第一話 異世界へ
やばいやばいやばい、書き溜めが全然できてないいぃ…!!( ;∀;)
…いつの間にか、俺は何もない暗闇に放り出されていたようだ。
目も開いているのか閉じているのか分からず、手足の感覚も…いっそもう手足そのものも消失してしまったかのようだ。
割と不思議な感覚ではあるが、不思議と違和感はない。
『聞こえているか?』
あぁ…粗方察しはついた。直近の記憶はないが、恐らく死んだのだろう。で、多分今話しかけてきてるのは神様みたいなやつかな。
『「みたいなやつ」ではない。正真正銘、神だ』
そして思考が読まれるというテンプレが存在することも今わかった。
『…事情が分かっているのなら、少々説明等も省かせてもらうぞ。こちらも時間が惜しい』
そこまで急ぐ理由も…まぁ神様の事情と言うやつなんだろう。
気にせず続けてくれ。
『…まぁ良い。まずはお前に選択肢を与えるところだが、察している通り転生か消滅か、だ。無論、答えは決まっているな』
もちろん。
『次は加護だ。三つまで叶えてやろう』
三つか…じゃあ、【言語理解】と危険な場所でも生き残れる【能力】と…あと一つどうしようかな?
…適当に自由な【性転換】でいいか。
『自由な【性転換】か…【両性具有】では駄目なのか?』
純粋な興味だからな、体験してみたくはあるが、ずっとそのままというのも困る。
『そうか、了解した。では転生先の情報を伝える。…が、時間がないからな、直接お前の脳に叩き込んでおこう。向こうで目覚めたら自然と理解できるはずだ』
ご親切に。その方が苦労しなくて済む。
『では行くがよい。目の前に見えている光を抜ければ、晴れて転生だ』
そう言われて、いつの間にかそこにあった光が包み込むように近づいてくる。
しかし次の瞬間、ジジッ…と光にノイズが走る。
そしてそれは俺を飲み込まんと急速に広がり、まるで引っ張られるかのように引きずり込まれる。
『何だと!?間に合わなかったのか!?待t』
そう焦る声が聞こえたが最後、俺の意識は途絶えた。
* * *
目が覚めるとそこは、木々に囲まれた深い森だった。
そして目の前には、唸り声をあげ、鋭い牙を惜しげもなく晒し、涎を垂らして今まさに食いつかんと獲物を見定める飢えたハイエナのような大きな影と対面した。
それが魔物であると理解したのはそれからすぐの事だった。
「グルルァァアア!!」
「──ッ!?」
まずいと考える余裕もなく、襲いかかってきたそれを本能的に横に転がって避ける。
先ほどまで自分がもたれていたであろう木の幹が、メキメキと音を立てるのが聞こえ、そちらを見もせずに走り出す。
…あっぶねぇ!?ようやっと思考が戻ってきた!よく避けた俺っ!転生して早々送り返されるところだった!
木の根に足を取られそうになりながら走り、思考を回転させる。
「(状況整理は後だ!今はこいつらを何とかしなければ…そういやあの神っぽいやつから貰った【能力】ってなんだ!?ステータスとか…無いんですかそうですか畜生め!)」
そういう能力はステータスとやらに記されているはずだが、記憶に刻み込まれたこの世界の情報からそんなものは存在しないと告げられる。
「(ヤバッ…!?)」
「グルァッッ!!」
回り込んできたのか、木の影から魔物が目の前に現れ、鋭い鉤爪の付いた腕を振り下ろす。
咄嗟に腕を交差させ防御するが、一向に衝撃がやって来ない。
しかし、ズドンッという衝撃音と何かが倒れるような音だけが耳に届いた。
反射的に閉じていた瞼を開けば、そこには横腹に抉れたような穴を開け、地面に鮮血を撒き散らした魔物と、魔女のような三角帽とローブを身につけた長い青紫色の髪の女性が、魔物に杖を向けたまま立っていた。
恐らく、あの女性が使ったのは『魔法』。
地球上では創作物でしか見ることが出来ない幻想の概念。
直接見てはいないが、間違いないだろう。
この世界に魔法が存在することに少しばかりの期待と、助かったことによる安堵感を抱いたのも束の間。
その女性はスッと杖の先を俺へと向けた。
* * *
…今日は自分の反射神経に助けられてばかりだ。
杖の先が自分に向いたその瞬間魔法が飛んできたのを、まるで銃口を向けられた瞬間のような判断と反射神経で間一髪、避けることが出来たのだ。
そして今は絶賛逃走中である。
ていうか俺を助けたんじゃないのかよ!紛らわしいなまったく!
そう考えているうちにも背後から魔法がいくつも飛んでくる。
火、氷、風、雷、岩、形状も様々で、矢、弾丸、槍、刃などなど…
まるで一体一でのリンチだ。
ならば何故、魔法を避けることができているのか。
この際ぶっちゃけるが、魔法を使ってくる瞬間、その女性の体が一瞬光るのだ。火なら赤、氷なら青、風なら緑、というように。
しかも、火は高威力な槍が主だ。氷や岩は質量があるからか細かい矢や弾丸で連射してくる。風は刃などの切断系。雷は速度が異常で形は分からないが恐らく矢だろう。
だが、森だから意外と対処はできる。大体木で射線を切れば問題ない。
切断系は当たる面積が小さいため、横ならしゃがむか縦なら横に動けば当たらない。
幸いホーミング系の魔法は使ってこないし、当たればヤバいという以外はまだ大丈夫だ。
やりづらいのは可能な限り女性を視界に入れ続けないといけないということだ。常に前を向けないから非常に走りづらい。
「…──ァッ!?」
そして、ここでついにやらかした。
端的に言おう。コケた。
咄嗟に振り返れば、目の前にはこちらに杖を向けたあの女性が立っていた。
「…ハァ……ハァッ…」
「…………」
お互い無言で睨み合う。
その間に必死に頭を回し、どうにかして逃げ延びる方法を考える。
すると女性が口を開いた。
「…どういうつもり?」
「…?」
質問の意図がわからず、首を傾げる。
「異種族、それも魔族ね。その中でもトップクラスの高い魔力を持っていながら、抵抗すらせずに逃げる?ふざけてるの?」
そんなことでキレられても意味がわからない。俺は魔族である気は無いし、抵抗もしないのではなく出来ないのだ。
唯一存在する、逃げるという選択肢を取っているに過ぎない。
「…なんとか言ったら?私の言ってることが分からないなら別だけど」
「なんn…ぉお…?」
発した自分の声質がかつてのものと全く違う、女の子のような高い声が出てきて一瞬動揺する。
しかし今はそのことを確認している暇はないため、また確認しなきゃいけないことが増えたと思いながら、できる限り自然に振る舞う。
「んん゛っ…何のことだかさっぱりだね」
「…シラを切るつもり?」
「そんなつもりはないんだけど」
「…嘘じゃないのね」
妙なイントネーションだ。こちらに問いかけるような感じではなく、一人で納得したような…
あぁいや、そういうことか。恐らく嘘発見器のような魔法を使っていたのだろう。
警戒はされているものの、とりあえず攻撃はやめてもらえるようだ。
「質問してもいいかしら?」
「もちろん。むしろ、聞いてくれなきゃ困るくらいだね」
時間稼ぎにしかならなかったとしてもとりあえずしっかり分析できる時間が欲しい。
何せ、転生直後に襲われて、自分が誰かの状況把握すらできなかったわけだからな。
「じゃあ、一つ目の質問よ…」