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128話 勇者対四天王ガウ~意外な決着

「ガウ様! どうか考えをお改めください! 我ら夢魔族に反乱の意思などございません。此度のことも、飢えをしのぐために仕方なく行ったことです」

「どこに飢餓に喘ぐ者がおる? 俺様には肥えた夢魔族しか見えんぞ」

「昨夜までは本当にそうだったのです! その証拠があれです」


 おれが寝ていたあばら家を指さす長老。

 たしかにそこは昨日のままだが、それが証拠になるのだろうか。


「ブフゥゥゥゥゥ!」

「あああ」

「きゃあああ」


 ガウが吹き出した息によってあばら屋はバラバラにされ、近くで巻き添えをくった村人たちもたたらを踏んでいる。

 正面から受けていたら、あばら家同様、吹き飛ばされていただろう。


「ガウガウガウ」

「えっ!? 笑ってんの!? 冗談……だよね」


 楽しそうに肩を揺らすガウを目の当たりにし、心の声が漏れてしまった。


「んあ!?」


 いけない。

 ガウがおかんむりだ。


「誰だ!? 貴様は。見たところ、夢魔族じゃなさそうだな」

「おまえを倒す戦士だ! 文句があるならかかってこい!」


 拳を突き上げながら、朝のお姉ちゃんが息巻いている。


「こらこら、勝手なことを言うんじゃない」

「雑兵が調子に乗るな」

「へんっ。それに負けるおまえはなんなんだ」


 たしなめるおれを無視して、ガウとお姉ちゃんの口論は続く。


「よかろう。どちらが正しいか、教えてやろう」


 ガウが試合前のボクサーのように、両手を打ちつけながら空から降りてきた。


「子供の言ったことなんだから、大目に見てやれよ」

「統治者に逆らうことに、大人も子供もなかろう。第一、貴様もやる気でいるのだろう?」

「バカ言うな。おれは生粋の平和主義者だよ」

「なら、平和を願って俺様に殺されるんだな」


 ガウが地を蹴り、襲いかかってきた。


(おせ)ぇな)


 体当たりと捉えるなら、避けるのは簡単だ。

 けど、そうじゃない。


「ガアァ」


 ガウが右腕を上段から斜めに薙ぎ払うように振るってきた。

 やはり遅い。

 が、避けるのはそう簡単じゃなかった。

 なにせ、ガウの腕は六本もあるのだ。

 それらすべてを器用に動かし、おれを切り裂こうとしている。

 距離を置いていいなら避け続けることも可能だが、ガウはそれを許さない。

 その証拠に、おれとの距離が一定以上離れると、村人に照準を定めている。

 実行に移さないのは、その隙をおれが狙っているからだ。


「速さは一流だな」


 スピードではおれが勝るという事実を認めながらも、焦る様子がまったくなかった。

 足りないところや劣っているところを受け入れたうえで、上手く対処している。

 冷静かつ、完璧な対応だ。


(こういう相手が、一番やっかいなんだよな)


 自分の長所と短所を正確に理解したうえで、強みを最大限に活かす戦法を身につけている。


(さすがは四天王)


 と言いたいところだが、手をこまねいている場合でもない。

 ここを出て神官メティスと決着をつけねばならないし、四号のことも探さなければならないのだ。

 工程は未定だが、予定だけは詰まっている。


「んじゃ、いっちょやるか」


 覚悟を決め、おれはガウの腕にぶつけるように、竜滅刀を振るった。

 一本でも二本でも斬り落としたいところだったが、相手もバカじゃない。

 しっかりと爪を当てられた。


「マジかよ!?」

「なんだと!?」


 表現こそ違うが、おれとガウの驚きが重なる。

 けど、その意味合いはべつものだ。

 おれは、攻撃を防がれたことに驚いた。

 一方のガウは、竜滅刀によってご自慢の爪が綺麗に斬られてしまったことが、信じられないようだ。


「恐ろしい切れ味だな」


 ガウはそうつぶやくが、焦った様子はなかった。

 それどころか、楽しそうに薄笑いをうかべている。


「今度はそう簡単にはいかんぞ」

「勘弁してくれよ」


 爪が瞬時に再生した。

 見るからに、厚みも増している。


「ガアアァ」


 振り下ろされた爪を、竜滅刀で受けた。

 強度も増し増しで、切断はおろかヒビすら入らない。


「これならどうだ!」


 三本の腕を揃えて振り落とすガウと、竜滅刀で迎え撃つおれ。

 両者がぶつかり、ものすごい衝撃が生まれた。


 !!!!


