荒稼ぎ
現在俺には金が無い。 確かに金貨は一枚あるが、これは保険として取っておきたい。
金を稼がないといけない訳だが、冒険者ギルドはダメだ。 3分の1はヤバい。
かといって俺に真っ当な仕事が出来るのかと言うとそうでもない。
どうすっかなぁ。
今のところ俺にはバカ強い剣と賢者を越える魔力量を持つ蓄魔石だけだ。
「……あれ? なんとかなりそうじゃね?」
一つの作戦を思い付いた鋼牙だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは冒険者ギルドの一階。 毎日大勢の冒険者達がクエストボードの前で受注するクエストを吟味し、パーティーメンバーを探し、クエスト達成を祝う。
数日前まで彼らの話題はここで登録し、当たり前の事を理不尽だとわめきたて、顔を真っ赤にして飛び出して行った愚かな鍛冶屋の少年の事で持ちきりだった。
しかし今の話題は……
「おい、聞いたか?」
「何をだ?」
「この辺りの草原や森で異常な勢いで魔物を殲滅してる奴が居るらしいぞ」
「へぇ、S級冒険者でも来たのか?最近魔物が多いもんな」
「いや、それが見た奴の話だとS級以上の冒険者じゃなかったらしい。それどころかA級にもB級にも居ない奴らしい」
「新しくランクアップした奴ってことは?」
「そんな発表は無い。つまり冒険者じゃない、格好から騎士でもない。完全に謎なんだよ」
「顔は分からなかったのか?」
「真っ黒いローブを被ってて分からないらしい」
「ふーむ、気になるな」
「一部じゃ、王国が召喚した勇者だって言う奴もいるぞ」
「あー、あの噂されてた……」
そんなある意味正解の考察をしていた冒険者のいる冒険者ギルドの扉が乱暴に開かれ、息を切らした男が駆け込んできた。
「お、お前ら、ヤベェ奴が来た!!」
「あ?どこのどいつだ?」
「あの噂になってた黒ローブだ!!台車にものすごい量の魔物の死体を積んで来やがった!!」
「なにぃ!?」
「おい、こうしちゃ居られねえ、直ぐ見に行くぞ!!」
「おう!!」
面白そうな話題に食い付いた冒険者達が目撃情報があった北門へ向かうと……いた。
重そうな足取りで魔物の死体を山と積んだ台車をえっちらおっちら引く、黒ローブが……!
「ヤベェぞ……結構上位の魔物の死体もかなりある……」
「あそこに見えてんのゴブリンキングじゃねぇか?」
「討伐ランクBだぞ!?Cランクのパーティーでやっと倒せる奴じゃねえか!!」
「それを……一人で……どんだけ強いんだアイツ!?」
そんな周りの声など聞こえないかのように、ゆっくりと歩を進める謎のローブ。
その頃冒険者ギルドでは……
「ものすごい量の素材が持ち込まれるわ!!皆一旦作業を止めて協力して!!」
「多分高ランクの冒険者様が来られるわ!!ギルドマスターを呼んで、接待の準備を!!」
素材を引き取る準備で大忙し。鑑定持ちの職員をあつめ、ギルドマスターにも連絡する。
そして職員全員でお出迎えの体制をとり、さあこい!!という雰囲気になったとき。
ざっざっざっざっ
ギシ、ギシ、ギシ、ギシ
足音と台車の軋む音が正面に来た。そして
ざっざっざっざっ………
ギシ、ギシ、ギシ、ギシ………
立ち止まることなく、冒険者ギルドの前を素通りしてしまった……!
とんだ肩透かしを喰らった職員とギルマスは慌てて表へ飛び出す。
すると……
「はい、約束の納品。これだけあれば足りるだろ?」
「はい、はい、充分でございます」
向かいの商売敵、傭兵ギルドの職員が素材を鑑定し、黒ローブは傭兵ギルドのマスターと会話していた。
「しかしまさかこんなに狩ってこられるとは……でもいいのですか?私どもの所で売るより、冒険者ギルドで売った方が名前を売れますが……?あ、いえ、売っていただいた方が有難いんですけどね?」
「俺は名前を売りたい訳じゃないし、説明した通り俺は鍛冶屋だろ?理不尽に納品額3分の1にされちまってな。適正価格で買ってくれるおたくのほうが良いんだよ」
「なるほど……。しかし冒険者ギルドもバカな事をしましたな。こんなに強力な戦力を自ら手放すとは」
「確かにそれなー」
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!!」
高らかに笑う黒ローブとマスター。その話を聞いた冒険者ギルドのマスター(以下、冒マスター)が声を上げる。
「ど、どういうことだ!?お前らあの御方にそんな態度を取ったのか!?」
「い、いや、確かに天職が鍛冶屋の奴が来ましたけど……そんなまさか!!」
「嘘をいうな!!鍛冶屋にあんなに魔物を駆る力が有るわけないだろ!!」
「た、確かに鍛冶屋だったんです!!なのでマニュアル通りの対応を……」
「バカ者!!今すぐ謝罪し、話を聞いて貰えるようにするんだ!!」
「は、はい!!」