煌めきが欲しくて
銘尾 友朗様主催『冬の煌めき企画』投稿作品です。
冬と煌めきで可愛らしいラブコメを書こうとしていたのに、出来上がったものはギャグでした。
どうぞお気楽にお楽しみください。
「史輝、今日の映画良かったね」
「そうだね」
「次どこ行こっか」
「どこでもいいよ。詩代に任せる」
「もー、たまには案出してよね。来週はクリスマスなんだし」
史輝とは一年ちょっと付き合ってる。
お互い社会人だし、そこそこいい歳だし、クリスマスにはちょっと期待してたりする。
そうこう言ってるうちに、私の家の前に着いた。
「今日は楽しかった。また来週ね」
「あぁそうだ。これプレゼント」
「何?」
小さな箱を差し出された。
見た目は指輪のケースみたい。こ、婚約指輪?
……なんて、まさかこんな軽く渡すわけないよね。
何かのジョークグッズかな。少し警戒しながら開けてみる。
「! こ、これ……」
恐る恐る親指と人差し指でつまんで中身を取り出す。
「サイズは合ってるはずだから」
何? 何のサイズですか? まさかとは思うけど……。
「うん、大丈夫だね」
その指輪は私の左手薬指にぴったりはまった。小粒の宝石がキラリと光る。
「じゃあまた来週ね。おやすみ」
「待てこらあああぁぁぁ!」
「ぐえ」
さらっと帰ろうとする史輝の襟首を捕まえる!
「どういう事よこれ!」
「え!? 左手の薬指にはめたんだから、わかってくれたと思ったんだけど」
「……まさかとは思うけど婚約指輪、じゃないわよね……?」
「そうだよ」
「ぐあああぁぁぁ!」
さらりと言う史輝に、私は頭を押さえてうずくまる! こんなに嬉しくない正解初めてだよ!
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
大丈夫なわけあるか! 駄目だ、こんなわけわからない状態でこいつを帰すわけにはいかない。
「……ウチ、上がって」
「え、でも」
「いいから!」
鍵を開け、手を引っ張るようにして部屋へと引き込む!
「わぁ、女の子の部屋って感じだね」
「いいから座って」
今のお前に女子の部屋にときめく資格はない!
「……改めて聞くけど、これは、その、婚約指輪って事なんだよね?」
「そうだよ」
「私と結婚したいって事?」
「うん」
「だとしたら何だあの渡し方あああぁぁぁ!」
「!?」
びっくりした顔すんな史輝! こっちの方が百倍驚いてるわ!
「一生に一度の一大イベントでしょ!? 何あの旅行のお土産渡すノリは!」
「どんな風に渡したらいいかわからなくて……」
「仮にそうだとしてもやりようはあるでしょ!? それにタイミング! 来週まで待てばクリスマスだったじゃない! 何で今日!? 明日世界は滅びるの!?」
「冬のボーナス入ってようやく買えたから、善は急げかなって……」
「急ぎすぎてフライングしてるから! 審判の笛が鳴る前にぶっちぎりでゴールしちゃってるから! そもそも私の指のサイズ、どうやって知ったのよ!」
「スマホのアプリで写真の中の長さを測るのがあったから、それ見せて店員さんに相談した……」
「計画的! そこまで準備してたなら何で詰めを誤った!? ハイレベルな手品をネタバレから先に見せられたような残念感!」
言いたい事一気に言い過ぎて、頭がくらくらしてきた。
「……やっぱり、いや、かな……」
「え?」
「僕と、結婚、なんて……」
「違うの! なんて言うか、テストで答案は80点取ってるのに、名前書き忘れて0点みたいなもったいなさなの!」
「名前は入れてもらったよ。指輪の裏に」
外して見ると確かに『from Fumiteru to Utayo』の文字が。
……違う、そういう事じゃない。5点加点するけど。
「そうじゃなくて、もっとムードというか、ロマンチックなのが良くてさぁ!」
「うーん……」
「あれ!? 私の要求ってそんなに難易度高い!? 一年以上付き合ってきて、ここまで文化の隔たりを感じたのは初めてなんだけど!」
「詩代がどうして欲しいのか、教えて」
私が、して欲しい、事?
……ぼっと顔が赤くなる。そんなの説明してやってもらうものじゃないと思うんだけど……。
「えっと、その、箱を開けて、指輪を見せながら『結婚しよう』って言って、薬指に、はめられたい……」
「わかった」
何て間抜けなんだろう。一度ははめた婚約指輪を外して、箱に入れて史輝に手渡す。
ここから私の言った通りのプロポーズが行われるのだ。
茶番以外の何物でもない。
「詩代、結婚しよう」
「……うん」
なのに何でこんなに嬉しくなるの!? 顔腫れてるし、不整脈がすごい! 結婚が決まった途端に更年期障害とか、私の身体気が早くない!?
「ありがとう」
屈託のない笑顔。ちょっとずれてるところもあるけど、史輝のこのふんわりした雰囲気が好きだ。
思えば一年半前。数合わせに付き合わされた合コンで、同じく付き合いで来ていた史輝と出会った。
他の男と違って、ガツガツしてない感じに惹かれ、三回目のデートで付き合うことになった。
一緒にいて疲れない空気に、何となく結婚を意識していた。
結婚までエッチはしたくないって私の我儘も理解してくれた。
だから、今日は、いいよね?
もう結婚することも決まったんだから、私の初めて、史輝にあげてもいいよね?
「じゃあまた来週ね。おやすみ」
「待てやごるあああぁぁぁ!」
初めてのお泊まりは、朝までの説教大会になりました……。
読了ありがとうございます。
今回のキャラ名は結婚を意識したので大分手こずりました。
主人公:室狩詩代=しっかりしよ
彼氏:分割史輝=ふんわりしてる
結婚後:分割詩代=ふんわりしよ
この名前なら結婚後は詩代さんも穏やかになる 多分なると思う なるんじゃないかな ま 覚悟はしておけ
もう一話、この企画でネタが思いついていますので、そちらもよろしくお願いします。