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努力を知らない卑怯者  作者: 自宅警備員Lv9999
短章 森の怪物
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未来の姿

シリアスになった……もっとふざけたい……



 鋼牙が急ごしらえした、少年の墓の前にて


「なんか・・・悲しい存在だったな・・・」


「あんたの同類が作ったのよ」


「俺が作った訳じゃないし、あんなもん作った奴を俺は同類とは思わねぇな」


「儂もじゃ」


「ま、成仏しろよな・・・」


「精霊の加護があらんことを」


「どうか、安らかに眠れ・・・」


 三者三様の方法で、少年の冥福を祈った。


「さってと、まぁ良かったな、脅威が消えて」


「ええ、本当に感謝してもしきれないわ」


「おう、沢山感謝してくれ。具体的には物で」


「コウガ・・・お前さんという奴は・・・」


 相変わらず図々しい鋼牙にお爺さんは呆れ顔だったが、アルティスは笑い始めた。


「ふふふ、あはははは!!ええ、ええ、良いわよ。あなたはエルフの救世主だもの!!」


 あれほど強力な力をっ奮った後だというのに、のほほんと能天気に笑って、冗談すら口にする。


 そんな姿が、アルティスを和ませたのかもしれない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺達が集落に帰って来ると、まず俺達には大量の魔法と矢が飛んできた。


 すべて防いで、アルティスが怪物を倒したことを説明すると、今度は大量の感謝と称賛が飛んできた。


 場は一気にお祝いムードとなり、広場で祭が行われることになった。


 いくつものテーブルが並べられ、色とりどりの料理が振る舞われる。


 数日前の獣人達との食事会を思い出す。


 付近(かなり遠いが)の他の集落のエルフも招いて、真っ昼間から大騒ぎを始めた。


 長年語り継いできた恐怖の怪物を倒してくれた英雄だと祭り上げられ、エルフの偉い人が入れ代わり立ち代わり挨拶に来た。


 ぶっちゃけ動けないうちに小細工かまして吹き飛ばしただけなのでたいたことはしていないのだが、悪い気はしなかった。


「祭り上げられる気分はどう?英雄さん?」


「悪くないね。控えめに言って最高だ」


「そう・・・」


 変な沈黙が流れる。


「ねぇ・・・」


「おお!!英雄殿!!我が娘と仲が良いようで!!」


 アルティスが何か言い掛けたが、頭に絆創膏を貼った酔っ払いジジイに遮られた。


「ちょ、、お父様!別に仲がいい訳では・・・」


「英雄殿が望むならば、嫁にもらってくれても構いませんぞ!?」


「ちょ、ちょちょちょ!何行っちゃってんのお父様!私がコウガとだなんてそんな#$%&*・・・」


 真っ赤な顔で指をもじもじさせながらこっちをチラ見してくる。


「ハハハッ、有り難いけど、アルティスが嫌だろうさ。冗談でも言うもんじゃねぇや」


 俺は笑って受け流した。たった一日一緒にいただけの男となんて可哀想だろう。


「わ、私はコウガだったら別に・・・」


「ん?なんか言ったか?酔っぱらいの声で聞こえんかった」


「な、何でもない!!」



 KYの副作用{好意が込められた女の子の声を聞き取りにくくする}発動。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あんたが怪物を倒した男かい?」


