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乙ゲーは声優さんで選んでました  作者: 柊 亜樹奈
6/10

6.三者三様

 


「わぁ 美味しそう!」

「本当だ どれから食べようか迷ってしまうな」

「好きなだけ食べてね」


 鼻歌混じりに紅茶の準備をしながらルワンナはひっそりとアクトを観察した。


 ヴァルト王太子とアクトは同じ歳。そして幼馴染。そして自分を可愛がってくれている。


―――と、いうことは。


 乙ゲーならば攻略の可能性が非常に高いポジションだ。


 正直、中身が26歳のルワンナからしたら子供は恋愛対象外だ。なんなら、声よし見た目よしのルークやガルダンの方が攻略キャラならオトしてみたいくらいである。流石に子供相手にときめいて己を失わない。


 しかし、今までのルワンナには優しいお兄さん的存在だったはずの彼が、今のルワンナには明らかに好意を持ってくれている男の子というのがわかる。現時点でも十分かっこいい部類の少年。将来は絶対イケメン。息が荒くなりそうな設定だ。


(あ、甘ずっぱい…!)


 ときめきはしないものの向けられる好意が擽ったくて気恥ずかしい。伝染するように甘ずっぱい気持ちになってしまう。それでもガルダンのように見た目が大人ではない分、冷静に振る舞えるが。


 これが、乙ゲーの表紙のような見た目の背格好であれば隠せず羞恥に悶えていただろう。


 貴族との恋。プレイ時はきっと自分が12歳から18歳だったはずだ。何故なら、この世界には現実の学校みたいなものがあり、中等部、高等部と学び舎を共にする。つまり、ヴァルト始め、攻略者が揃うはずだ。それが王道だ。




 夢だとしても、それまでの期間この甘い眼差しを受け続けるのは流石につらい。恥ずかし過ぎる。夢らしくいつの間にか場面が転換して、攻略キャラ勢揃いの状況にはやくならないかな…などと思わず思ってしまう。




(はて、自分はどのように今後振る舞って行けばいいのやら)



「そういえば、春からセルビス学園に行くのよね?」

「そうだよ」

「寮に入るの?」

「いや、強制でもないし 家から通うよ」

「そうなの?じゃあ、まったく会えなくなるわけじゃないのね?」

「そうだね」

「よかった!アクトに会えなくなっちゃうの寂しいもの」


 両指を絡め、もじっと照れくさそうに微笑むルワンナにアクトの目はどこまでも甘い。


「寮に入ればいいのに…」


 呪詛でも唱えるかのようなトーンのジオラルドの呟きはアクトだけにしか聞こえない。それを聞かなかったふりをする。


「俺もルナに会えなくなるのは寂しいからね」


 にっこり。トスッとルワンナの胸に矢が刺さる。


(だ)


(誰だ、子供相手にときめかないって言ったやつ!!!!)

(ときめくでしょ⁉こんな美少年に甘く微笑まれて、そんなこと言われたらっ‼)


「えへへ」


 恥ずかしい気持ちがにじみ出て、思わず誤魔化すようにルワンナは俯いた。えへへって何だ!とノリツッコミをしながら。このくらいの歳の女の子が、年上のお兄さんを憧れて好きになってしまうことも別にありえるわけなので、こんな反応をしても別段おかしくはない筈だ。そう照れてしまった自分に言い聞かせ紅茶を飲む。何だか毎回、困ったときは紅茶を飲んでる気がする。これこそまさに“お茶で濁す”かな。いや、それを言うなら“お茶を濁す”だ。いや発言してないんだから当てはまらないか。


 ルワンナの心境など知らないアクトやジオラルドにとっては可愛らしい少女がただ照れてるようにしか見えない。そして、アクトにとっては嬉しい反応だ。しかし、ジオラルドにとってはよろしくない。


「そうはいっても、勉学も友人関係でも忙しくなるんでしょう?今までのようには流石に難しいでしょう。ルナ姉さん」

「あ、そうよね 私ったら…ごめんなさい」


 本当に7歳なのか、と疑いたくなる発言にアクトは笑みを貼り付けたまま答える。


「ルナやジオの方が俺にとっては大切だからね」

「よかったわね ジオ!」

「…はい」


 いや、僕はオマケでしょう。なんて決していえない。敢えて言いたくもない。そんな気持ちと一緒にサンドウィッチを飲み込む。


「ルナ姉さんは学園に行かれても寮には入りませんよね?」


 不安そうな顔でルワンナを伺う。こうするとルワアンナが自分に寄り添ってくれるとわかっているからだ。ズルいとわかっているが、使える武器は使うべきだし、弟という立場だって最大限利用する。


「そしたら僕、悲しいな…」


 眉根を寄せて俯く。


「入らないわ!」

「本当に?」

「ええ、入らないわ。だから安心して?」

「よかったぁ」

「それに 私が学園に行くまであと3年はあるわ」

「でも考えたら寂しくなっちゃったんだもん…」


 一生懸命自分に寄り添おうとしてくれるルワンナにジオラルドは内心ほくそ笑む。アクトばかりにいい思いをさせてたまるか。にこにこと無邪気を装い仲良し姉弟を演じる。勿論、アクトもジオラルドの思惑に気づいている。しかしここで「本当にジオはルナが好きなんだな」なんて言えない。「好きじゃなく、大好きなんです」とか「だから あげませんよ」なんて平気で返してくるに違いないからだ。ここは「仲がいいなぁ」と見守るお兄さんの体で行くのが無難である。



 義弟と幼馴染の攻防なんて知る由もないルワンナは3年後に出会うはずの攻略キャラについて考えていた。




 

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