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七瀬と薫

作者: 雑味珈琲

「ナンパしに行こう」

「はあ?」

高校2年の春。部活に入って、青春の汗を流しているわけでもない俺こと、北村七瀬は、数少ない友人の中で一番仲の良いであろう、木下大地の発言にほとほと困り果てていた。

「いいじゃんかよ〜ナンパ行こうぜ〜」

「またかよ。一昨日しにいったばかりじゃないか」

「そう堅いこと言うなって。お前が居るだけで収穫率が上がるんだからよ」

収穫率て・・・。

「しょうがねぇなぁ。その代わり明日の昼飯奢りな」

「ぐ・・・まぁいい。じゃあ後で駅前な」




一時間も経たないうちに駅前で合流した俺と大地は、品定めと言うわけでもないが、右に左にと視線を巡らす。

「どうだ〜七瀬」

声の調子から良くないらしく、何度か溜め息を吐いている。

「今日は駄目だな。とっとと諦めた方がいい」

「はあ、まあお前が言うんだったら・・・」しょうがないと続けられると思っていたが大地の口からその言葉が出ることは無かった。

口を開けたままボーっとしている大地の視線を追っていくと、美少女という言葉が似合う二人組が駅の改札口から出てきた所だった。一人は栗色の髪をウェーブさせ、大きな目に若干丸みをおびた輪郭が特徴で大地の好みにバッチリ当てはまる娘だった。

もう一人は腰辺りまで伸びた金色のストレート髪を中程で束ね、日本人ではあり得ない紅い瞳をしていた。

「七瀬、これは行くしかないだろ」

大地のその言葉を合図にその娘達の所へ歩きだす。




なんと言うか、あまりにもあっさりと話がまとまり、逆に驚くという状況に陥り大地は若干混乱し戸惑っていたが数秒でなんとか調子を戻し、歩きながら自己紹介を始めた。

「俺は大地。んでこっちが七瀬。こんな顔してるけどちゃんとした男だぞ」

ウソー、という言葉を栗色の髪の娘が言う。まあ確かに俺は若干、若干女顔ではあるがそこまで驚かれる程ではないと思う。というか思いたい。

「私は神崎真里。真里って呼んでね」

「私は高坂薫。呼び方はお任せします」

思った通りと言うわけでもないが俺と大地と同じように彼女らも対照的な性格のようだ。尤も名前を教えあっただけで分かる様なことじゃないがな。

「真里ちゃんに薫ちゃんかぁ。かわいい名前だし、似合ってるね」

お約束とでもいうのか、大地はやはり名前を褒める。彼女らも満更ではないようでニコニコと笑っている。真里はふわふわと栗色の髪を揺らし、薫はそうはいない金色の髪をさらさらと揺らしていた。

「どうかしましたか?」

俺の視線に気付いたのか、首を傾げながら俺の歩調に合わせる。

「髪、綺麗だなって」

「ありがとうございます」

彼女にとって金の髪は自慢のようで嬉しそうに微笑む。どうやら母方の祖母がイギリスの出身で、偶々その血が濃かった為金の髪となったらしい。

「それにしても、七瀬が何かを褒めるなんて珍しいね。俺なんか1度か2度位しかないよ」

「へぇ、良かったじゃん薫」

「別に珍しい訳じゃない。ただ大地が褒められる事をしないだけだ」

なんだよそれー、と不満そうな声があがるが気にしない。気にし始めたらキリかないからな。

「さて、この後どうするの?」

「んー俺的にはどこかでご飯食べながら色々話したいなってところだけど、どう?」

「あ、じゃあ私いい店知ってるよ。そこにしない?薫と七瀬もいいでしょ?」

「うん」

「いいよ」

「大地もいいでしょ?」

「もちろん。真里ちゃんとならどこまででも行ってあげるよ」

またまたーと真里はからかっているが何気に大地は本気なんだろうなぁ、っていうか仲良いなお前ら。

「なんかあの二人仲良いですね」

どうやら薫も同じことを思っていたようだ。

「七瀬さんもそう思いませんか?」

「そうだな。大地は明るさだけが取り柄のようなやつだからな。まあその明るさに何度も救われてる俺が言うのも何だがな」

初対面の娘に何言ってんだろうな俺は。

「私も真里の明るさに救われてます。昔から入院ばかりしていた私の隣で笑って支えてくれたんです。どんな時も、太陽みたいな明るい笑顔で元気付けてくれたんです。・・・あはは、私何言ってるんでしょうね。七瀬さんとは今日初めて会ったばかりなのに」

