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プロローグ・セカンド


 寝起きに好みの美少女が視界の大半を占めていたら、どんなに幸せな事だろうか。

 創造神が起きた際、彼女の視界の六割を占めていたのは昨日目覚めたばかりの元人形少女だった。多彩色の美しい瞳がこちらをじっと見て、こちらが起きたことを確認するやニコリと眩い笑顔を至近距離で向けてくる。

 あわや接吻まで行ってしまうのではないかという距離だ。

 このまま起きたら少女の顔にこちらの顔をぶつけかねない、と創造神は体を横に回転させ上体を起こす。

 寝覚めは良い、就寝の仕方は気絶だったがここ最近はろくに睡眠をとっていなかった気もするので頭は冴えている感じがする。

(なるほど……言葉を話せないのか)

 昨日は喋っている感じがしていたが、よく考えてみるとこちらの真似をしているだけ。

 他で比べるなら少女は生まれたての赤ちゃんとなんら変わりはない。

「おはよう」

 こうやって言葉を教えるのは久し振り……何せ三十七億年以来のことだ。引き籠りを開始する前は結構な頻度で生まれたての天使に言葉を親の代わりにと教えてやっていたが、間隔が長かったりすると「どう教えていたっけ……」と思い出すのに一苦労掛かり、こう思い出す作業をしていると……いつ見ただろうか――下界で人間が物を探す時に「どこにしまったのかしら……」と探している様子を思い出してしまい、それと重なって笑みが漏れる。

「ふふ……私は記憶の引き出しが多い分、より苦労だな」

 そんなことをふと声に出して言うと、少女が同じようにして言おうとした。

 その言葉自体は彼女にとって長いものだったらしく「もう一回言って?」とでも言いたげな様子をこちらに見せてくる。

(今のは違うんだけど……まあいいか)

 思い出しながら言葉を教えるで充分だ、と創造神は微笑んで言葉を教え始めた。

 どうやら少女は覚えがいいらしい。知恵神の細胞も掛け合わせて創られた存在なのでそれもそのはずだ。あらゆる神の細胞を参考にし、組み合わせ、最高の存在を創り上げた――倫理的に考えるとどうかと思うが……神々はそれでも文句を言ってきたことはない。

 文字を指差しながら、発音していく。

 最初に教えたのは神聖文字で、人間に教えるものとしては一番難しいが少女はちゃんと覚えて言ってくれた。

「天才だ……!! ファリエルこの子は凄いぞ!?」

 廊下に向かって創造神が叫んだが、昨日料理を作っていた大天使の声は返ってこない。

(そうか……今日は仕事か)

 今まで引き籠っていたからか、仕事だ休日だ等の区別が付かなくなってきている。

 そもそも創造神自体そこまで仕事のない神だし、ほとんどの雑務はファリエルに任せていた。今となっては申し訳ない気がする……多分。

 つまり、言葉を教えるのに苦労する事が無いという事だ。より時間が掛かってもいいから、どんどん色々な事を覚えさせて成長させていこう。

 そこで腹の虫が鳴いた。

 それは創造神の腹の虫ではなく、昨日覚醒したばかりの少女の腹の虫だ。昨日から何も食べていないのかその腹の虫はかなりの声量を誇っている。可愛らしい声で鳴くかと思いきや主張の大きい鳴き声。

「そうだねそうだね。お腹空いたよね」

 少女の手を引いて、二人で居間へと向かう。

 手は少しひんやりとしていた。指は細く、手のひらは柔らかくこちらを逆に包み込んでくるかのような感覚だ。

 好きな人と手を繋ぐことがこんなにも心を満たす事だと初めて知った。少女の手はひんやりとしているのに、心を温めてくる――この子を生み出して良かったと心の底から思う。

 今からでも抱きしめたい。

 ご飯を食べたら何しようか。言葉をまず教えないといけないのはもちろん分かっているが、どうにも自分の行動を抑えられそうにもないのだ。

 保存庫からファリエルの作り置きである料理を取り出して、温めて食べる。

 挽き肉と米に調味料や他の食材を入れて炒めながら混ぜ、焼いた卵で包んだもの。ファリエルはそこまで料理が得意ではないものの、頑張って作ってくれたらしい痕跡がある。焼いた卵は所々破れかかっていた。

