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125話 勇者は検証し、犯人へとたどり着く

 検証一日目。


「なあ、この森を抜けるまで協力しないか?」

「お前と俺が!?」

「目と耳は多いほうがいいだろ」

「そう言われればそうだな。よし。手を組もう」


 チョロい。

 チョロすぎる。

 けど、他人を信じる姿は勇者っぽかった。


「んじゃ、まずは川を上ってみないか? 水害のことを考えれば、集落は川上にあるはずだからよ」

「わかった」


 素直ではあるが、ベイルはおれの前を歩く。

 ここは譲れないポイントらしい。

 昼にさしかかるころ、異変は起きた。


「我ら漆黒の三連星! 貴様らの命、もらい受ける!」

「名乗ってる暇があるなら、腕を磨くんだな」


 突如現れた漆黒の三連星を、ベイルが格好良く瞬殺した。


「ちっ、嫌な思い出だぜ」

「えっ!? そうなの?」


 彼らに苦戦した覚えがないだけに、その言葉は意外だった。


「お前と出会うきっかけだからな」

(なるほど。そういう意味で嫌なのか)


 それなら、おれも同感だ。


「チッ、さっさといくぞ」


 歩き出したベイルの背中を追う。

 陽があるうちに、人里の手がかりが掴めればベストだ。


(う~ん)


 結構な速度で歩き続けたが、陽が沈むまでに人の痕跡を見つけることも、源流に行きつくこともなかった。

 結果、おれたちは昨日同様、川岸で一夜を過ごす羽目になる。


「アアン。勇者様~」


 ワァーンとベイルのお戯れも、相変わらずだ。



 検証二日目。

 おれたちは川から離れる選択をした。

 食糧を探しがてら、森に入ることにしたわけだ。


「またてめえらか、バカ野郎。今度は許さねえぞ、バカ野郎」


 木の実を拾い出してすぐ、ワァーンの親父である村長が出てきた。

 懐かしくはあるが、特別な感情はない。


(ああ、そうだったな。語尾にバカ野郎がつくんだよな)


 ぐらいだ。

 ベイルも同じらしく、会話もないまま一刀のもと斬り伏せてしまった。


(容赦ねえなぁ)


 昼ごろもう一度現れた村長に対しても、ベイルの対応は変わらない。


「しつこいぞ」


 たった一言そうつぶやいて、斬った。

 ただ、朝とは違い、表情には苛立ちが浮かんでいる。

 気持ちとしては、おれも同様だ。

 幻惑とわかっていても、知り合いを斬り続けるのは気持ちのいいものではない。

 そんなことも影響して、おれたちは早めに休むことにした。


「もっと。もっと。勇者様~」


 夜。

 ベイルと若奥さんの肉弾戦は、苛烈を極めた。

 戦い終わった二人の満足そうな顔が、印象的だった。



 検証三日目。

 この日は朝から驚いた。


「グゥルゥァァァァァアアアアア」


 突如聞こえた猛獣の咆哮に飛び上がって起きたおれたちが目にしたのは……『森の迷宮(グリーンパレス)』の大魔王である竜だった。


「マジかよ……これは反則だろ」


 茫然とするおれを尻目に、ベイルは颯爽と挑みかかる。


「グゥルゥアアアアァァァァ」

「サウザントブレイド!」


 ベイルの剣戟と竜の爪が幾度となく交差する。


(すげえな)


 あのときの苦労など、微塵も感じさせない。

 それどころか、一刀ごとに竜の爪を粉砕している。


「ずりゃりゃりゃりゃりゃ」


 加速する剣技が竜の爪を割り、硬かった鱗すら破損させていく。


「グゥルゥアァ」


 一方的にダメージを与え続けられ勝ち目がないと悟ったのか、竜は翼をはためかせ上空に逃げようとしている。


「甘い!」


 ベイルの一太刀が、竜の翼をもいだ。


「グゥルゥァァァァァアアアアア」


 痛みにのたうち回る竜は、飛ぶことも逃げることも叶わない。

 こうなってしまえば、勝負ありだ。


「とどめだ!!!!」


 真上から振り下ろされた剣が、竜を真っ二つにした。


「観たか。これが俺の実力だ」


 胸を張るベイルに、おれは拍手を送った。

 それからは平和で、いつものようにベイルの下半身が夜に暴れただけだ。



 検証四日目。

 おれたちは別れることにした。

 理由は簡単で、二人ともこの森に出口がない可能性があると思ったからだ。


「今日はベイルがあっちで、おれがこっちな」


 お互いにべつルートを進み、再度合流するかの実験をしてみようということになった。


「やだ。反対がいい」

「じゃあ、おれがあっちでベイルがこっちな」

「おう」


 おれたちは背中合わせに直進した。

 再度出会うことはあるかもしれないが、それは森の外であってほしい。


「よう。また会ったな」

「チッ、会いたかねえけどな」


 再会はすぐだった。

 そのあまりの早さに、ベイルがうんざりした表情を浮かべている。

 鏡で見れば、おれも同じ表情をしているだろう。


「真っすぐ進んだ?」

「当然」


 それはつまり、森の中でなにかしらの現象が起きている証拠だ。


「わかれてる間に襲われることは?」

「あった」


 今日は竜の後に倒した魔王の襲撃にあったらしい。

 ちなみに、おれのところにはロナウドが現れた。

 戦闘後もまっすぐ進みはしたが、戦闘時に方向が変わった可能性も考えられる。


「それはねえ。俺はその場で切り伏せたからな」


 魔王ですら、一刀に伏したようだ。

 驚きはないが、ベイルの戦闘力は確実に上がっている。

 頼もしくもあるが、敵対する可能性もあり、ドキドキする。


「お前はどうなんだ?」


 おれも同様であり、進路の変更はしていない。

 かぶりを振ると、おれたちはもう一度背中合わせにわかれることにした。


 …………


 すぐに合流した。

 今度はどちらも襲撃に合わなかったようだ。



(よし。少し整理するか)


