態を把握するのに時間がかかる。


「あたしはあんたのことを、少しだけ買ってたのよ」


 急な話だが、時間稼ぎにはもってこいの手法だ。

 何食わぬ感じで付き合ってやるのが、大人の対応だろう。


「おれはお前の露出狂的な部分は、改めたほうがいいと思ってたぞ」

「殺す!」


 アローナが斬りかかってきた。

 短気なやつだ。


(まあ、確信犯だからあわてることはねえけどな)


 アローナの一撃を、竜滅刀で受けた。


「でぇ? お前が勇者っていうのは本当なのか?」

「ええそうよ。あたしは天啓を受けた正真正銘の勇者。文句ある!?」


 接近戦なら周りへの被害も少ないと判断したのか、その表情は次第に好戦的なそれへと変貌していく。


「いや、文句はねえけど、ベイルってやつも勇者を名乗ってるぜ」

「彼も天啓を受けているからね。間違いじゃないわ」

「天啓ってなんだよ?」

「神様の言葉よ。あんたそんなことも知らないの? 馬っ鹿じゃない」

「無知だからこそ教えてくれよ。神様の言葉ってあれか? ある一定の年齢になったら、全員が恩恵やらスキルを授かる、みたいなやつか?」

「んなわけないでしょ。天啓は選ばれし者のみが聴く神の声よ」

「じゃあ、神様には直接会ったのか? それとも、声だけが降ってくるパターンか?」


 おれは死んでサラフィネに会い、勇者になった。

 もしかしたら、アローナたちも同類なのかもしれない。


「ベイルは神の代弁者であるメティス様から神託を授かったけど、あたしは直でお会いして、勇者に任命されたわ」


 二パターンあるようだ。

 けど、それより気になったのは、アローナの表情である。

 神様に会って勇者という誉れを授かったにしては、苦々しい表情をしている……ような気がしてならない。

 それと、メティスが神の代弁者というのも、信じがたい。


「あの」

「おしゃべりはここまでよ」


 おれの言葉はピシャッと遮られた。

 短い時間であったが、住民の避難は完了したようだ。


「全力であんたを殺すわ」


 次いで放たれたのは、言葉と同様の鋭い斬撃だった。

 宣言通りではあるが、これでは無理だ。


「よっ」


 アローナの袈裟斬りを、かち上げるように弾いた。


「やるじゃない。でも、まだまだ」


 弾かれた反動を利用し、アローナは回転しながら逆袈裟に剣を振るう。


「それっ」

「まだまだまだ」


 一合二合三合……と、互いの剣閃がぶつかり火花を散らす。


(やっちまったな)


 歯噛みした。

 ここにきて、おれは気づいた。

 いや、気づかされた。

 元々、アローナの一撃は鋭く重いのだが、そこに反動が加わったことで、重さと速さが加速度的に増している。

 初期段階なら力づくで静止させることも可能だったが、いまの手に伝わる感触からして、もう無理だ。

 それ相応の力で対処しなければ押し切られてしまうし、受け流すことしかできない。


(まんまとハメられたな)


 いや、後手後手に回った時点でダメだったのだろう。


(なら、これはどうだ!?)


 逆袈裟に対し、両手持ちにした竜滅刀を薙ぎでぶつけた。


(ダメだな)


 剣線のむきが変わるだけで、勢いは衰えなかった。


「にゃあぁぁ(あぶないぃぃ)」


 叫ぶ三毛猫の気持ちもわかる。

 最早、いつ当たってもおかしくない。

 おれも三毛猫も。

 逃がしてやりたいが、そんな余裕もなかった。


(しかたねえ。奥の手を出すか)

『ブースト!』


 おれとアローナの声が重なった。

 苦虫を潰したような表情をしているであろうおれと、してやったりという表情を浮かべるアローナ。

 それだけで、どちらが有利かは語るべくもない。


(このままじゃジリ貧だな。どうにかしねえと)


 現状の両手持ちから片手持ちに切り替え、あいた手で魔法を放つ。

 トライしてみる価値はあるが、成功の可能性は薄いだろう。

 理由は片手持ちで竜滅刀を振っても、防げるのはいいとこ二、三撃だ。

 下手をすれば、一発で竜滅刀が弾き飛ばされる可能性だってある。

 あいた手で魔法を放っても、状況を打開できるだけの威力を出せるかも疑問だ。

 強い魔法を放つには魔素の凝縮が不可欠だが、そこに集中する余裕がない。

 考えるよりも感じろ。

 ジークンドーの達人が映画の中で言った有名なセリフだが、それを実践するには圧倒的に経験値が足りていない。

 ゆえにこの状況で撃てる魔法などたかが知れているし、当たっても大した影響はないだろう。


「充分ね」

(あっ、ヤバイ!)


 本能的にそう感じた。


「逃げろ!」


 三毛猫がおれの肩から飛び降りた。

 こいつもここにいたらヤバイと感じたようだ。

 中々の危機察知能力だし、思い切った行動力も良し。


「龍殺滅死斬!」

「風波斬!」


 自分を含め、周りがどうなるかは二の次だ。

 全力でやらなければ、間違いなく死ぬ。

 アローナとおれの渾身の必殺技が、至近距離で激突した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