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139話 勇者はロールと交渉する

「まずは小手調べからいこう」


 手品よろしく、ロールが両手で広げたマントの中から、大量のコウモリが飛来する。


「まだ体が痛いんだよ」


 なんてボヤいたところで、待ってはくれない。


(しかたねえ。やるか)


 覚悟を決め、竜滅刀を抜いた。


「風波斬」


 必殺技なのだが、左右に分かれたコウモリたちに回避された。


「その技は通じんぞ」

「みたいだな」


 相手は四天王が使役するコウモリなのだ。

 驚くことはない。


「んじゃ、こっちはどうだ?」

「吾輩を狙うか。なかなかどうして……短気なお人だ」

「効率重視って言ってくれよ」


 間合いを詰め、竜滅刀をロールの脳天に振り下ろす。

 斬った。

 けど、手応えはない。

 二つになったロールが蜃気楼のように揺れ、その姿を消した。


(まあ、そんな簡単にはいかねえよな)


 残念ではあるが、仕切り直そう。


「あらよっと」


 おれはその場を飛び退った。

 直後、さっきまでいた場所に、コウモリの群れが飛びかかる。

 黒山ができた。

 あれ全部に血を吸われていたら、おれは干からびてしまっただろう。


 !!


 背中の空気が揺れた。


「ちっ」


 舌打ちしつつ、うつ伏せに倒れる。

 背後でガチンという音が響いた。

 瞬間移動のように現れたロールが、おれの首筋を狙って噛みつこうとしたのだろう。


「そりゃ!」


 横に転がりながら、回し蹴りを撃つ。

 顔を突き出すロールにヒットしたが、またしても手ごたえはなかった。

 顔面がぐにゃりと揺れ、またも蜃気楼のように消える。


「貴殿はこれまでの雑魚とは違うようだな」


 おれの松明の明かりが届くギリギリのところに、ロールが現れた。


「一つ訊きたいんだけど、先に進んだ雑魚はいるのか?」

「いない」

「雑魚じゃないやつは?」


 …………


 ロールは答えなかった。


(意外といいやつなんだな)


 少なくとも、平気な顔でウソをつけるタイプではないらしい。


「じゃあ」

「悪いが、貴殿と会話を楽しむつもりはない」


 再度、コウモリが襲い来る。


(これぞまさしくバット(ド)コミュニケーション、なんてな)


 コウモリの動きは速いが、暗闇に視界が慣れてきたこともあり、対処に問題はない。

 最小の動きで躱しながら、避け損ねたのだけを竜滅刀で斬る。


「痛いな」

「ということはなにかい? このコウモリはお前なのか?」

「違う。が、同胞が傷つけられれば、心は痛むものだ」


 それはわかる。

 けど、襲ってくる以上、迎撃しないわけにもいかないのだ。

 申し訳ないが、おれはコウモリより自分がかわいい。


「それ以上は許さんぞ」


 ロールが飛びかかってきた。


「死して償え!」


 おれを切り裂こうと、長い爪の生えた両手を盛んに振り回す。


「いや、仕向けたのはおまえだろ!」

「問答無用」

(こいつ滅茶苦茶だな!)


 一撃一撃が速くて重い。

 けど、違和感もあった。

 四天王という冠を頂戴しているだけあって、ロールはひいき目なしに強い。

 けど、どうにもできないほどではなかった。

 万全でないおれが……


(う~ん)


 その理由が実力なら問題はないが、そういうわけでもなさそうだ。

 戦ってみるとよく分かる。

 ロールは全力を出していない。


「お前、どういうつもりなんだよ?」


 訊くと、ロールはおれから距離を取った。


「はあ、はあ……」


 息を切らせているが、それは演技だ。


「はあ、はあ……すべて弾くか。見事だな」

「ずいぶん余裕だな」

「それは貴殿も同じであろう」


 その通りだが、おれとロールでは言葉の意味合いが違う。

 少なくとも、おれは演技をしていない。

 そして、立場も違う。

 侵略者であるおれは、ロールとの戦闘後に休むこともできる。

 だが、防衛者であるロールにそれが可能かと問われれば、わからなかった。

 おれの後ろにはアローナがいるのだ。

 彼女が追い付けば連戦、もしくは二対一の状況になり、不利になるのはあきらかである。

 おれがロールの立場なら、とりあえず最初の侵入者を全力で叩く。

 その結果、後続の人間が怯んで帰ってくれれば言うことなしだ。


「では質問をするが、吾輩が貴殿と不戦協定を結びたいと提案したらどうする?」


 予想外の申し出であったが、おれの答えは決まっている。


「条件次第だが、喜んで結ぼう」


 体も痛いし、戦わないでいいならそれに越したことはない。

 けど、無条件というわけにはいかない。


「条件か。聞かせてもらいたいが、戦いも続けるぞ」


 勝手なやつだ。

 抗議する間もなく、黒山のコウモリが合体し、一匹? の巨大コウモリになった。


「貴殿が思う、一番重要なことは何であるかな?」


 襲い来るコウモリに、無言で風波斬を放った。

 声に出さなかったのは、技名が一番だと勘違いされないためだ。

 初手同様、コウモリは半分に割れて風波斬を躱した。


(合体ロボみたいだな)


 すぐにくっついた様は、昔遊んだ超合金のおもちゃを連想させる。

 けど、そんなことを懐かしんでいる場合ではない。

 交渉は速度が大事であり、滞らせてはいけない。


「おれの求める最も重要な条件は、四億六〇〇〇万ソペの支払いだ!」

「冗談は嫌いだ」


 コウモリが唾のようなものを吐いたので、すかさず避けた。

 ジュワッと唾が付着した地面が溶けた。


「おいおい。おっかねえもん飛ばすんじゃねえよ」

「貴殿がふざけるのが悪い。吾輩は至極真面目な話をしている」

「決めつけんじゃねえよ。おれも真剣だよ」

「なら、四億六〇〇〇万ソペなどと言うわけがなかろう」


 ロールの声に苛立ちが混じる。


「お前の物差しで語ってんじゃねえよ。お前と不戦協定を結んだら、おれはべつの方法でその額を用意しなきゃなんねえんだよ!」


 おれの声にも怒気が滲む。


「それともなにか? お前との不戦協定はおれたちの間だけ有効で、この先にいるだれかは殺してもいいのか?」

「気づいているか!?」


 ロールが動揺したためか、コウモリたちの合体が解けた。


「んなわけねえだろ。適当に言っただけだよ」


 これは本当だ。

 推理とも呼べないラッキーパンチが当たっただけだ。


「貴殿は底が見えぬな。メティス様が警戒するのも理解できる」


 ロールの口から出た名前に、今度はおれが動揺する番だった。


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