第四話 暴走
ギリギリ完成…_( _´ω`)_フゥ
パンッ!!
───と、破裂音が室内に響く。
何事かと音のした方を見れば、右腕の肘から先が消失し、その先には恐らく俺のものと思われる右手が転がっていた。
ブシュッと音を立て傷口から血が吹き出すのを唖然と眺める俺に、状況を把握した脳が、現実を激痛に変換して伝達する。
「…ぐッ…ぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛ッッ!?!?」
想像を絶する痛みが思考の大半を支配し、そのせいで中途半端に触れていた魔力が再び暴発。
──右肩が破裂した。
「ぎッッッ!?……ァ…」
予想外の激痛に耐えきれるはずもなく、そのまま意識を失った。
* * *
「……ッ!?」
意識を取り戻した俺は勢いよく跳ね起きる。
「はぁ…はぁ…」
息を整えながら周りを見渡すと、日は高く上っており、恐らくカルナの部屋にあるベッドだろう。
そこで寝かされていた。
恐る恐る消失していたはずの右腕を確認するが、まるで何事も無かったようにそこに存在していた。
動かしてみると、痛みもなく問題なく動いた。
すると、ガチャリと扉が開きカルナが入ってくる。
「目が覚めたのね」
「…ごめんなさい」
「いいのよ、謝らなくても。何があったかは大方予想ついてるから」
「ありがとう。…それと、腕も治してくれたんだね」
「治した?…もしかして、気付いてなかったの?」
「えっ?」
なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「…『吸血鬼』なんだから、その程度勝手に治るわよ?」
…そういえば魔族なんだっけか俺。
その上吸血鬼、今朝外に出た時に訪れた倦怠感はそれが原因か。
基本吸血鬼は日光を浴びたら焼けるはずなのだが、そこは特異体質ということなのだろうか。
まぁ何はともあれ、腕に失う事にならずに済んで良かった。
だがデメリットが無いわけではなく、怪我の治癒から欠損部位の修復など、程度によって必要分の魔力が持っていかれるようだ。
…今はそこまで魔力の減りを感じていないが、致命傷を受けるか全身が吹っ飛ばされるほどの攻撃なら相当なものだろう。
気をつけねば。
「とはいえ、このままだと危険ね…一応聞くけど、魔法使いたい?」
「それはもちろん。やろうとして事故ったわけだしね…」
「そ、そうよね、それじゃあ今は休みなさい。今夜教えてあげるわ」
そう言われたので、大人しく休むことにした。
少ないとはいえ魔力を消費しているのだ。万全の状態で受ける方がいいだろう。
* * *
「…はぁッ!…はぁッ」
日は完全に落ち、家から漏れる光が庭を…いや、庭に広がった血溜まりを照らし、鈍く反射する。
「も、もうやめましょう…?見ていられないわ…」
「…まだ………もういっかい…おねがい…」
すると再び、カルナが繋いだ手から魔力が流れ込む。
それが身体を循環し、内に存在する魔力が高まる。
その状態で手を離し、彼女が行っていた魔力制御を自身が行う。
しかし、どうしてもそこで魔力が制御出来なくなり、結果魔力は行き場を失い暴走、身体のどこかが吹き飛ぶといったことを何度も繰り返した。
「ッぐぁ!……痛ゥ…」
「今日は一旦休みましょう?もう無理よ!」
「……わかった」
カルナから必死に説得され、今日のところは折れた。
しかし、やめる訳にはいかない。この魔力制御さえできるようになれば、後はどうとでもなる。
それに…折角才能があるのに、諦めたくはない。
魔力適性が高いのに何故こうなるのか、これには理由がある。
本来、生まれながらの魔力量は低い。肉体の成長につれ、魔力を蓄える器も成長し、鍛錬を積むことによって大きくなる。
そのため、生まれながら魔力を多く持つ者は教育が施され、小さい頃から魔力制御の訓練をする。
また、魔法を使う際何度もそれを繰り返すため、ほぼ無意識にそれを行えるようになる。言わば「慣れ」だ。
しかし俺は、初めから持っている魔力量が大きすぎたため、制御が極めて困難。
わかりやすく例えるなら、レーンを流れるビー玉あるとして、それが少なければ容易に仕分けたり、不良品を見分けたりできるだろう。
しかし初めてその仕事を行う者が、いきなり一度に100個も高速でビー玉が流れてくるのを仕分けるのは誰がどう見ても不可能だろう。
それほどの難易度の事をやろうとしているのだ。
しかし、この基礎さえ出来てしまえば、あとは何でも出来る。
そう、「何でも」だ。
だからこそ俺は諦められない、諦めたくないのだ。
それに、まだ一日目だ。
たった一日で出来たらそれこそ天才だろう。
二日目:
未だ成功出来ていない。期限がある訳でもないし、気長にやろう。
三日目:
今日は制御できる時間が伸びた。まぁそのおかげで油断して、いつも以上に悲惨なことになったのだが…
四日目:
最近全身の感覚が鈍い。体の一部が吹っ飛ぶのはかなり痛い。…いや、実際死ぬほど痛いのだが、意識すれば直ぐに治癒するため痛みは長引かず、何度もやっているためか少し慣れてきたのかもしれない。
五日目:
カルナに泣きつかれた。今日は休み。
六日目:
結局休んでいられず、自主練を始めた。
手本が無いため普段より難航。掃除が大変だった。
七日目:
今日は誤って心臓を負傷。幸い即死はしなかったものの、吸血鬼の弱点だけあってかなり魔力を持っていかれた。いつも以上に魔力を消費したからか、制御がしやすかった。とはいえまだまだだが…
一週一日(八日)目:
ようやく指導に協力してくれた。どうやら俺が勝手にやっているのを見かけて結局心配になったらしい。
一週二日目:
ふと思いつきでカルナに魔力制御してもらいながら重ねて制御を行い、ゆっくりと交代する方法を試してみた。
結果、危うかった制御が初めは安定したものの、少しすると再び暴走した。
しかし、これはいい方法かもしれない。しばらく続けてみることにする。
それからしばらく経ち…
…………
………
……
十四週二日目:
…ついに魔力制御に成功した。