「別にいいさ。俺も似たようなもんだ」

今日初めて会ったばかりのこの娘と並んで歩き、笑い合っているのに味わったことのない幸福感、というのだろうか。それに満たされていた。何故かは分からない。でも、ただただ嬉しかった。

「私達似た者同士ですね」

一頻り笑った後薫が呟く。前を歩く大地と真里は笑い合い、いつの間にか手まで握っていた。相手に触れることに関してだけ奥手な大地にしては珍しいことだった。もしかしたら、真里が強引に繋いだのかもしれない。まあそっちの可能性の方が高いだろう。

「どうしたんですか?私何か気に障ることでも・・・もしかして似た者同士なんて言ったから」

意図せずしかめっ面になっとらしく薫が慌てたように謝ろうとする。

「違う。そうじゃない。似た者同士なんて思っていたのはこっちも同じだ」

ただ、と付け足して大地の方を見る。

「あんなに早く仲良くなれるのはちょっと妬けるな」

薫は困った様なこと笑みを浮かべ

「そうですね」と呟いた。

「こういう時はアレだ」

「アレ?」

薫の左手を右手で掴み走り出す。

「薫と俺がもっと仲良くなればいい」

薫は誰が見てもわかるくらいに驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔へと変わっていった。




「着いたわよ」

「え?でも真里、ここは」薫が困ったような声をあげる。それもそのはず、真里に連れてこられたのは、居酒屋だった。まあ時間帯的には丁度良いくらいだとは思うが、近い歳の女の子に連れてこられるとは思わなかった。

流石の大地も絶句、というか苦笑い。どうしようか、と薫と目を合わせる。と思ったら、いきなり顔を赤くして逸らされた。ちょっとショック。いやかわいいけどさ・・・。

「う〜ん、ちょっとマズイんじゃないかなぁ。一応未成年だし、もし見つかったら色々と面倒だよ?」

経験者は語る、というやつだろうか。大地の言葉を聞いた真里は大丈夫とばかりに、そこそこある胸を張り

「この店は全部座敷になってるから他の客に見られることはないし、店長が知り合いだから見逃してくれて、潰れても介抱してくれるから」と自慢気に説明してくれた。

「それから、財布の中身の心配ならいらないわよ。ここの店長には色々と貸しがあるから」

じゃあまあそういうことなら、と『飲み処・宝船』という縁起の良さそうな店名が書かれた暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませー。4名様ですか?」

若い(といっても明らかに俺たちより年上)女性店員の声に、こういう場所に慣れていないらしい薫がびくっと反応する。

「店長に神崎真里が来たって伝えてくれますか?」

「少々お待ちください」

暫く待つと、短い髪の上に手拭いを巻いた少し線の太い体格だが表情は柔らかく、胸に菅原と書かれた名札をつけ、その上に店長と書かれていた。

「おー真里ちゃん久し振りだね。元気だったかい?」

「うん。菅原さんも元気そうだね」

「もちろん、それだけが取り柄みたいなものだからね。今日はどうしたの?まさかまた飲ませてくれって言うんじゃないよね」

「んっふっふー、そのまさかよ」

真里と菅原さんは結構以前からの知り合いらしく親しげな様子だ。真里の言った貸しというのが気になるが、まあ悪い人では無さそうだ。

「しょうがないなぁ。ちょうど奥に空いてるところがあるから案内するよ。この子達も一緒だよね」

「ありがとね菅原さん」




石畳の廊下を少し歩くとそこからは障子で仕切られた恐らく座敷部屋が並んでいた。俺たちが案内されたのは、一番奥の角部屋だった。店の入り口からは直接見ることのできない位置にあり、真里も菅原さんも慣れていると思わざるを得なかった。

大地もそう思ったらしく、

「真里ちゃん、なんか慣れてるね」と言うと、

「まあね、友達とたまに来たりするから。あ、でもナンパされたその日の内に来るなんて思わなかったけどね」と言われて、俺と大地は思わず苦笑いしてしまった。

「さて、何にしようかなぁ。薫はどうする?」

真っ先にメニューを見始めた真里は鼻歌混じりに薫と選び始める。

「私は烏龍茶でいいよ」

「ダメ!」

「なんで!?」

「アンタ明日からまた病院でしょ?だったら今の内にパーッとやっておかなきゃ損するだけよ」

病院、という言葉を聞いて俺と大地がそれぞれ怪訝な顔を浮かべる。

「どこか悪いのか?」

「別にそういうわけじゃなくて、ただ検査を受けるのに暫く入院しないといけないんです」

ここに来る途中の会話を思い出すと、こういうことは昔かららしく、今ではもう慣れっこなんだそうだ。「アルビノって知ってます?簡単に言うと体のメラニン色素が薄い人達を言うんですけど」

