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147話 勇者は名言を明言を実行する

 三人目の四天王は、女の子だった。

 身長は一五〇センチあるかないか。


(……ないな)


 結構な高さのヒールを履いている。

 あれでこの高さなら、ちびっ子確定だ。


(んん!?)


 リルドは赤いシャツと青いスカートを身につけ、その上に黒いマントと黒いカラーコーンのような三角帽をかぶっている……のだが、帽子のつばから猫のような三角耳が飛び出しているではないか。


(まさか……あれがそうなのか!? おおっ!)


 背後には細長い尻尾のようなものも見え隠れしている。


(初めて見たな。これがリアル獣人か)


 漫画やアニメではおなじみだが、本物を前にすると興奮してしまう。


「アイスショット」


 まじまじと観察するおれに、リルドが複数の氷の弾を放ってきた。

 下級魔法をチョイスした意味があるのかは知れないが、追尾機能なども考慮し、おれは大きく横に跳び退った。


「ぐあああ」


 氷の弾はおれの背後にいて反応できなかった騎士たちに命中し、一瞬でカッチンコッチンの氷漬けにした。


「ファイヤーショット」


 続けざまに放たれた火球が氷漬けになった連中に命中し、ゴウッと一瞬だけ火柱が立ち昇らせる。


(あいつ、死ぬんじゃねえか?)


 おれの心配をよそに、火柱はすぐに消えた。

 たぶん、互いを相殺したのだろう。

 バタバタと騎士が倒れていく。

 ピクピクしているから、凍死せずに済んだようだ。


「あの程度の魔法を避けられないなら邪魔です。いますぐ村から出ていきなさい!」

「ですが」

「口答えは無用です。村の外を囲い、犯罪者の逃亡を阻止しなさい」


 突然の戦力外通告に騎士団は異を唱えようとするが、リルドはそれを認めない。


「了解……しました」


 心の底から納得はしていないようだが、騎士団は村の外へと姿を消した。


「ここからは本気でいきますよ」


 リルドから強烈な魔素が立ち昇る。


(なるほど)


 全力を出すには、あいつらが邪魔だったようだ。


「ブースト!」


 かなりの身体向上が予想される。

 獣人だけに元のスペックも高いだろうから、油断は禁物だ。


「レーザーアロウ!」


 魔法の矢は、二メートルを優に超すほど大きくて太かった。

 威力もそれに比例するだろうから、騎士団を避難させたのも納得だ。


 ゴクッ


 当たれば甚大な被害を与えるモノを前に、唾を呑んだ。


「ショット!」


 放たれた矢を避けることは出来るが、それをすることは許されない。

 勝つにしろ負けるにしろ、すべての責任はおれに()される。

 なら、戦果は大きく、被害は小さくするに越したことはない。


「風波斬!」


 割と力を入れて、竜滅刀を振るった。

 村のど真ん中で両者が激突し……消えた。

 完全な五分だ。


「やりますね」

(マジかよ!? あの威力はヤベェだろ!?)


 不敵に笑うリルドに対し、おれは内心で冷や汗をかいていた。

 まだまだ余力がありそうな雰囲気からして、リルドの実力はガウやロールより上かもしれない。


(あ~っ、おっかない!)

「小手調べは終わりです。いきますよ!」


 震えるおれにかまうことなく、リルドが地を蹴った。


「ぶべっ」


 二歩目で転んだ。

 勢いがついていたのもあり、結構な距離をヘッドスライディングで滑った。


「やりますね」


 ムクリと起き上がり、リルドがニヒルに笑う。


「いや、なにもやってませんけど!?」

「そうですか。手の内は見せないということですね。さすがです」


 おれがなにかやったみたいな雰囲気を醸し出しているが、事実無根である。

 おれは本当に、なにもやっていない。


「接近戦は危険ですね。ここはやはり、魔法勝負でいきましょう。ファイヤーサンダーショット」


 二種の魔法が顕現し、空中で一つに混ざる。


「喰らいなさい」


 それが複数降り注ぐ。

 おれにむけられているのが三つあり、ほかのモノは退路を限定する牽制用だ。


「はああああああああああああああ」


 間髪入れず、シリアが魔素を凝縮し始めた。

 いまと同じか、それ以上の魔法が放たれるのは、疑いようがなかった。

 なら、体勢は保っておくべきだ。


「せりゃ!」


 むかい来る魔力弾を竜滅刀で斬った。


「アババババババ」


 内包されていた電気が体内を駆け巡る。


(こりゃマズイな)


