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152話 勇者たちは墓を作る

「穴、掘るか?」


 足元にはロールたちが眠っている。

 隣りに埋めてやることは出来ないが、そこに近づけてやることは可能だ。


「私がやります。少し離れてください」


 断固とした意志が感じられ、おれと三毛猫は距離を取る。


「レーザーショット」


 魔力球が生み出され、地面に穴をあけいく。

 深さ、幅、ともに一メートル前後といったところだ。

 小さくも感じるが、墓と捉えるなら充分だろう、


「布袋はどうする?」

「外してください」

「あいよ」


 穴に降り、ゆっくりと布袋を地面に降ろした。

 頭蓋骨などの大きいパーツが破損することはないだろうが、小骨はどうしても欠けやすい。

 なるべくそうならないように、慎重に布袋を引き抜いた。

 リルドのような熱い想いはないが、死者に対しての敬意は忘れてはいけない。

 穴から出る際も、小さな骨を踏まないように細心の注意を払った。


「ありがとうございます」

「気にすんな」


 おれとリルドと三毛猫が、並んで穴を出て見下ろした。

 半分も埋まっていない。

 あんなに大きかったガウも、骨になってしまえばここで充分だった。


(まあ、村人に砕かれた部分(ほね)もあるからな)


 死してなお怨嗟をぶつけられるのは悲しいことだが、夢魔族も死にかけていた。

 その原因であるガウに対しての行為だから、理解はできる。


(けど、肯定はできねえよな)


 やるせない気持ちが、胸中に渦巻く。

 おれでこうなのだから、リルドはなお複雑であろう。


「にゃあ(砂かけは任せろ)」


 三毛猫がものすごい勢いで墓を埋めていく。


「ここをどうするおつもりですか?」

「ロールとの約束通り、埋めてやるよ」


 おれの答えはそれ以外ない。


「どうやってですか?」

「まあ、魔法でドン! だろうな」


 ほかの選択肢もあるが、効率を考えればそれ一択だ。


「では、その役目も譲ってください」

「いいよ」


 断る理由はない。

 約束したのはおれかもしれないが、ロールたちも四天王(なかま)の手で埋葬されるほうが嬉しいだろう。


「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げ、リルドが墓の中をじっと眺めている。


「ロール。ガウ。安心してお眠りください」


 三毛猫がかける砂が、ガウの骨を隠していく。

 おれたちはその姿がなくなるまで、黙って見つめていた。


「サンドショット!」


 リルドが複数生み出した砂の塊を、通路の入り口に放った。

 それらは見事に通路を塞ぎ、ここに入る道をすべて潰していく。

 それはいいが……おれたちの出口まで塞がれてしまった。


「どうやって出るんだよ」

「上にあるじゃないですか」

「まあまあ高いぜ」

「あなたなら余裕でしょう」


 その通りだが、確認はしておきたい。


「それっ」


 おれはジャンプした。


(うん。大丈夫だな)


 余裕で穴の外に出れた。

 リルドや三毛猫を抱えても問題ない。

 着地したおれは、オッケーサインを示した。


「では、やります」


 リルドが体内の魔素を凝縮していく。


「サンドボール」


 大きく濃く膨れ上がった魔素が超巨大な土の塊となり、空に撃ち出された。


「マジかよ……」


 リルドぐらいの上級者なら土砂を生み出せるものと思っていたが、そうは問屋が卸さないらしい。

 落ちてくるまでに逃げなければ、おれたちまで生き埋めになってしまう。


「猫」

「にゃあ!(あいよ!)」


 三毛猫がおれの肩に飛び乗った。


(重っ)