 他の世界を旅していた時にとある世界で考えられた料理。

「オムライスっていう食べ物さ」

「オム……ライス…………」

「そうさ。ある世界を旅した時にね、人間たちから教わった料理のうち一つさ」

 洗ってある金属製の匙を食器棚の引き出しから出して、少女に渡す。

「これは、匙」

「これ……は、さじ」

 最初は使い方が分からないだろうから創造神は手本を見せるように行動して見せた。

 その後に一言。

「いただきます」

「いただきます!」

 少女がスプーンの掬う部分を上に向けて握りながら「いただきます」と創造神に繰り返して言い返し、対する彼女はスプーンの正しい持ち方をして見せ使い方を教える。「いただきます」と言う時は人間の場合手を合わせたりもするが、それを教えるのは自分でなくとも良いだろう。

 少女は創造神の手を凝視して持ち替え、それを見てか、創造神は思った通り賢い子だと苦笑した。

 そして、創造神はスプーンで料理を一口ほどに分けて、掬って食べる。少女も同じようにして掬って食べると、美味しかったのか自然と笑顔を溢していた――眩い満面の笑みだった。

 もっと食べていいのか、と不安げにこちらを見る少女に創造神は何故そんな顔をしてるのか分からず、数秒経ってようやく気付く。

「いいよいいよ。お食べ」

 どうやら、創造神が食べないと自分も食べてはならないとでも思っていたのだろう。気にせずに仕草で「食べていいよ」と催促すれば、少女は抑制されていたとでも言わんばかりにスプーンでオムライスを勢いよく食べ始めた。

(あ、しまったトマトケチャップをかけ忘れていたな……また今度かけたものを食べさせてあげようか)

 オムライスにはケチャップが定番とこの料理の製作者は言っていた。デミグラスソースという手もあるが、そちらの方は作らないといけないし、何より手間が掛かった覚えもある。

 面倒臭い、と言うとちょっと可笑しい気もするが如何せん、永い永い時間を料理せずの暮らしに甘んじていた為料理下手になっているかもしれない。元々料理自体得意という訳ではなかったが……それが三十七億年の間隔を空けて作ってみろ、恐らく少女の味覚に混乱状態を植え付けてしまいそうだ。

(むむむ……バース辺りにまた料理を教えて貰うしかないのか)

 そうでもしないと、こちらとしても沽券に関わる。


 二人してオムライスを食べ終わるとやる事は食事の前と一緒で言葉の練習及び言語の習得だ。

 簡単な単語から教えようとしているが、少女は覚えが予想以上に早く一を教えれば十を覚えるような子であることも分かったし、創造神からしてももはや言葉も出ない。一時間、二時間と時間が進んでいくうちには何千何万という単語を覚えきる。

 驚くべきことはその覚えている単語や言葉が神聖言語であるという事。

 人間も使う言語だが、人間からすれば何十年という歳月を得てようやく覚えられる代物――それを彼女は数時間という短期間で覚えきってしまうのだから驚きだ。

「凄まじいな……」

「何が、ですか?」

 数時間前はこちらの話す言葉を繰り返すだけで、その単語の一つ一つの意味自体を理解してはいなかった。

 「そんなことで?」と思う者がいるならば同じ事をしてみよと返したい。何十万という単語に加えて普通には出せない発音を持つ神聖言語に、複雑な形や種類を持つ神聖文字。

 見る、書く、話す、聞く、理解する――言語を理解する上で必要なことをすべて覚えるまではかなり時間を有するのだ。簡単にしてしまう者もいるだろうが、並の者では時間を掛けていないとそうそう出来るものではない。

 天界の共通語は特になく、

(下界の言葉の方から教えるべきかと思っていたが……この子のこの学習能力からしてその心配は要るまいか?)

 この学習能力は「生まれたて」であるから、という事もあり得る。

 というより、今覚えたことは今後いつまでも覚えているという確証はあまりないし、人間にも幼児期健忘などという症状があるし、その可能性もまた捨てきれない。

「なまえ……」

 色々と頭の中で考察をしている中、少女は創造神の肩をぽんぽんと叩いた。

 読んでいた本の中には様々な歴史的人物の名前や神々の名前が書いてあったが、彼女は創造神の名前が知りたかったのだろう。肩を叩かれ振り向いた彼女に再び少女は「なまえ……おしえて、ください」と聞いていた。

 対する創造神は困った表情を少女に向ける。

 

 創造神に名前は、無い。

 ゼロフルたち神々には母親である感じに「母ちゃん」「母さん」「母上」などと呼ばれ続けていたが、名前は無く……その理由があって創造神は困った表情。

 どう答えるべきか、創造神は熟考していた。

 少女は不安そうな表情を向けている。

(どう答えよう)

