第七話 顔合わせ
遅れてすみません…m(*_ _)m
完全にド忘れしてました…
「失礼致します。さ、こちらへ」
──案内役に待機室へ案内されると、そこには既に先客が二人程いた。
案内役にどうぞ、と促され椅子へと座る。
「では今暫くお待ちくださいませ」
「すまない、一つ聞きたいのだが」
案内役が下がろうとした時、真っ赤な髪をポニーテールのように後ろで束ねた女性が声をかける。
「何でしょう?」
「我々は賢者カルナ様がご参加なさると聞いている。だが其方の連れてきた者は賢者カルナ様ではないな。こちらと情報に齟齬があるようだが?」
「申し訳ありません。実は先程急遽変更になりまして、賢者カルナ様に代わり、そのお弟子様がご参加なさることになりました」
と、紹介を受けるも、カルナがそもそも弟子を取るということ自体がありえないらしく、訝しげな目線が突き刺さる。
「弟子だと?あの御方は弟子は取らないと仰られていたはずでは?」
「ですが賢者様御本人がそう仰られておりますので…」
「ふむ…そうか、分かった。下がっていいぞ」
「かしこまりました。それでは」
そうして案内役が出て行くと、先程の女性が口を開いた。
「さて、何があったかはわからんが、これからお互い長い付き合いになるのだ。よろしく頼む。名は何と?」
…さっきの問答から多少掘り下げられるかと思ったが、あまり気にしない性格のようだ。
それに、切り替えが早い。
「アルミナと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「…姓は無いのか?」
「はい。それが何か?」
「いや、何でもない。気にするな」
「はぁ…そうですか」
挨拶と共に差し出された手を握り返しながら、こちらもにこやかに対応する。
なんでそんなに姓が無い事を不思議がられなければならないのかはよく分からないが、とりあえずいい人そうで良かった。
「おっとすまない、まだ名乗っていなかったな。私はアルシオン公爵家当主、ベンゼリオ・アルシオンが長女シャルロット・アルシオンだ」
な、長ぇ…苗字が三回も出てきたぞ…
そして公爵関係の人がもう二回も出てきた。
「公爵様のご令嬢でございましたか。先程の数々の無礼、どうかお許しください」
「そんなにかしこまらないでくれ。確かに私は貴族だが、権力も持っていないし、それ以前に私は戦士だ。その程度気にはしない」
「そう仰っていただけると幸いです」
「…其方本当に平民か…?」
「平民ですが、何か…?」
…ラノベのタイトルみたいになったのは気にしないでくれ。頼む。わざとじゃないんだ。俺も言ってから気づいたんだ。
ていうか俺の何が怪しいって言うんだ!ちゃんと『偽装』も掛けて人間っぽくしてるのに!
そう思っていると、さっきは濁したのにすんなり答えてくれた。
「いやなに、平民にしては貴族に対する受け答えが全く貴族のそれでな。不思議だったんだ」
「なるほど、そういう事でしたか」
「…ふむ、となるとやはり力が抜けきっていないという事だな」
うーわ、嫌な予感がする。
──こういう時に感じる嫌な予感というものは高確率で当たるもので…
「よし、これからは敬語禁止だ」
「…無茶を仰らないでください」
「き ん し だ」
「…」
この人押しが強いというかなんというか…体裁を気にしなさすぎて周りが迷惑するやつだ。
…だが俺も『自分らしく』なんて名前を付けて早々に前世の癖が出てしまっていた。
本人もそれを望んでいるようだし、彼女の言葉に甘えて敬語なんて止めて自分らしくやろうじゃないか。
──もちろん度が過ぎないレベルでだけど。
「…分かった。シャルロットさんに従うよ」
「さん付けも無しだ。私達はパーティメンバーだろう?」
「ここに来て更に付け加えるかね…シャルロットの仰せのままに」
「ほう?先程とは別人のようでは無いか」
「そりゃあ遠回しに『素で話せ』と言われたらねぇ。シャルロットは私より冒険者らしいよ」
呆れ半分冗談半分で返事をする。
すると、今まで話さなかった、いや、話せなかったもう一人がようやく口を開いた。
「もう!エリィもお話させてください!シャルばっかりズルいです!」
「あぁすまないエリィ、うっかりしていた」
エリィ、という金髪の少女がシャルロットに抗議する。
お互いに愛称であることから深い関係性であることは間違いないだろう。
「紹介しよう。彼女はエリーゼ・フォン・ラーディンス。この国の第一王女だ」
「…はい?」
俺は頭を抱えたくなった。
何でよりによって王族なんだ。てかそもそも何で王族が勇者パーティに編成されるんだ意味が分からない。
──…あー、理由が分かった。
まずシャルロット。彼女はこの国で最も有名な剣士だ。
他国で行われた闘技会で優勝し、『剣聖』の称号を与えられた。
また、『魔法剣』と呼ばれる技術を独自で編み出しており、魔法にも精通しているようだ。
次にエリーゼ王女。彼女は言わば『回復役』だ。
幼少期から教会へと足を運び、王宮での教育と別に教会でも勉強を行っていたらしく、本人の飛び抜けた才能もあり数々の聖属性魔法を習得。誰も為し得なかった蘇生魔法をも可能とした。
それ以来彼女は『聖女』と呼ばれ、この世で最も優れた癒し手として名を馳せている。
なるほど、本来のパーティメンバーは『剣聖』シャルロット、『聖女』エリーゼ、そして『賢者』カルナだったって事か。
「エリィも皆さんの為にできることは少しでもやりたくて、お父様に無理言って加えてもらったんです」
「それは…陛下も反対されたのではないですか?」
「はい。お父様はもとより、臣下の方々にも猛反対されました」
だろうな。国王は流石に自分の娘、臣下は王女をそんな危険な任務につかせる訳にはいかないだろう。
だが、自分が行くことの正当性と有効性を幼いながらに説明し、納得させたという。
記憶によれば、この娘は十五歳でこれを成し遂げたらしい。
さすがは王族と言うべきか、教育の練度が違う。
「王女殿下は民思いなお方なのですね」
「ありがとうございます。…ところで」
「はい?」
「私には気軽に接してくれないのですか?」
「──勘弁してくれ…」
結局、人の目がある所では体裁もあるので譲歩してくれたが、それ以外の場合はとんでもない人たち相手に俺はタメ口を聞かなければならなくなった。
あぁ、これから苦労しそうだ…