チッ(舌打ち)
「いいねぇ。やっぱこうじゃねぇと」
殺人鬼のように目をギラつかせながら笑う鋼牙。
この異世界ライフの98%を魔道具に依存している鋼牙にとって魔道具が使えないというのは呼吸が出来ないのと同義。それが解禁されたのだからそりゃテンションも上がる。
「と、取り押さえろ!!あのような攻撃は連発出来ん!!」
諦めないエルフのジジイ。その声によって、色とりどりの魔法が大量に飛んできた。
「吸い込め、マナストーン」
視界いっぱいを埋め尽くす魔法の群れが、一瞬で右手に吸い込まれた。
「危ない危ない、俺じゃなかったら死んでたぞ?」
吸い込んだ魔力の量的に中級魔法がほとんど、上級も幾つかあった。
――ビシュッ――
後ろから矢が飛んで来た。さっき鋼牙達を連行してきたエルフであろう。鋼牙はまったく気付いていなかったが、保険として鯉口を切っておいた阿弥陀が反応し、自動で叩き落とした。
いきなり体が勝手に動いたので鋼牙は凄くびっくりした。
「さて」
――パチン――
右手の指を鳴らす。エレキストーンが発動し、閃光が瞬いた。
――バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ――
さらに詠唱をしていたエルフ達は感電して気絶し、一番遠くにいた(逃げた)ジジイだけが残った。
「あ、あぁ……」
腰を抜かし、へたりこむジジイ。
ジジイの首筋に阿弥陀を突き付け、低く脅す。
「何か言い残すことは?」
「ゆ、許してくれ!!頼む!!我々もいっぱいいっぱいだったんだ!!」
「全部てめぇらの都合だろうが。封印されてんだから引っ越すなりなんなりしろや。つかお前が死ね。お前が死んでエルフを守れ。それが長ってやつの責任だろ?他人当てにしてんじゃねぇぞ」
「う……」
言葉に詰まるジジイ。鋼牙は刀の柄でぶん殴り、気絶させた。
「さぁ、帰ろうか。爺さ……あ」
エルフ達と同様、感電してアフロになり、気絶していた。
「配慮に欠けてたな。これも俺の魔道具の欠点だ」
《帰るんですか?》
《なんだよ、いきなり出てくんな。そして俺は帰るぞ》
《私が感じた禍々しい気配がその怪物のものだとすると、相当強力なものです。封印から覚めてしまったら、そこら辺の魔物を根絶やしにしながら突き進み、あの村を襲うでしょうね》
「………………教えろ。その怪物の場所」
《はいはーい!!》
鋼牙は爺さんを担ぎ上げ、森の中へと消えていった。
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《この洞窟ですね。この中から凄い禍々しい気配をビンビン感じます》
「うーむ……入りたくねぇな」
精霊に案内されて来た封印の場所は、凄く禍々しい気配が漂う洞窟、一言で簡単に言うと心霊スポットみたいな洞窟だった。
《行きましょうよ。なんか出てきてもなんとかなりますって》
「無理だろ!!てかまた魔道具使えねぇし!!あぁもうイライラする!!」
《ほらほら、早くやっちゃいましょう。作戦は考えてあるんでしょ?》
「あ~~何にも出てきませんように!!」
洞窟へと走り込む。かなり遠くにだが光が見え、山を貫通したトンネルであることが分かる。
その光の中に、変なシルエットが浮かび上がっていた。天井、壁、床から生えた鎖にがんじがらめに縛られた、何か、小さな物。
真ん前まで来て、正体が明らかになった。
「……ガキ?」
それは少年だった。青白い顔をし、背もそれほど高くなく、縛られた細腕はマッスルがつまんだら折れてしまいそうだった。
《こんなちっこいガキが怪物なのか?》
《信じられないですけど、そうです。ウィンディーネ様から聞いたことがあります。身寄りのない子供を魔法で改造して、凄まじい戦闘能力を植え付ける実験が行われていたって。代償として正気を失って、暴れまわる怪物になったって……》
《封印はどのくらい持つ?》
《え、っと……持ってあと2日ですかね》
《よし、準備するぞ》
尚、この間鋼牙は端から見ると百面相しながら黙って立っている変人であった。
コロナが他人事じゃ無くなってきた……みんな気を付けて……




