オンセーン
俺の天才的な勘によって掘り当てた温泉は、日本人三人組の心を大いに踊らせた。
凄まじい勢いで湧き出る温泉はすぐに周囲の窪み全てを露天風呂に変えてしまった。
「温泉宿を建設するのです!!」
「しけたこと言ってんじゃねぇよ!!大体何でもできるんだぞ?温泉街いや、温泉郷を作ろうぜ!!」
「テンション上がるでござるなぁ!!」
「まぁ、ひとまずは……」
「一風呂あびますか!!」
パパっと服を脱ぎ、露天風呂に飛び込む。この世界は風呂が一般的ではないため、貴族や王族などの特権階級しか使えないのだ。
国に保護されていた勇者達は使えていたかもしれないが、召喚初日に追放された俺は長いこと入ってなかった。
「体の芯から暖まる~」
「これです~これですよオンセーンというのは~」
「オンセーンサイコーでござるぅ~」
グデ~ッとくつろぐ。
「鋼牙氏?腕の鎧は外さないのですか?」
「ずっと思ってたでござるが、その眼帯はなんでござるか?」
不思議そうに聞いてくる。
「ありゃ、お前らには話してなかったか。お前らも元とはいえ勇者だしな。話しておくか」
「「?」」
「よく見とけ」
俺は後頭部で縛った紐をほどき、眼帯を外した。
真っ赤に焼けただれた皮膚と、水分が蒸発して真っ白になり、神経が傷ついたのか意思と関係なくギョロギョロ動く左目が顕になる。
次にガコン と、肩から左腕を外した。
「え、こ、鋼牙氏!?か、顔が……」
「う、腕が無いでござる……」
「この傷は全部、クソ女……アリア・メイザスにやられた」
「あ、アリアさんが!?」
「どうして!?」
俺は二人に事実を話した。俺が強姦の免罪を被せられたあの夜、何があったのかを。どれほどクソ女がクズだったかを。
「と、いう訳だ」
「そ、壮絶ですな」
「ひ、酷いでござる」
「ああもう、思い出したらはらわた煮え繰りかえってきた!」
「それだけやられて復讐とかは……」
「…それは、なんていうか、なぁ……」
俺は友人二人に、飛行船の上でファルに話した通りに自分の思いを語った。
「鋼牙氏。それは優しさではなく、単に鋼牙氏が腑抜けなだけです」
「他人のことなんか考えないのが鋼牙クオリティでござる。むしろそんなクズに支配されている民衆の為にも復讐し、制裁を食らわせたほうがいいでござる」
「…………じゃあ、次ちょっかいかけて来たら、少し反撃しようか」
「うーーーむ、煮え切らないです」
「まぁ、それで吹っ切れたらいいでござる」
「ま、それは置いといて。これから忙しくなるぞ!!」
それから、現代人三人組は大工にジョブチェンジした。
といってもトンテンカンテンやった訳ではない。
鋼牙の要望通り日本風の温泉を建設しようと取り掛かった鉄人隊&MORE'sに対して
「違う!!そうじゃない!!そうじゃないんだよ脳筋共!!」
「そこを……なんか、こう……曲線?的にしてくださよ!!」
「あ、そうそう!!それでござる!!日本っぽい!!日本っぽいでござる」
横からピーチクパーチク口を挟みまくっただけである。
そんなことをやったら
「でてけっ」
建設現場を摘まみ出されてしまった。
「チッ、あいつらには大隊長を敬う気持ちがないのか」
「こないだ災害レベルの魔道具を何にも考えずに使ったからじゃないですか」
「何にも言えねーーーーーー」
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「爺さん!!畑仕事はどうなりそうだ?」
「おおコウガ。不思議なんだが、何故か知らんが土壌がめちゃくちゃなんじゃ。様々な種類の土が混ざり合ってたり、地層が引っくり返ってたりな。しかも変な石が沢山落ちとるんじゃ」
「へぇ、変な石?」
「ああ、この石を見てくれ。炉で溶かされかけて、また固まったみたいに一部ガラスみたいになっとる」
「…………」
微妙に心当たりがある鋼牙は黙る。
「こっちの石もだ。この面がまるで磨かれたみたいに綺麗でツルツルだ。前に達人が岩をぶったぎってたのを見たことがあるんじゃが、こんな感じになってたんじゃよ」
「…………」
「お前、まさか」
「頼んだぞじいさん。じゃ、アディオス!!」
鋼牙は逃げた。
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鉄人隊が全ての家を立て替えた。
薔薇の花園が道を舗装し、家具を作った。
マーガレットと怪物達がみすぼらしいボロ切れを服にした。
世紀末治療隊が住民全員を健康にした。
幼女護り隊が食材を買ってきた。
そして爺さんが畑で食糧事情を多分解決してくれると思っている。
俺がこの村の為に出来るのは……