 創造神はひたすら悩む。

 ここで適当な事を言ってしまうとそれが名前になるだろうし、下手な事は言えない。適当に嘘を吐くのも申し訳ないし、ここは正直に言うしかないだろう。

 決心して創造神は、正直に名前が無い事を伝えた。

「名前……無いん、ですか?」

「うん」

 予想通り、驚いた表情を少女は見せた。

 その表情が何となく面白くて、創造神は少し苦笑する。

 どうしたらいいか分からないとでも言いたげな少女に創造神は少し考えた素振りをしてから、彼女に提案をしてみる事にした。それは少女が自分に名前を付けるという大胆な提案。

 少女の反応次第ではどうするかを考えていたが、彼女が嫌がっている素振りなどは無い。

 返答は無かったが、今はそれでもいいとして創造神は揺り長椅子を手をぽんぽんと叩き勉強の続きに誘い、少女はそれに従った。こうして二人して椅子に座り、揺れながら本を開いて内容のことを教えたりは何度かあったが慣れだとかそういったものは特になく、いつになっても新鮮味に溢れ落ち着くし心も穏やかになる。

 本の内容は冒険譚で、ストィリーという男性冒険家が各国を旅して回り謳う物語だ。

 神聖言語で書かれたものなので並の人間には読めないだろうが、今は少女の言語学習中。ひとまずこれだけでも良いだろう。

 言語を教えるに関しては本も最適と言える。人間たちも絵本等を通して自身の子に言葉を教える為、本を読み聞かせるなどして言語を教える――やはり、最初は本が最適だ。


 この本を最初に読み聞かせた時に、少女はこの主人公が何をしているのかと問うた。

 創造神は「冒険だよ」と答え、それに対して少女はまた質問を投げ掛ける――冒険とは何か、と。

「冒険……冒険か。……あまり考えた事なかったな」

 読み進めても読み進めても、その本には冒険とは何たるかは書いていない。この物語は元々、ある程度成長した人間に対して提供しているものであり「冒険とは何か」を書いていない理由はそう――この本を読む大抵の人間は「冒険」が何かを知っているからだ。

「むむむ……言われてみると私も「冒険」が何なのかは厳密に考えた事など無かった……」

 ある人は「旅」のことだというかもしれないが、ある人は世界のことを知るため開拓することを言うかもしれない。

「私も、勉強不足な所が見えてしまったね」

 丁度いい時に、三時を報せる時計の音が鳴った。


 三時に間食をするというのはこの世界の決まりではないが、創造神が一番印象に残っている世界に倣って同じようにこの住屋のみでの自己ルールとしている。

 これをその世界の言葉で「三時のおやつ」だ。

「さんじのおやつ」

 目の前で、フォークを二つ両手にそれぞれ一つずつ持つ少女が復唱する。

 ひたすらに可愛いと創造神は心震わせて、かなりの大きさを誇る焼き菓子を彼女の目の前に置いた。

(大き過ぎだろう……!!)

 焼き菓子の名前は「シフォンケーキ」と言う。食べ方は人によって変わるが、創造神とファリエルがシフォンケーキを教えてくれた彼の者に教えて貰ったのは砂糖を入れた生凝乳を泡立てたものを乗せて、もしくは付けて食べると言ったもの。ふんわりとした生地によく合う食べ方とも言えるだろうか。

 そのシフォンケーキなるもの……目の前にあるその物体は女性の華奢な体に入るのか疑問が浮かぶくらいの大きさ。

 ファリエルはどうしてこんな大きさのケーキを作ったんだ。

(少しお馬鹿さんなようだな……)

