第三話 『賢者』カルナ
本日二話目です。
逆によかったこっちもギリギリ完成して…
「…ぅ…ん…」
「起きた?」
眠りから覚めると、窓際で本を読んでいたカルナに声を掛けられる。
どうやら相当疲れていたらしく、日が昇るまで眠ってしまっていたようだ。
回らない頭で軽い眠気に抗いながら、体を起こす。
「もう少し寝ててもいいのよ?日が出てる間はつらいでしょう」
「…だいじょうぶ」
「なら、少し話しましょうか」
彼女は椅子から立ち上がり、俺の隣へ腰掛けた。
「確認なんだけど、貴女はこの世界の事をどこまで知っているのかしら」
「ん~…一応この世界の常識と、ある程度の歴史が分かるくらいかな」
「それはつまり、『私』の事も知っているのかしら」
「そうなるね」
昨日、名前を聞いて分かったのだが、彼女は約六百年以上前の魔王討伐の際に召喚された勇者に同行し、かつて『賢者』と呼ばれた人物だったのだ。
…今更だがそんな相手の攻撃を受けてよく生き残れたよな、俺。
「あ、そういえば気になることがあるんだけど」
「何かしら?」
「…カルナさんは相手の魔力を視認できたりってする?」
「え?」
彼女は一瞬硬直し、恐る恐る尋ねた。
「もしかして、見えてたの…?」
「結構はっきりと」
「ウソ…」
それほど衝撃的だったのか、唖然とした表情を浮かべる。
しばらくすると落ち着いたのか、静かに話し始めた。
「…ずっと疑問だったのよ。最初は、貴女が高位の魔族だから避けられていると思ってた。けど、貴女は転生者、それも学生だって言うじゃない」
そう、戦争も経験したことがない一介の学生が、いくら強化されたからと言えど、戦争国のトップを相手にした人間の攻撃を、情報なしの初見プレイでノーダメ回避できること自体が異常なのだ。
「けど、そういうことだったのね…まさかそこまで適性が高いなんて…」
「適正?」
「魔力親和度のことよ。それの適正が高いほど、より効率的に高威力で魔法を使うことができたり、貴女みたいに魔力が見えたりするわ。極少数だけどね」
ほほぉ…それはいいことを聞いた。つまり魔法チートで俺TUEEEできるってことじゃないか。
「かなり高度な隠蔽を施していたのだけれど、まさかそれさえ超えてくるとは思わなかったわ。…まぁ、いくらなんでも初代様には及ばないでしょうけど」
「初代様って言うと…『初代賢者』?」
初代賢者…最初にして最強と言われた魔王を相手取った勇者パーティの一人だ。
知識によれば、迫りくる魔物を最下級魔法で殲滅したとか、古龍(竜族の最強種)相手に舐めプで勝ったとか…
まぁ伝承は次第に誇張や編纂されたりするものだし、本人が生きていたのは何千年も前だ。事実を知っている人間はいないと言ってもいいだろう。
「初代様は勇者を除いて歴代最強の魔術師と呼ばれた人物よ。…昔は私も目指していたけれど、寿命を延ばした今でもそれは叶わないって思い知らされたわ」
少し悲しそうな顔をしてそう呟く。
しかしそれでも、実際に賢者と呼ばれる程に成長出来たのはカルナだからだろう。
初代賢者に憧れたのは彼女だけでは無いはずだ。実力は追いつけなかったとかはいえ、同じ称号を得ることが出来たのだ。それは誇っていいと思う。
「さて、私は少し外に出てくるわね。貴女はここにいて頂戴」
「分かった」
そう言ってカルナは目の前から突然消えた。
もしかすると、これが転移と言うやつか。
…そういえば、俺は魔法とか使えないのだろうか?
ふとそう思い、外へ出る。
───瞬間、とてつもない倦怠感が襲う。
耐えきれず、俺はその場で倒れ込む。
魔法を試してみようとかそんなものがどうでも良くなるほど太陽が辛い。
「………もどろ」
ズリズリと這いずりながら屋内へと戻る。
日陰に入り、身体自体は楽になったものの、モチベは依然下がったままだ。
「…どうしよ、何もすることねぇんだけど」
* * *
結局、他にすることなくて魔法を試すことになった。
とはいえ、普通魔法を試すとなると火や水などの攻撃魔法から試すものだが、屋内だからそれは無理。
だからといって、強化系や回復系はイメージがしづらいから難しいし…単純に水だけ、火だけを生成して攻撃に転じない物を作ろうにも、暴発させたら元も子もない…
…ん?待てよ。じゃあ、魔力操作を鍛えればいいんじゃないか?
どのみち、魔法使うにあたって魔力操作は必須。自由に操作出来なければ暴発、不発の原因になる。
まさしく一石二鳥だ。
思い立ったが吉日、幸い魔力は視認できる上、動かし方も何となくで分かっている。適正に感謝だ。
そうして俺は、魔力に触れた。
───そのすぐ後、俺は深く後悔することになる。