「あーなんか前にテレビでやってた気がする。色素が薄いから肌が白かったり、目が赤かったりするんだよね?」

「大体そんな感じです。個人差はありますけどね。それだけなら対策さえとってればある程度は大丈夫なんですけどね」

「へー、んでその検査の為に明日から入院するってこと?」

「そういうことです。まあ体は健康ですからなんの問題も無いんですけどね」

トントンと障子をノックされ近くにいた薫が開けたため話はそれっきりだった。キリのいい感じなところだったから丁度いいとはおもうけど。

障子の間から顔を入れてきたのは菅原さんだった。両手には、サラダの盛り合わせや焼き鳥、刺身といった酒のツマミにもなる食事を持ってきてくれた。

「はい、おまたせ。何飲むかはもう決めた?」

「私カシスオレンジ」

真っ先に真里が手を挙げて言うと、大地が

「じゃあソルティードッグ」と続き、俺がジントニックを頼む。薫はメニューをジーッと眺めると

「じゃあスクリュードライバー?でお願いします」やっと一仕事終えたぜ、とでも言いたげな表情で注文する。

「了解、直ぐに持ってくるからな」

パタン、と障子を閉じてから二分もしないうちに持ってきたのに驚いた。直ぐとはいっても速すぎだろう菅原さん。

「それにしてもさぁ、大地と七瀬は何でナンパなんかするの?」

これは俺達にとってお約束とでも言うべき質問だ。俺は、自分で言うのもアレではあるが、明らかに美人の部類に入る中性的な顔立ち(女顔とは言いたくない)で、大地も女友達に言わせると男らしくてカッコいい顔らしい。口を開けばあんなんだが。

そんな二人がナンパなんかをしているのだ。疑問に思っても不思議はない。

「んー最初はそうでもなかったんだよね」

そう、とはナンパをする必要がなかったという意味だ。

「前にその筋の女の人に手を出しちゃって、一悶着あってね。それ以来ある意味有名人になっちゃってね」

やれやれといった表情でサラッと話す大地に真里と薫は微妙に引いている。因みにこれは半年ちょっと前の話で、既に手打ち(その筋の人風にいうと)になっている。

「それで周囲の女の子は怖くなって近づこうとしなかったと。そんな感じ?」

「大体ね」

「七瀬さんはどうしてなんですか?」

スクリュードライバーをコクコクと傾けながら薫が言う。慣れないせいからか少し酔ってきているらしく、元々白い肌に赤みが増してきている。

「改めて聞かれると難しいな。最初は大地に誘われたんだったかな。それでどんなものか興味が湧いて付いていったら、事ある毎に連れていかれてってところか。まあ、他にやることがそう多いわけでもないからな」

「なんか普通ね」

「普通が一番だろ」

「そう?私的には、実は物凄い女殺しでーみたいなの期待したりしたんだけど」

「生憎、そういうことはない」

「いいじゃないですか普通で。それが一番いいに決まってますよ」

そう言って笑う薫に不覚にも見惚れてしまった。

「どうしました?」

「あ、いや、なんでもない」

そう言って誤魔化すようにグラスを傾けた。隣でニヤニヤしている大地が目にはいったが気にしない。というかしたくない。




それから幾度となく笑い合い、バカな話で盛り上がりまた笑い合う。本当に俺達は初対面同士なんだろうか。そんな疑問が何度か頭を過ったが、そんな疑問がどうでもいい位に楽しかった。こんなに笑ったのは久し振りだったかもしれない。そんな時間にもやはり終わりはある。まあ、単純に薫が潰れてしまったからなのだが。

「もうダメれす。のめません」

そう呟くと、静かな寝息と共に夢の世界へ。

「あら、ちょっと飲ませ過ぎたかな」

「こんなもんじゃないか?あまり飲んだことないみたいだし」

「それもそうね。じゃあ七瀬、薫のことお願いね」

「は?」

「当然でしょ」

「いやまあ構わないけど。・・・薫の住所教えてくれるか?」

真里は暫く考えると、備え付けられたアンケート用紙とボールペンを取り出して住所と最寄り駅、そこからの簡単な地図を書いてくれた。

「ありがと・・・」

紙を貰おうと手を出したら何故か引っ込められた。

「一応渡しておくけど、何処かで休憩していっても大丈夫だからね」

休憩という単語に思わず反応してしまうのが悲しき男の性というかなんというか。

「ふっふっふ、大丈夫よ。薫、七瀬に惚れちゃったみたいだし」

なんですと!?