 夜、おれは考えをまとめることにした。

 大前提として、ここが脱出不可能の迷宮であることは間違いない。

 しかも、日に数度見知っただれかに襲われるおまけつきだ。

 ただ、戦闘系のイベントが起こるのは朝と昼にかぎられており、夜は違う意味の肉弾戦が行われる。

 永遠にその繰り返し……ではない。

 朝と昼は襲われる。

 どれほど無視を続けようとも、こちらが対処するまで襲われ続ける。

 けど、夜は違う。

 こちらは、相手にしなければいなくなる。

 もとい、相手をしてくれる者、いまでいうなら、ベイルのもとに行く。

 ここから断定できることはないが、考察はできる。


(森。もしくは、怪奇現象を引き起こしているナニかが欲しているのは、侵入者の命じゃないんだろうな)


 ここについては、断言してもいいだろう。

 もし間違っているなら……


「げへへへへ」


 毎晩毎晩、飽きもせず逢瀬を楽しんでいるベイルが、こうしてだらしない笑みを浮かべることはできない。


(なにを欲しがってるんだ?)


 答えはたぶん、気持ち、ではなかろうか。

 知り合いに襲われれば悲しいし、腹も立つ。

 傷つけば、痛くて苦しい。

 そんな負の感情が生まれやすいイベントが昼に発生し、夜は反対に正の感情が生まれやすいイベントが起こる。

 快感を得る行為を楽しめるのが、その証拠な気がしてならない。

 生きているかぎり喜怒哀楽がつきまとうのは当たり前だが、この森ではそれが過剰だと感じる。

 そして、おれが気持ちを欲しているんじゃないかと思う理由は、もう一つあった。


「勇者様。今夜もごちそうさまでした」


 夜の行為を終え、霞のように消える際、女性陣たちは必ずそう口にする。

 ごちそうさま。

 それは食後のあいさつと捉えるのが一般的であり、彼女たちには満たされたモノがあるのだろう。

 避妊している様子がないことから、勇者の遺伝子ということも考えられるが、違うと思う。

 もしそうなら、朝も昼も色仕掛けでいいはずだ。

 正と負の感情が欲しいから、日中と日没で変化があるのだと思う。


(この森、もしくは森に棲むナニかは、ここで生まれる感情を養分にしているんじゃねえか?)


 確証はない。

 だからこそ、検証してきたのだ。


「げへへへへへ」


 行為を終えたベイルは、いやらしい笑みを浮かべて寝落ちしている。

 人が真剣に考えている横で、いい気なものだ。

 しかも、絶妙に腹立つ顔をしている。


 …………


(イカン。見てたらイライラしてきた)


 おれは四方を確認した。


(よし。だれもいないな)


 完全犯罪をするなら、いましかない。

 竜滅刀を抜き、忍び足でベイルの枕元に移動した。


「いや、もう無理だって」


 虚空にあるなにかを揉むように手を動かしていては、説得力がない。


(残念だが、お前の人生はここで終わりだ!)


 竜滅刀を振りかぶった。


「死ねぇぇぇぇ!!!!」


 勢いよく振り下ろす。


「だめぇぇぇぇ!!!!」


 森の中から、幼女が飛び出してきた。

 遅い。

 すでに竜滅刀は、ベイルの首筋に迫っている。

 ザシュッ、と切れた。


「そ、そんな……あっ」


 くず折れる幼女は、そこで気づいたようだ。

 竜滅刀が切ったのはベイルの首ではなく、その横にある石であることに。


「マ、マズい」


 おびき出されたことにも気づいたようだ。

 なかなかに冷静で頭の切れ子だ。


「おっと」


 逃げ出そうとした幼女の首根っこを掴んで、持ち上げた。


「離せ! 離せよ!」


 ジタバタ暴れる少女は、一メートルあるかないか。

 年のころでいえば、十歳前後である。


「ガキのイタズラとしてもいいが、やりすぎたな。お前はおれの逆鱗に触れた。その意味がわかるな?」


 視線を合わせ、にらみを利かせる。


「あっ……あっ……」


 震えだしてしまった。


「いまさら後悔しても無駄だ。残念だが、お前が明日の朝日を見ることはない!」

「びえええええええんんん」


 号泣だ。

 涙だけじゃなく、いろんなものが垂れ流されている。


「ど、どうかその子のことはお許しください! 咎はあたしが引き受けます」


 森の奥から、二十歳前後の少女が飛び出してきた。

 それだけじゃない。

 目を凝らせば、その奥にたくさんの人の気配がある。

 犯人たちの登場と見て間違いないだろう。

 こうして、不思議な森のループは終わりを告げた。


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