 早く食べたいとでも言わんばかりに体を上下に揺らす少女。そして心の中でファリエルを小馬鹿にする創造神の後ろから、声がした。

「数日に分けて食べる為に決まっているでしょうに」

 続けて言った。

「貴女の家の保存庫は経過時間を無いものにする……その特性を使ってそのケーキを――――心の声が顔に書いてありますよ『少しお馬鹿さんなようだな……』と」

 図星を突く彼の発言に創造神は目を逸らして「そんなことない」と答えた。

 そしてその隣でファリエルの事を知らない少女はこの人は誰? と創造神に目を向ける。

 ニヤリと笑う創造神。

「紹介しよう。そこのはボケカスクンって言うんだ」

「ボケカスクン! ボケカスクン!!」

 ファリエルの額に青筋が走った。

 対して創造神はその様子にお腹を抱えて爆笑していた。なんせ「ボケカスクン」だなんて偽名を笑顔で、華奢で可愛い女の子が連呼するのだから笑ってしまうだろう。

 ケーキを食べている間も、創造神はプークスクスと笑っていた。


 * * *


 創造神の自室――そこには女性の姿へと変容したファリエルと少女と創造神がいた。

「頭が痛いな悲しいな」

 ちょっとしたたんこぶを頭頂部に作られた創造神は、少女に勉強を教えるファリエルに愚痴を吐いた。

「自業自得でしょう」

 創造神の愚痴に対してファリエルの答えはそれのみだ。

「ファリエル様。自業自得って何ですか?」

「悪い事をすれば、悪い事が返ってくるという事です。人を馬鹿にすれば同じくらい悪い事が返ってくるという言葉の表しですよ」

「良い事をしたら?」

「勿論良い事が返ってきます」

 少女はファリエルの答えに目を輝かせていた。

 じゃあ私は良い事をいっぱいするので、良い事がちゃんと返ってくれるようにこれからを過ごして生きます。と言ってファリエルを微笑ませる。

「えっと……神様は悪い事しかしてこなかったんですか? ファリエル様に怒られてばかりなので……そう思ったんですけど……」

 さて、どう答えるのだファリエル、と創造神は本を読みながら彼女に目を向ける。

 創造神の視線を感じたのかファリエルはそっぽを向いていた。少女ごと創造神に背を向けている。

(コイツ……!!)

 ファリエルが創造神を改めて褒める事に照れ臭がっている事をつゆ知らずか今度は創造神が青筋を額に走らせた。

 今までしてきた悪い事よりも良い事をした方が圧倒的に多いですよ、だなんて本人の前で言う事などファリエルには些か難易度が高すぎる。

 神格者で、人どころか神々からも愛されて、天使からも愛されて、彼女を嫌っているのは悪魔やそれに近い存在くらいだろう。嫌う種族の数の方も圧倒的に少ない。そんなことを照れ臭いまま言ってしまえば共感性羞恥で創造神も悶えるだろうが……それ以上に言いたくない!

「ファリエル様……? 顔が真っ赤になっていますよ?」

「言わなくてよろしい。聞かなくてよろしい」

 小声で言う少女に、ファリエルは顔を赤くしたまま即答した。


 照れ隠しをするファリエルの指摘により、入浴する事になった。彼女は神殿に帰った。

 言われてみれば少女は「誕生」してからこの方入浴はしていない。これからの入浴が人生初めてだ。

 その前に体重と身長を謀ろうじゃないか、と創造神の提案。

 創造神は今現在、裸だった。なんと大胆不敵な行動だろうか? いいや違う、本人も心の中では結構恥ずかしがっているし、油断すれば自分の顔は一気に真っ赤に染まり上がるだろう。そう、目の前の少女のように。

 ちょっとだけ嬉しい。自分の裸に両手を顔の前にやり、何を言いだすかと思えば「しまってください」と一言。

「むむ……私にはしまう物など付いていないよ……いや、二つほどあったね。ごめんよ私が間違っていた」

 たわわに実った乳房が揺れる。その形は美女神が嫉妬する程に良く、彫刻家は彫る事よりも見る事に夢中になるだろう。

 その裸体に余分な肉など付いていない。本当に三十七億と引き籠っていた女性の体か? と疑いたくなるが、彼女は太らないし痩せもしない故に素の状態。彼女の身長は五尺二寸程度で体重は十二貫である。

「さ、脱いで脱いで」

 手の平をクイクイと上に動かして、創造神は少女に服を脱ぐことを催促した。

 これが男と女という立場であれば何と如何わしい光景か。女と女でも「脱いで脱いで」だなんてそうそう言わないだろうが……。

 そして、服を脱いだ少女の裸体に創造神は、言葉を失った。

 創造神に胸の大きさでは勝てていないものの、その形の良さは同等の程度を誇っている。女性ですらその裸体の素晴らしさにたじろぎ興奮し、白米を丼十杯いけるのではないか? くびれはほっそりとしていて、下を見てみても素晴らしい美尻だ。出るとこはちゃんと出ている。

(我ながらいい仕事をしたな……最高だ。垂涎ものだな)

 近くにあった大きめの布で隠そうとしている仕草もまた美しい。

(生まれたばかりだというのにもう「恥じらい」を覚えたか……どれどれ……ここは一つ)

「?」

「私は君のことが好きだからこうやって体を晒しているんだ。恥ずかしがっているという事は私の事がき、きききき嫌いなのかい……?」

 「嫌い」という単語を言うのに少しばかり躊躇した創造神だったが、何とか陰気を封じ込め言えば、少女はささっと布を元の場所に戻した。

「す、好きです」

 創造神は、勝利した。まさかこんな小さな嘘が通じるだなんて、と。

 歓喜したまま創造神は少女の身長と体重を測り、結果――身長は五尺一寸と一分、体重は十一貫とおよそ三斤だった。


 しばらく入浴などした事が無かったから、創造神は少し体臭に不安を覚えていた。

 しかし、少女の「神様はすごく良い匂いがします」という言葉に救われた。どんな匂いがするかと聞けば、三時に食べた泡立てた生凝乳のようにまろやかで甘く、いつまでも嗅いでいたい気にさせる匂いだそうだ。