「もしかして七瀬も薫に惚れちゃってたりするの?」

思わずビクリと反応してしまう。そう、最初の普通が一番というやり取りに見せた笑顔が脳裏に焼き付いて離れないのだ。

「まあ私と大地から見たらバレバレだったけどね二人とも」

「ホントだよ。七瀬は普段感情読みにくいのにこうときは解りやすいんだから」

バレたならしょうがない、白状するとしよう。正直一目惚れだった。綺麗な金色のストレートの長い髪に、ルビーの様な赤い目。透き通る様な白い肌。好みとかそういうの関係なく惚れてしまった。

「ま、とりあえず薫がこのままだと風邪ひいちゃうから連れていってあげたら?」

真里はやれやれといった表情で言い、大地は終始ニヤニヤとしていた。

「そうだな。大地、とりあえずこれ」

財布から諭吉さんを出して渡してやる。

「足りなかったらまた言ってくれ」

「了解。気を付けてな」

「ああ」

背負った薫の体は思ってた以上に軽くて驚いたが、それ以上にドキドキしてしまった。




薫の最寄り駅はここから二つ離れた所で歩きでも十分行ける距離だった。酔い醒ましを兼ねて歩いて行こうと決めると、薫を背負い直して歩きだす。

暫く歩いていると、流石に気付いたらしくモゾモゾと動き始める。

「酔いはどうだ?」

「んーだいじょうぶですよー。なんだかいいかんじにきもちいいですー」

そのままぎゅーっと抱きついてくる。酔っているせいか、あまり力は入っておらず、そのまま窒息なんていうお約束? は無かった。なんてことはない。実は微妙に苦しかったりするが、背中にあたっている柔らかい感触のことを考えると首が絞まるのなんて気にならなかった。

「落ちないようにちゃんと掴まってろよ」

「は〜い、わかりま・・・えええぇぇええ!?」

「・・・いきなり大きい声をだすな。頭に響く」

「あ、ごめんなさい。じゃなくてなんで七瀬さんが私をおんぶしてるんですか?」

「覚えてないのか?」

「・・・残念ながら」

取り敢えず薫が潰れた所から説明すると(惚れた云々は黙っておいた)やっぱり恥ずかしかったようで、俺の背中で縮こまる。

「ごめんなさい。なんか迷惑をかけてしまったみたいで」

「迷惑なんて思ってないよ。俺がやりたいからやってるだけだ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

今のやりとりに思わず笑い合う。

「そういえば真里と大地さんはどうしたんですか?」

そういえばどいしてるんだろうか。店を出てからは連絡をとっていないし特に連絡する理由もない。

暫く黙っていると思い出したかのように薫が口を開く。

「そうだ。真里に変なこと言われませんでした?」

「変なこと?」

「あっ、いえ、その〜」

「一目惚れ?」

「何で知ってるんですか!?・・・あ」

墓穴を掘るとはこういうのを言うのだろうか。あ、と言った後の反応は見ていて面白かった。磁器の様に白い肌が独特の目に並ぶ位に赤くなっていくのが容易に想像出来た。

「・・・・・・」

「くっ、ふふふ、あっはははは」

「笑われた!?」

「いや悪い。そんなつもりじゃなかったんだけどな。本当に俺達は似た者同士だよ」

「え?それってどういう・・・」

「俺も薫に一目惚れだったってことだよ」

言ってしまった。

薫はしばらくキョトンとしているのか反応が無かった。

「薫?」

「・・・なんですか?」

「いや、反応が無いからどうしたのかと」

「何て言うか、ツラいときだけじゃなくて、嬉しい時も人って固まっちゃうんだなって」

「薫」

「はい?」

「まだ知り合って1日も経ってないけど、俺は薫が好きだ。俺と付き合って欲しい」

「はい。私も七瀬さんの事が好きです。こちらこそよろしくお願いします」


現在練習で書いている小説の1つです。読まれた方の反応次第で連載に移すかもしれません

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