 ずっしりとくる。

 見た目は二倍だが、重さは三倍以上だ。

 けど、それにかまっている時間はない。


「いきますよ」


 リルドは自分の魔力で浮こうとしているが、おれが抱えたほうが早そうだ。


「怒るなよ」


 腰に手を回し、小脇に抱えて跳び上がった。


「セクハラ~~~~~~~」


 抗議の声をあげるが、おれの判断は間違っていなかった。

 おれたちが地上に出るのと、土の塊が穴に消えるのは、紙一重だった。


「あっぶね~」


 サンドボールは穴にピタリとはまっている。

 若干高さが足りていないのはご愛敬だが、調整してこのサイズなのは間違いない。


「あの、離していただけませんか?」

「おお、わりぃわりぃ」

「レーザーショット」


 立たせたリルドが即座に魔法を放ち、サンドボールが砕けた。


「アイスショット。ファイヤーショット」


 氷と炎の魔法が互いに作用し、水になる。

 騎士に当てたときは蒸発していたから、これもそうなるように調整しているのだろう。


「いやぁ、すげえな」

「サンドショット」


 感心するおれを横目に、リルドが再度土の塊を落とした。


(なるほど)


 泥が隙間を埋めつつ、乾いた後、層になるようにしているわけだ。

 掘り返しにくくするのも狙いだろう。


 …………


「これでいいですね」


 同じ工程を数度繰り返した後、リルドは満足そうにうなずいた。

 おれも十分だと思う。

 迷宮は埋まり、平らな地面に早変わりしている。

 これでもう、眠りを妨げられることはないだろう。


「では、決着をつけますか」


 舌の根も乾いていないが、あるかもしれない。

 リルドが醸し出している雰囲気は、戦士のそれだ。


「ここではやめないか?」

「そうもいきません。ここには監視の目がありますからね」


 なんのことやら? とは思わない。

 リルドが言っているのは、村の外に行かせた騎士団のことだ。

 白銀の珠の影響で吹き飛んだが、状況確認のために戻ってきていた。

 基本的には木の陰に身を隠しいるが、何人かは堂々とこちらを伺っている。


「ブースト」


 身体能力を向上させ、リルドが地を蹴った。


「ぶべっ」


 二歩目で転んだ。


(またか。ひょっとしてこいつ、運動音痴か?)

「やはり履きなれない靴は駄目ですね」


 ヒールを脱ぎ、リルドは運動靴に履き替える。


「おい。その靴どこから出した」

「秘密です。ただこれだけは覚えておいてください。女の身体には、秘密の収納庫がいくつもあるのです」


 ツルペタが偉そうに言うな! なんて非人道的な発言をする気はない。

 ここはスルーを決め込むのが礼儀だ。


「馬鹿にしてますね!? 許しません! ウインドショット」


 被害妄想だ、とは言わないし、言えない。

 ほんの少しだが、おれの中にその気持ちは存在していたのだから。


「ウインドショット。ウインドショット」


 下級魔法でどうにかなるほど、おれは弱くない。

 それはリルドも理解しているはずだ。


(なんか目的があるんだよな?)


 風の弾丸を避けながら、思考を働かせる。


「ウインドショット。サンドショット」


 攻撃も単調であり、当たっても致命傷になることはない。


「やはりこの程度では無理ですか。仕方がありません。次の手です」


 説明くさいセリフであり、察しろということなのだろう。

 けど、さっぱりわからない。


「ですがその前に、猫ちゃん。私の靴を持っていてくれますか?」

「にゃん(任せとけ)」


 三毛猫がおれの肩から降り、リルドの脱いだヒールを両脇に抱えた。


「何があっても離さないでくださいね。絶対にですよ」

「にゃん(了解した)」

「では、いきます! ウインドアロウ」


 リルドの五倍はありそうな巨大な弓矢が生み出された。


(見ただけでわかる。アレはヤバイやつだ)


 周囲の風がうごめいている。

 台風かそれ以上の風速だ。

 懸命に踏ん張っているが、飛ばされるのも時間の問題だろう。


「にゃ~~~~~」


 三毛猫はすでに飛ばされているが、木の幹に後ろ足を絡めなんとか持ちこたえている。

 リルドとの約束を守り、前足でヒールを抱え続けているのはさすがだ。

 類いまれな男気を感じる。

 台風の中心は比較的風が弱いのか、リルドだけは平然と立っている。


「喰らいなさい。ショット!」


 矢が放たれた。

 避けることは可能だが、おれはあえてそれを受けた。

 とんでもない衝撃だ。

 轢かれたことはないが、大型トラックに追突されたらこんな感じだろうな、という想像がなんなくできる。


「グフ」


 量産型を生み出し、おれは彼方に飛ばされた。


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