 自分で自分の体臭がどんな匂いかは分からないし、そう褒められてもよく分からなかったが心がむず痒くなってくる。

「それは……保たなければいけないな」

 石鹸の泡を少女の髪に纏わせて、優しく洗う創造神に彼女は続けて褒めた。

「神様の、その星が点々と輝く夜空みたいな目も凄く好きです。その銀色に近い色の髪も奇麗で素敵です」

「も、モウヤメテ……私はあまり褒められるのは慣れていないんだ……」

「そうなんですか? 私はてっきりファリエル様の話からしていっぱい褒められてきたのかと思っていました」

 少女の言葉に、創造神はポツリと呟いた。

「……途中から……人間たちは褒めてくれないようになったんだ……」

「?」

「何でもないよ」

 少女の髪と体を洗った後は、創造神の番だ。

 一回でやり方を覚えたのか、少女の力加減はバッチリで心地も良い。何より度々背中に当たる乳房の感触が創造神のスケベ心をよく揺さぶっていた。

 スケベ心のおかげか、先程つい垣間見えた陰気な呟きも思いも消えていっている。

「凄いね。素晴らしいよ」

「ありがとうございます」

 そしてその素直で純朴な振舞いも、創造神の心を癒していくのだろう。


「ところで神様、私……自分の名前を決めました」

 広い湯船の中で少女が創造神の目を見て言った。

「ほう、いいね。どんな名前だい?」

「“スティー”です。冒険家ストイリーさんの名前をちょっとだけお借りしたんですけど……いけませんか?」

 上目遣いで聞く少女に、創造神はとんでもないと首を横に振った。

「自分で「これが良い」って決めたんだろう? 君が、いやスティーがそうしたいなら、私はずっとこれからスティーをスティーと呼ぼう。ついでにだけれど……私の名前も決めて欲しいな」

「でしたら……ストイリーさんの傍でずっと彼を見守っていた人の名前から……シエラ」

 創造神は、“シエラ”になった。


 * * *


 『ストイリ―冒険譚』を高く上に上げて、スティーは言った。

「私、ストイリーさんの様な冒険をしたいです」

 それがスティーのやりたいこと? というシエラの言葉に元気良くスティーは「はい」と答えた。

「私はまだ『冒険』が何なのかを分かりません。辞書にはちゃんと意味が書いてありましたが、「危ないことを押し切って行うこと。成功のおぼつかないことをあえて行うこと」では私はあまり納得出来ません。ストイリ―さんは「楽しいもの」であると確信してしたんですよね? ストイリーさんにとっては「失敗」も「成功」も区別されないもので「危ない事」では無かったはずです……私は冒険という物がどういうものかを知りたいんです」

 微笑ましい――シエラは夢を語るスティーの様子にただただ微笑ましく思った。

 人間が夢を語る時の目の輝きはいつもキラキラしている。

「あとは……そうですね。下界がどんな所かを知りたいのもあります」

「知る為の冒険って事かな?」

「そうです」

「でも、その為には何をしないといけないかな?」

 シエラの問いに、スティーは数秒間考えた後に答えた。

「勉強です」

「正解だ」

 まずは下界についての知識をある程度身に付けなくてはならない。

 そして、ある程度の護身も身に付けなくてはならない。

「――ていう事で、スティーには宿題を出さなきゃいけないね」

「宿題、ですか?」

「うん。下界では私たちの使う言語とはまたちょっとだけ違う部分が多いのさ――それをニゲラという知恵の女神に教えて貰うこと。そして、下界には色々な危険があるから……強い神様であるバースのところに行くんだ。どんな危険があるかを色々教えてくれるはずだ」

「シエラ様は……一緒に来てくれないんですか?」

「私は仕事がある」

「ファリエル様も言っていましたね。流石シエラ様ですね! 勤勉です!」

「…………ごめん。さっきのは一部建前で実は――――」


 翌日、シエラはスティーの背中を見守りながらファリエルに連れられていった。


この作品は尺貫法で大きさなどを表記する事にしました。よろしくお願いします。

シエラ様 身長158センチ 体重45キロ

スティー 身長155センチ 体重43キロです。



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