エピローグ2 -部活-
着信相手の名前が表示された瞬間に、私達の体温が下がっていくのが分かった。響華に至っては動揺を隠しきれていない。
「無理に出なくてもいいんだよ?後で折り返し電話したらどう?」
詩織が震えている響華の小さな肩に手を置く。
「だ、大丈夫」
顔が青白く変わり、汗が額を伝っている。とても大丈夫には見えないが、ここは勇気を振り絞った響華を信じよう。
「もしもし、お兄ちゃん?」
「お前、どうして相談も無く部活を辞めたんだ。俺はお前にとって兄貴であり部活の部長だぞ」
「それは、あの・・・」
「一緒に辞めたお前らから直接聞くとしよう。明日、放課後全員校舎裏に来い。なんならお前だけでもいい」
「分かった。明日行く」
「まともな理由だといいがな」
電話は終わったのだろうか。喋らなくなってから約一分経つがスマホを耳に当てた状態から動かない。
さすがに心配になり声をかけようとした時、突然私達に振り返り大声で叫んだ。
「明日死ぬかもしれない!!・・・ふにゅぅぅぅう」
突如叫んだと思えば白目を向いて倒れてしまった。
「きっと私達が部活を勝手に辞めた事にたいしてのお怒りの電話だったんでしょうね」
そうなのだ!!詩織が言うように私達は部活を無断で辞めたのだ!これで良いのだとはならないのだ!
何故辞めたのかは経験者ならお察しする方もいるかもしれない。その理由は明白。
堕落しきった部員。たいして活動しないバンド達。出会い目的のチャラ男。慢心して向上心の無い上手ぶってる先輩。そんなメンツに嫌気が差し、私達は辞めた。
だから今は清々しい気持ちで一杯だ。日々抱えるモヤモヤ、イライラなどはもう無い。解放されて沈んだ心はハイになっている。
しかし私達には一つ心残りがある。
それはボーカルが私達に付いて来ず軽音部に残ったことだ。
理由は簡単。彼女は先程電話をかけてきた響華のお兄さんに惚れていること。今の環境に満足してしまっていること。これ以上成長する見込みのない軽音部を捨て、本気でバンドを続けようという気持ちが無くなってしまったこと。辞める辞めないは個人の問題。無理に一緒にやろうと強要することなど私達にはできない。
しかし、彼女は歌が上手い。彼女を失ったのは今後を考えるとかなりの痛手だ。
「今は明日のことなんか忘れてパーッとカラオケ行かない?」
明日のことや彼女のことについて今は正直考えたくない。清々しい気持ちのまま今日は終わりたいので、私はカラオケを提案した。
「私も今日は歌いたい気分かも!」
詩織は完全に自棄になっている。きっとマイクを離さないだろう。
「そうだな、行くとしよう」
美穂はクールに答えると倒れている響華を背中に担ぎ、行きつけのカラオケへと足早に向かった。
今の私達はこのカラオケという選択肢が、後に運命を大きく変えるとは思いもしないだろう。