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記憶保険

作者: 村崎羯諦

「実はですね、お客さまのように記憶喪失をされてしまった方におすすめの保険があるんです」


 保険の営業マンはそう言いながら机の上に一枚の資料を置き、K氏の前へとそっと差し出してくる。K氏がその資料に目を通してみると、そこには『記憶保険』という言葉が大きく書かれていた。


「仕組みは普通の保険と同じです。つまりは、保険加入者がなんらかの事故に遭って、記憶喪失になってしまった場合に、保険金としてまとまったお金をお渡しするということです。まさに現在記憶喪失で苦しんでおられるお客さまならご理解いただけると思うのですが、記憶喪失になったら何かとお金がかかりますからね」


 営業マンの言葉を聞き、K氏はなるほどと頷いた。営業マンの言う通り、つい先日、不慮の交通事故で記憶喪失となっていたK氏は、身を持ってその大変さを理解していた。それに主治医の説明では、一度記憶喪失になった人はまた同じような記憶喪失を起こす可能性がかなり高いらしい。


 そうした色々な事情を踏まえた上で、結局K氏は営業マンの言う通り、保険に加入することにした。


 そしてそれから月日が流れたある日。生まれつきツキのないK氏はまたしても交通事故に遭ってしまい、同じように記憶を喪失してしまった。K氏は自分の名前までは覚えていたものの、交通事故以前の記憶は飛び飛びで、曖昧な記憶しか残っていない。それでも、K氏の頭の片隅には、ある町のあるビルのある部屋の風景が残っていた。


 退院後、K氏はそのわずかな記憶を頼りに、その場所へ向かった。『記憶保険会社』という名前の事務所の扉を開け、K氏は受付で自分の名前を告げる。K氏は個室に案内され、しばらくすると営業マンが現れる。営業マンは記憶喪失したK氏に労いの言葉を投げかける。


「ご心労お察しいたします。そして、記憶を喪失しながらも、私たちの事務所へご来訪いただいたこと、大変感謝しております。私たちは、記憶喪失したお客様をお待ちしていたのです」


 そしてそれから。不思議そうな表情を浮かべるK氏に対して、営業マンはこのように言葉を続けた。


「実はですね、お客さまのように記憶喪失をされてしまった方におすすめの保険があるんです」

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