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146話 勇者は事態を少しだけ理解する

「馬鹿者……」


 右手で顔を覆うメティスに対し、ガンロックは不思議そうな表情を浮かべている。

 当然だろう。

 ガンロックからすれば、自分は仲間の汚名をそそいだだけだ。

 褒められこそすれ、批難されるいわれはどこにもない。

 けど、それが問題なのだ。


「ずっとおかしいとは思っていたんだよ。なんでこうも邪魔がはいるのかな? ってよ」


 ロールやシリアと戦い、もう少しでなにか解りそうになったり、決着がつきそうになると、必ず邪魔が入った。

 一度や二度なら偶然で片付くが、この異世界に来てからずっとである。

 これをおかしいと思わないやつは、どうかしている。

 もしくは、命令されたことしかやらない主体性ゼロのアホだ。


(おれはそうじゃないからな。バリバリに怪しんでいたぞ)


 胸を張るが、口には出さない。

 どうせバカにされるだけだから。

 でも、これでわからないこともできてしまった。


「夢魔族って。お前らの仲間なんだよな?」


 これは本当に謎だ。

 正直、どっちにもとれる。

 時間を稼ぐような行動もあり、全員がグルであったとも考えられる。

 ベイルが救助し生き埋めにしなかったのも、そのためだ。

 けど、アローナに対する仕打ちを考えると、到底仲間とは思えなかった。

 心が崩壊しかけるほどの精神攻撃を、演技だとしてもするのだろうか?

 実際はおれが受けた精神攻撃のように、大したものではなかった、という可能性もあるが、あれが演技だとは思えない。

 もしそうなら、冒険者より役者を目指したほうが成功するだろう。


「馬鹿も休み休み言え! 夢魔族が仲間などということが」

「ガンロック! 黙りなさい!!」


 怒号に近いメティスの叫びが、ガンロックの言葉を遮った。

 声だけではない。

 全身から怒りのオーラがあふれ出している。

 そのあまりの迫力に、怯えた騎士団の足が止まる。


「それは出来ません。沈黙は肯定と捉えかねられます。それでは、命を懸けた者たちに申し訳がたちません!」


 唯一、ガンロックだけは尻込みすることなく、メティスの目を見て反論した。

 一歩も引く気はない。

 彼の瞳は、そう雄弁に語っている。


「そうですか。わかりました。では、あなたには退場してもらいます」


 説得は無理と悟ったのか、メティスが手のひらをかざした。

 そこから魔素の玉が生まれ、ガンロックを包む。


「リターン」


 呪文と同時に、魔素の玉が割れた。

 弾けたシャボン玉が光りを屈折させるように、魔素の粒子が周囲を幻想的に照らす。

 しかしそれも一瞬で、魔素の粒子はすぐに消えた。

 ガンロックとともに。


「夢魔族は我らの仲間ではない!」


 よほど強調したいことらしく、最後までそう主張していた。


「仲間思いはいいことですが、余計な事まで言いすぎですね」

「それぐらい許容できないってことだろ? 本当の仲間を危険な目に合わせた夢魔族が、仲間扱いされるってことはよ」


 メティスは口を開かなかった。


「沈黙は金、だよな。けど、ガンロックの言葉でわかったよ。お前のシナリオじゃ、夢魔族とおれは仲間なんだな。だから、夢魔族が行った村人虐殺の犯人、正確には共犯なわけだ」

「…………ふうぅ。また、計画変更が必要かもしれませんね」


 肩をすくめ、大げさにため息を吐くメティス。


(こいつは演技の才能がないな)


 わざとらしすぎる。

 企みはあるのだろうが、それでは警戒心をあおるだけだ。


「ウソつくなよ。こんなもんが想定外なわけねえだろ。もしそうなら、お前は前の異世界でおれとの決着をつけてるよ」

「もう少し、扱いやすくてもよろしいのではないですか?」

「充分扱いやすいだろ。ここまで、お前の思惑通り踊ったろ?」


 メティスがかぶりを振った。


「不充分です。私の予想では、もっと夢魔族に肩入れすると思ってましたから」

「これ以上は無理だろ」

「ですね。まさか、夢魔族があれほど激しく行動するとは、私にも予想外でした」


 メティスの考えでは、村長のブネが主導権を握っておれの対応をすると思っていたのだろう。

 彼はガウに怯えていたし、力を取り戻した後も好戦的ではなかった。

 穏やかに暮らしたい夢魔族が、ガウの圧制に苦しめられている。

 それに同情したおれが、弱った夢魔族を守るためにガウを討つ、と計算したのだろう。

 目的達成後におれがどう動くかは微妙だが、自分たちを縛る重しが無くなったとなれば、夢魔族は当然次を狙うはずだ。

 それがこの村の遺跡、と考えるのは容易であった。

 そこにおれの所在がなくとも、夢魔族の暴走の原因を作ったのはおれということになり、ひいてはこの村で発生した夢魔族による虐殺も許容した、といえないこともない。


(滅茶苦茶だよな)


 客観的に見れば無理くりもいいところだが、法を定める治世者が認めれば、それがまかり通ってしまうのも事実である。

 ガウやロールを筆頭に大量の村人たちが死んだとなれば証拠にもなりうるだろうし、それを盾に反乱分子を排除することも可能だ。

 いま行われているのが、まさにそれだ。


「シナリオの修正が必要ですね。その間の相手は、四天王に一任します」

「サンダーアロウ!」


 空から巨大な雷の矢が降ってきた。


「おいおい。二か所で三人目の四天王って、大盤振る舞い過ぎるだろ」

「勇者様には、これぐらいでも優しい対応だと思います」


 飛び避けたおれに、メティスがレーザーショットを見舞ってきた。

 しかも、避けた場所に着地する直前を狙って、である。


「まあ、性格が悪い。驚くね、ほんと」

「あなたほどではありません」


 イヤミも上手だ。

 どう育てばこんなにも歪めるのか、不思議でならない。


「せりゃ!」


 おれは竜滅刀でレーザーショットを斬った。


「残念ですが、今のような不意打ちでどうこうできる相手ではありません。少しは参考になりましたか?」

「油断するな、というメッセージは頂戴しました」


 シュタっと空から人が舞い降りた。


「それが伝わったなら充分です。では、後はお任せしますね」


 メティスが消えた。


「お任せください。ここからは四天王が一人、リルドがお相手します」


 予告通り、三人目の四天王がおれの前に立った。


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