もう何も怖くない
「こんな業物、あのジジイにはもったいないよなぁ」
「剣聖である茂部様に使って頂けるのです。その剣も喜んでいますよ」
「そうだよそうだよ!!強い人が使ってこその剣だもんね!!」
追い付くと、こんな身勝手な会話が聞こえてきたので、思わず苦笑いする。
「おい、そこのクズヤロー共」
自覚はあるのかこの呼び掛けで振り返った。
「てめぇは……またお前かよ。犯罪者」
「もうね、権力なんぞ怖くないんだよな。だから声を大にして言うぞ。俺は!!強姦なんぞ!!してない!!八雲さんが論破してくれただろうが!!まだあんな子供の戯れ言みたいな証言信じてんのかこのアホンダラが」
「茂部様?この方は?」
「こいつは鋼牙っていう、俺と一緒に召喚された男なんだけど、天職が鍛冶屋っていうハズレ職でな。雑魚だから追い出されたのに逆恨みしてアリアさんを強姦したクズだよ」
事実が10%くらいの説明を聞いた女性達が俺に向ける眼差しがゴミを見るそれに変わった。
「あーー、まぁいいや。とりあえずお前、その剣はあの爺さんのもんだろ。返せ」
「は?何でだよ?勇者である俺が使ってやるんだぞ?どうして……」
「めんどくさいからよ、『決闘』を申し込む」
決闘とは、一対一で戦うことが前提条件の試合、いや、死合である。
条件によっても違うが、本格的な決闘は勝利条件の一つに相手の死が入る。
「誰が受けるかよ。決闘なんぞ面倒くさい」
「ほう、ビビってらっしゃる?!」
「はぁ?んなわけ……」
「皆さーん!!聞きましたかぁ~?!勇者様は鍛冶屋に負けるのが恐いんだって~!!あんだけ勇者の名前騙って好き放題してたのにね~!!」
「そ、そうだーー!!勇者なら受けろーー!!」
勘定を踏み倒された店の店主が叫ぶ。
「意気地無しーー!!てめぇなんぞ勇者じゃねぇーー!!」
ポーション屋の店先から店員が叫ぶ。
「そうじゃーー!!貴様は鍛冶屋にビビる臆病者じゃーー!!」
爺さんが叫ぶ。
『受けろ!!受けろ!!受けろ!!受けろ!!』
通りにいた人達からの受けろコールによって逃げ道がなくなった茂部。
しぶしぶ勝負を受けた。
「意識不明か、降参したほうが負けだ。俺が勝ったらその剣を返せ」
「俺が勝ったら何でも言うことを聞け!!」
「「いいだろう」」
「では、フゥァイト!!!!」
そこら辺にいたおっさんの声で茂部が動く。
「ぜりゃっ!!」
かなり早い袈裟斬り……いや、遅いな。ジャワティの半分も早くない。
「そい」
ゴーレムフィストで妨害。
「ちっ」
飛んで後ろに下がった。
「お前は剣聖だったな。ならば」
すらりと阿弥陀を抜く。
「俺も剣でお相手しよう」
「なめんな!!」
下からの切り上げ。阿弥陀で弾く。
横に一薙。阿弥陀で止める。
大上段からの振り下ろし。がら空きの腹を蹴り飛ばす。
吹っ飛んで行き、民家の壁に激突した。
「げほっ、ぐ、ぐっぞぉ!!」
「おいおいどうした。このまま正攻法で勝てそうなんですけど?体調でも悪い?」
「ふざけんな!!」
切りかかってきた。
適当に立ってるだけで阿弥陀がすべての斬擊を叩き落としてくれる。
剣術LvEX。チートである。
「くそがっ。喰らえ!!」
スキルを使ったのか、細かい斬擊が沢山飛んできた。
後ろの野次馬が危険なので全部衝撃波で打ち消した。
「そんな……」
「そろそろ反撃いくぜ」
阿弥陀で切りかかる。
適当に腕振ってるだけだが茂部は必死の表情で防ぐ。
俺の打ち込みを茂部が止め、鍔迫り合いになった。
「よいしょ」
左腕を阿弥陀から放し、茂部の剣の刀身を掴んだ。
「は?」
「ふん!!」
義手の握力に任せて剣を粉砕した。
「なっ」
「ひひひ」
後ろに跳んで下がり、阿弥陀を納刀。
茂部は鍔だけになった自分の剣を呆然と眺めていた。
俺は茂部に向かって走り、
「どりゃぁ!!」
全力でぶん殴った。
格闘のスキルなんかは無いが、ガントレットも義手も金属製のため、とてつもない威力のパンチになる。
「う、うぅ」
「ありゃ、まだ意識がある」
そのまま何も出来ない茂部を馬乗りになって殴り続けた。
顔の原型が無くなってきた所で止め、意識がないことを確認。
審判の方を見る。
「勇者気絶!!よって鍛冶屋の勝ち!!」
『ウォオオオオオオオオ!!』
勇者が負けて喜ばれる。日頃の行いだな。
「ほれ、寄越せ」
「い、嫌です!!」
茂部の取り巻きに剣を要求するが、ごねる。
「俺が勝ったの!!だから拒否権は無いの!!」
「ふ、不正です!!何か不正を行ったに違いありません!!」
「そ、そうだよ!!そうじゃなきゃ鍛冶屋なんかが勝てっこない!!」
「不正、ねぇ」
「そうです!!潔く不正を認めて負けを受け入れ……」
「証拠は?」
「……っえ?」
「証拠はなんだっつってんだよ。まさかない訳じゃないよなぁ?正義を謳う勇者様がなんの根拠もないのに不正だなんだと言ってる訳じゃないよなぁ?」
「そ、それは……」
「はい、じゃあこれは貰って行きまっす」
言葉に詰まった女性から剣をもぎ取り、野次馬の中にいた爺さんに渡す。
「ありがとう!!本当に有り難う!!」
「いいよ。あのアホンダラを殴るいい口実だった。じゃあ帰ろうかファル」
「はい!!」
「と、その前に寄るところが……な」
「?」
ニヤァと邪悪に笑う俺。ファルは不思議そうに首をかしげた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、ミグレア全域の情報誌にある記事がトップニュースとして載った。
その記事には誰かの顔だったのであろうぼこぼこの物体と、いい笑顔でピースする男の真写が載っていた。
見出しにはでかでかと『勇者が負けた!?鍛冶屋相手に無様に気絶!!』
記事には事細かに決闘の詳細が書かれており、その記事を読んだ者は例外なくこう言った。
『勇者はクズだな』
と。
この記事は瞬く間に国外に広まり、ほぼ全ての国で話題になった。
記事に書かれたことが事実なのは偽装できない真写が証拠であった。
各国で同じく好き勝手していた勇者達はどの店でも入店を断られるようになり、勇者の立場を利用しようとしても鼻で笑われる。
実際に負けた茂部はパーティーメンバーも立場も失い、クソ女の提案で城の一室に引きこもっている。
ブクマが300件を突破しました!!
こんな行き当たりばったりな小説を応援して下さり、誠に有り難うございます!!
そして今回でなんと100話目となりました!!
ここまで続けられたのは皆さんの応援あってこそです!!
続きが気になる、面白いと思っていただけたら、ブクマ・感想よろしくお願いします。




