話し掛けないと始まらないタイプのボス
「う、うぅ……」
少女がゆっくり身を起こす。
「えっと……どうなったんだっけ……?急に体が痺れて……」
あの人族の男が指を鳴らしたのを聞いたら体に衝撃が走り、意識が遠退いたのだ。
辺りを見渡すと、倒れたエルフ達がいるだけであの二人の人族は居なくなっていた。
「!!私、どのぐらい寝てたの……?」
封印のことを思い出し、まだ気絶している人達を家に運んでから急いであのトンネルへ走っていった。
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「ハァッ、ハァッ、良かった、まだ解けてない……」
「よぉ、起きたのか。そんですぐにここに来たってとこかな?」
「っ!!」
解けていないことを確認し、安心していると、ヘラヘラと笑いながら話し掛けてきた。
あの時、二人いた人族の若い方。余りに存在感が弱いため気付かなかった。
「まぁまぁ、そんなに威嚇すんなって」
「いきなり攻撃してきたでしょ。そりゃ威嚇もするわよ」
「俺はいきなり生け贄にされたけどな」
「それは……申し訳ないと思ってるわ」
「ちゃんと謝れる子は良い子だね!! あのクソ女も見習って欲しい(ボソッ」
「え?」
「何でもない。で、封印だけどさ。まぁ何とかなるよ」
「まさか、封印をかけ直してくれたの!?」
「うんにゃ?むしろ解けるの待ってる」
「え、っちょ、ふざけないで!?アレが起きたら……」
「だぁーいじょぶだって!!優雅にお茶でも飲んで待ってようや」
「あ、あんたはあの怪物の脅威を知らないからそんなこと言えるのよ!!」
「諦めろ嬢ちゃん。こいつさっきから大丈夫の一点張りじゃ」
全てを諦めたような顔で紅茶を啜るお爺さんがいた。
「それに嬢ちゃん、どっちにしてももう間に合わんし、騒いでも無駄じゃよ」
フォッフォッフォと遠い目で笑うお爺さんを見て、戦慄した。
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「で?なんか作戦でもあるわけ?あら、美味しい」
諦めてお茶に参加するアルティス。
「精霊王に貰ったやつだからな。いいか、あのガキは話し掛けないと始まらないタイプのボスだ」
「……こいつ急になに言い出してんの?」
「分からん」
「そういうタイプのボスは、フィールドに小細工をしまくって倒すのが定石なわけよ」
「ふーん」
「つまり、相手が動けないうちにトラップを仕掛けまくって、ダメージを与えようってことじゃな?」
「そういうことだな」
「トラップ位でなんとかなるヤツじゃないわ……っていうか、封印はあとどのくらい持つの?」
「……あと数秒」
「……ごめんなさい、もう一度言って貰って良いかしら?」
「あと数秒……あ」
突如、洞窟から感じる禍々しい気配が濃くなったのを感じた二人であった。
鋼牙は精霊に聞いただけだった。
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――ギギギギギ……バキッ!!――
体にまとわりつくウザったい鎖を引きちぎる。
急に意識が遠くなってから、何が起こったのか分からなかったが、そんなことはどうでもいい。
狂おしいほどの殺戮衝動が心の底から湧き上がる。
手始めに、洞窟の外にいる三人だ。そう考えて顔を起こすと、目の前には拳大の紫色の石が山と積まれていた。
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「3」
「え、なに?」
「どうした?」
「2」
「カウントか?」
「一体なんの……」
「1」
《起爆》
カッ と、閃光が走った。
――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!――
凄まじい衝撃が大地を揺すり、爆風が木々を薙ぎ倒し、爆音が大森林全体に轟き、爆煙は巨大なキノコを形作り、鋼牙はそれを見て爆笑した。
「スゲェ威力だ!!これだよコレ!!スゲェスゲェ!!」
二人はそれを横から冷めた目で眺めていた。
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「『ウインド』!!『ウインド』!!『ウインド』!!」
爆発の衝撃が収まり、心も静まったのでアルティスが魔法で爆煙を吹き飛ばす。
煙が晴れ、見えてきた爆心地は悲惨だった。
何も無かったのだ。トンネルは勿論、周辺の木々も、岩も、そもそもトンネルがあった山すら消し飛んでいた。
もとから山など無かったかのような、巨大な穴があるだけだった。
「山が、ない……」
「はぇー、スゲェな」
「お前がやったんじゃぞ」
――ジャリッ!!――
何かが歩く音がする。
瞬時に警戒態勢にはいる三人。
目を凝らすと、まだ穴の底に残っていた煙に、小さな人影が映っている。
ヒュゥッと一陣の風が吹き、煙を晴らす。そこには、あの小さな少年が立っていた。
両腕は千切れて何処かへ行き、腹も抉れて内臓が見えている。顔も半分無かった。
半分しかない顔には、途方に暮れたような少年の顔があった。
思わず弓を下ろしてしまうアルティス。しかし、鋼牙は冷めた目で拳銃の狙いを定めた。
少年の小さな顔に血管が浮き上がり、目が血走り、獣のような牙を剥いた。
――ガギュウン!!――
少年の頭部が吹き飛んだ。
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