 竜滅刀は手放していないが、力が入らない。

 ブルブル震えているのも問題だ。

 けど、それよりもヤバイことがある。

 シリアの右手に存在している、白銀の珠だ。

 サイズは硬式の野球ボールぐらいだが、内包された魔素量が尋常じゃない。


(あれはマジでシャレにならんやつだ!)


 対処しなければ、確実に死ぬ。

 けど、痺れが収まらない。


「もらったああああああああああああああああああ」


 グッと左足を踏み込み、前傾姿勢を取るシリア。

 その姿は、メジャーリーグ屈指の剛腕投手ペドロ・マルティネスを想起させた。

 後は勢いよく腕を振り、白銀の珠を投げるだけだ。


「グランインパクトォォォォおおおおおおお!?」


 軸となる左足が滑った。

 正確にはヒールが折れて、バランスを崩したのだ。


「ちょちょちょちょちょ」


 身体が左に流れ、シリアはプチパニックに陥る。

 そこで技の発動を諦めればよかったのだろうが、シリアは倒れながらも懸命に腕を振った。

 スポ根漫画なら奇跡的な展開が用意されている場面だが、これは無理だ。

 手のひらからすっぽ抜けた白銀の珠に力感はなく、一〇メートルも離れていないおれに届く気配すらなかった。

 現状、山なりの珠はおれとシリアの間に着弾する。


『あっ!?』


 声が重なった。

 けど、意味合いは違う。

 おれはあれが地面に着弾するのはマズイと思ったから、声を出したのだ。

 白銀の珠には、間違いなく原爆クラスの破壊力がある。

 そんなものが着弾すれば、ロールたちの遺体が消し飛ぶのは間違いない。

 安心して眠らせる。

 そう約束した直後に、墓を掘り返すような行為は許容できない。


「どどど、どうしましょう!?」


 シリアはシリアで、あれが炸裂すれば自分も巻き込まれると気づいたらしい。


「ブースト!」


 走った。

 いまは痺れるだなんだと言ってる場合ではない。


「あの月に向かって打て!」


 遠い昔に残された名言を口にし、おれは竜滅刀を振るった。

 白銀の珠を斬るのではなく、腹に乗せかち上げるためだ。


「せーダダダダダ」


 ダメだ。

 腕が痺れて力が入らない。

 というより、白銀の珠が超絶重い。

 サイズは野球のボールだが、中身はあさま山荘にぶち込まれた巨大鉄球と錯覚するほどの重量を感じる。


「あっ、ヤバい」


 竜滅刀が手からこぼれた。

 万事休すだ。


「ヒール」


 シリアの回復魔法がおれを包んだ。


 !!


 一瞬で痺れが消えた。


(これならいける!)


 地面に落ちるまでの数秒で柄を握り直し、


「うりゃああああああああああああああああ!!」


 竜滅刀を再度かち上げた。

 完璧なホームランは手応えがない。

 多くの名選手がそう言い残しているが、おれがその体験をすることはないと思っていた。

 けど、いまそれが理解できた。

 一瞬前に感じた白銀の珠の重みは消え、まるでバトミントンのシャトルのような軽さすら感じる。

 本気を出せば、月まで飛ばすことも不可能ではない。


(いやいや、そんなことしたら、オオカミ男が変身できなくなっちゃうもんな)


 などと、ふざけたことを考える余裕すらある。


「こんぐらいか?」


 おれは適度な高さで止まるよう振り切ることはしなかった。

 それでも白銀の弾は数千メートル上空まで達し、鼓膜を破るほどの爆音とともに弾けた。

 余波が大地を揺らす。

 森の樹々が折れ、村の建物と遺体と騎士団が吹き飛ばされる爆風が吹き荒れた。


「ウソだろ!?」


 その威力に、おれはそうつぶやくしかなかった。


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