 急にちっこい婆さんが話しかけてきた。婆さんは本物の魔女みたいなローブを着て、三角帽子をかぶっている。世界が世界だから本物かも。


「ああ、そうだが」


「あいつには知人が何人も殺された。敵をとってくれてありがとうね」


「そんなつもりであいつを殺した訳じゃない。礼はいいよ」


「いやいや、それじゃぁ私の気が収まらない」


「オババよ、得意の占いをやってやったらどうじゃな?」


「おおジジイ、そりゃぁええ。若いの、私がお前さんの未来を見せてやるよ」


「お、おう?」


 唐突に占いが始まった。この婆さんの占いは有名らしく、珍しいものみたいな反応だった。


 テーブルが一つ片付けられ、上に召喚初日に見たようなでっかい水晶が置かれた。


「さぁ、見ろ。この水晶はお前さんの未来をみせてくれる」


「めちゃくちゃ胡散臭いぞ」


「やかましい。いいから覗け。水晶の奥を」


 言われた通りに覗きこむ。ずっと眺めていると水晶の中に紫色の煙のようなものがゆらめき始めた。


「さぁ、何が見える?」


 その婆さんの声を聞いた瞬間、俺の視界は真っ暗になった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 気がつくと、俺は焼け野原に立っていた。


 しかし、どうしたことか体が動かない。数秒経って気付く。


 俺は誰かの視界を共有しているのだと。


《誰だ?こいつ》


 自分では目を動かせないので確認することが出来無い。


 俺の視界の持ち主は焼け野原をただただ歩いていた。


 街だったのであろう。建物の基礎や壁の一部、ガラス片が散らばっている。


 人の死体も複数あったが、見なかったことにした。


《どこだここ》


 何故か見覚えがあるような、ないような。ああ、社会見学で行った原爆資料館のセットみたいなんだ。


 そのとき、視界にとんでもないものを捉え、体が止まる。


 まばらに石畳が残る道だった場所に、一人、人が倒れていた。


 着ている鎧、近くに落ちている折れた剣二本。


 まさしくそれは、ジェントーだった。


 体の主は慌てて駆け寄り、抱き起こす。


 右胸から左脇腹にかけて巨大な切り傷があり、どう見ても致命傷だった。


 まだ辛うじて息があり、口が動く。


「私・・・が・・・助けた・・・女の子は・・・無事ですか・・・な?」


 道の脇には、剣で地面に留められた小さな死体があった。


 視界が上下に動く。ジェントーはとても穏やかな笑顔を浮かべ、血の塊を吐き出して事切れてしまった。


 しばし硬直してから、死体を放置してよろよろと歩き出す。


 フラフラと歩いていると、またあった。


 一人の男を庇うように覆いかぶさり、もろとも突き刺されたピエールの死体が。


 視界に入れないように目を逸らし、歩き続ける。何かを探すように。


 突如、視界が揺れた。後ろから肩を叩かれたらしい。


 振り返ると、マッスルだった。


 マッスルには見たところ外傷はなく、少し嬉しくなる。


 そのとき、体の主が言った。


「ファルは、ファルはどこだ!?」


 マッスルは困ったような顔になり、ある方向を指差した。


「あっちか!!」


 そっちに走って行きかけ、少し進んで振り返った。


「どうした?一緒にいこうぜ?」


 その呼びかけに、マッスルは困ったように笑い、ゆっくりと前に倒れた。


 マッスルの背中には、無数の剣が剣山のように突き刺さっていた。


 頭を振り、走り出す。一直線に、焼け野原をひた走る。


《だめだ!!行くな!!行くな!!》


 行く先には、きっと酷い物がある。もっと悲惨なものがある。


 しかし、体の主は止まらなかった。


「あっ」


 見つけてしまった。見たくなかったものを。


「あぁ・・・あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 絶叫したのは、どっちだろう。俺も、()()()()も、どうしようもない絶望感に陥った。


 しばらく地面にうずくまっていたが、急に立ち上がった。


 そして、凄い勢いで飛び上がった。


 段々と、視界にモヤがかかっていって・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場所が変わった。視点も変わっていた。