 圧される。

 吹き飛ばされこそしなかったが、踏み止まることが出来ない。

 いまなお、ズルズルと後方に押しやられている。


(すげえ力だな)


 感心するが、それだけだ。

 どれほど強かろうと、当たらなければなんの問題もないし、力比べを挑まなければどうとでもなる。


「なあ? 昨夜、勇者を名乗る男と戦ったよな?」


 状況だけで推理するなら、その可能性が高い。

 ベイルを刺客として送り込んだから、ガウは夢魔族を制裁に来た、という図式のはずだ。

 けど、そうは思えなかった。


「どう考えても、ベイルが負けるはずねえんだよな」


 実力(ちから)の差は歴然だ。

 剣を合わせれば、それが嫌でも実感できる。


「もう一度訊くけどよ、勇者と戦ってねえよな?」

「おしゃべりをする余裕はなかろうが!」


 ガウが残る腕を振るったが、問題ない。

 おれは後方に跳んで、それを躱した。


「そりゃ!」


 着地と同時に距離を詰める。

 こうすれば、夢魔族が襲われることもない。


「おのれ! 小癪な!」


 一本ずつ弾くだけなら余裕だ。


「なあ、どうなんだよ? 教えてくれよ」

「グッ、ククッ、クソッ」


 六本の腕のどれかを弾かれるたび、ガウが少しだけバランスを崩す。


「なあ、頼むよ」


 右上、左下、右中右下、左中。

 旗揚げゲームがごとく、的確に捌いていく。

 間違えて当たれば致命傷になりかねないが、その危険性はすでにない。

 初めこそ重かったガウの一撃も、バランスを崩しながら無理やり繰り出すため、少しずつ体重が乗らず軽くなっている。

 右下、右上、左下……じゃなくて左中。

 間違えてもリカバーできた。

 それぐらい、ガウの攻撃は速度と威力を落としている。


「せりゃ!」


 上から振り下ろされた一撃を、おれはかち上げるように強く弾いた。


「バ、バカな!?」

「勝負ありだな」


 体勢を保てず尻もちをついたガウの喉元に、おれは剣先を当てた。


「で、どうなんだよ? 勇者を名乗る男と戦ったのか?」

「殺せ」

「いや、そうじゃなくてよ。昨夜勇者と戦ったか訊いてるんだよ」

「そのようなことは些末にすぎん。お前が勝った。それだけで充分だ」


 ダメだ。

 話が通じない。


(ったく、どう訊けば意思の疎通が図れるんだよ)

「その油断が命取りだ」


 ガウが大きく口を開き、火を噴いた。


「これは油断ではなく、余裕だ」


 おれの脳内に、そんな感じのセリフが再生された。

 とある漫画の悪役のセリフだが、若干違う気もする。

 正確には……


(ダメだ。思い出せない)


 昔過ぎた。

 けど、それを体感できただけでも有意義だ。

 コンマ数秒対処が遅れただけで丸焦げになりそうな状況なのだから、なおさらである。


「よっ」


 竜滅刀で炎を斬った。

 二つに割れた火は家を焼いたが、それはご愛敬。

 人的被害が出なかったのだから、許してほしい。


「これが最後だ。いい加減、勇者と戦ったか答えてくれよ」

「いいだろう。話」


 そこで言葉は途絶えた。

 原因は、背中から突き出た刃物。


「はあ、はあ、はあ。ざまあみろ!」


 前のめり倒れたガウの背後には、肩で息をする少女がいた。

 少し大人びた雰囲気をおびているが、彼女はおれをこの村に案内した子だ。

 その手には小太刀が握られており、べっとりと血が付いていた。


いいね等、ありがとうございます。

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