 薄暗い洞窟の中に、髪が延び放題でぼっさぼさの俺がどっかりと座っていて、それを俺が上から見下ろしている。


 しかし、俺の様子がおかしい。いきなりクックックと笑い出したかと思えば、すぐに涙を流しながら泣きじゃくる。


 かと思えば急にキレて洞窟の壁を殴る。


 精神異常者のような自分自身を見て、混乱する。


 そこに、一人の女の子がやって来た。


「コウガ様」


「ん?どうした?」


 仏のような穏やかな顔と声で振り返る。その顔は剃られていない無精髭が下顎全体を覆い、洗われなかった垢が顔全体にこびりついた、薄汚い顔だった。


「お願いです、コウガ様。戦場に戻り、共に戦って下さい。コウガ様がいなければ国に勝ち目は……」


「ああもううっせぇなぁ!!」


 いきなり大声で怒鳴り、女の子の肩が跳ねる。


「まだ人に頼って戦争してんのかぁ?俺ぁ協力しねぇっつっただろぉ?」


 わっかんないかねぇ……とブツブツつぶやきながら元のように洞窟の奥を見つめ始めた。


「コウガ様、確かにご友人が戦死されたのはショックでしょうが、だからと言って責任を逃れる訳には……」


「うーん、そうだなぁ。確かにそうなんだが、そうなんだよなぁ。でもだからって、そうだよなぁ」


 落ち着いた声でそうだなぁ、でもなぁと繰り返し繰り返しつぶやき始める。


「……まだ、ファル様のことを」


 ーーガギュウン!!ーー


 発砲。当たらなかったのは恐らく偶然だ。女の子の頬に赤い筋が走っている。


「二度と、その名を、口に、するな」


 低い、低い声で脅す。女の子は悲しそうな顔をして


「失礼しました。では、また来ます。協力する気になったら我々の本陣へお越しください。あなたなら簡単に見つけられるでしょう」


 そう言って、立ち去った。


 それから俺は動かなかった。洞窟の入り口から射し込む光がなくなり、また射し込むまで。


 ヒュウと、一陣の風が吹き、延び放題の髪を揺らす。


 バッと、急に立ち上がった。


 フケをばらまきながら洞窟の入り口へと歩き、伸びをする。


「なぁ、見てんだろ、俺」


 唐突にしゃべり始めた。


「占い婆さんに見せてもらった光景は確かにこれだった。あんとき真剣に捉えておけば良かったと、何度も何度も悔やんだよ。そこで、俺を助けてあげようと思ってさ。よーく聞けよ?」


 遠くを見つめたまま、指を一本立てた。


「アドバイスその一、仲間を大切に。仲間は財産だ。建て替えできない、大切な。絶対に失うな」


 指が二本になった。


「その二、強くなれ。誰も抗えない、最強の力を持て。そうすりゃ苦労しねぇで済む」


 三本目。


「その三、クソ女を信じるな。……って、信じる訳ねーだろって思うよな。だがそれは間違いだ。お前はまだ信じている。あの女のすべてを疑え。そして自分で真実を知れ」


 四本。


「その四、急げ。お前が仲間と引き離された時、全速力で帰れ。俺は遅れちまってこのザマだ」


 俺は悲しそうに笑った。


「まぁ、今さらどうしようもないけどな」


ーーパチンーー


 俺が指を鳴らした。たったそれだけで、遠くにあった山が消えた。


 遅れて爆音が轟く。


「俺はこのクソみたいな世界を滅ぼす。俺自身が天災となって、ゴミ共を一掃するんだ!!」


 ヒヒッ と、俺は心底楽しそうに嗤った。その笑顔は狂人のそれだった。


「じゃあな過去の俺。お前はどんな未来に行くか、楽しみだ!!ハーッハッハッハァ!!」


 俺は凄まじい速度で何処かへ飛んでいってしまった。


 こだまする高笑いの声が、徐々に遠くなっていった。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ハッ!!」


 意識が戻ってくる。


「どうじゃ?何が見えた?」


「具合が悪そうよ?大丈夫?」


「顔色悪いのう」


 何事もなかったかのように再開した現実に戸惑いを隠せなかった。


感想やブクマは書く原動力になっています。


面白い、続きが気になる、そう思って頂けたらお願いします。

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