気付いた時にはもう遅い
「しっかしよぉ……言っちゃ悪いが、みすぼらしいな。いや、もはや汚いな」
「そうですなぁ。下手するとメイザス王国の王都にあったスラム街より汚いですぞ」
リントを送り届け、きっちりクエストを完了してリントの家を後にした。
村の出口まで歩いていたのだが、気にすることが無くなると今度は村の環境の酷さが目に写る。
スラム街より汚いというのは決して言い過ぎではなく、スラム街の方が衣服や食べ物の点で文化的だった。
この村の住人は衣服とも呼べないボロ切れを申し訳程度に纏い、洞窟の方がマシなんじゃないかというような家が立ち並んでいる。
ガリッガリに痩せてフラフラしている様子から満足に食事も出来ていないことが分かる。
でもまぁ俺には関係ないしな。哀れには思うが自力でなんとかして頂きたい。
「じゃぁまあ、帰るか」
「……そうですな」
ジェントーは気にしていたようだが、俺に何も言ってこなかった。
悪いなジェントー。助ける義理はない。
そして村の入り口前の広場に差し掛かったとき、事は起こった。
――ビシュッ!!――
風切り音が聞こえて
――バスッ!!――
広場にいた人の一人が吹っ飛んだ。
見ると、倒れた人の顔面に大きな矢が突き刺さっていた。
どうやらどっかから射たれたらしい。
咄嗟に物陰に隠れる。まだ射撃は続いていて、あわてふためく獣人達を射抜いていく。
「どういうこった?なにが起きてる?」
「わ、分かりませんぞ!!とりあいず何者かが攻撃してきているようです!!」
とりあいずどうしようもないので待っていると、入り口の方から愉しげな喋り声が聞こえてきた。
「3匹だ!!俺の勝ちだな!!」
「俺も3匹だ!!」
「お前ら鯖読んでるだろ。見てた限りどっちも2匹だぞ」
「そういうお前は何匹狩ったんだ?」
話しているのは鎧を纏った人族の男4人。
話の内容と手に持っているクロスボウから、コイツらが射撃の犯人で間違いなさそうだ。
しかし、単位が『匹』だったり、殺した人数を競ってたりで、コイツらが頭のおかしい殺人鬼ということが分かる。
だが、鎧の紋章が気になるな。あれは確か……
「武力国家『ブローディアン』の国旗ですな。奴らはブローディアンの兵士ですぞ」
ブローディアンは大陸の中央と大陸の東を覆う大森林の中間にある国だったな。強大な軍事力を持つ好戦的な国で、ミグレアの国王も『直ぐ戦争ちらつかせてきてウザイんじゃぁ~~』と言っていたっけな。
何故こんなところにいやがんのかねぇ。見つかったら十中八九、いや十中十でめんどくさいことになるだろう。
「全員3匹かぁ……」
「どうするかな」
「もう1匹いればなぁ」
その時
「お母さん!!お母さん!!」
声がした。
見ると、矢を喰らって倒れている女性を揺さぶって泣いている女の子がいる。
「おお、良いところに!!」
「あいつを仕留めた奴の勝ちな!!」
一斉にクロスボウを構える兵士。
助けたいと思ったが、相手は曲がりなりにも軍人。国際問題に発展する恐れが……待てよ?
女の子が命の危機……ハッ!!
「ジェントー!!堪えろよ……」
後ろを振り向きロリコンを止めようとするが
そこには誰も居なかった。
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「な、なんだテメェ!!」
「なにしてやがんだよ!!」
兵士の声。見ると、見覚えのある剣を持った見覚えのあるおじさんが女の子を庇うように立っていた。
あーあ、遅かったか。
「クズ共が。この幼女には傷一つ着けさせんぞ」
いつになく低い声と恐ろしい眼光で兵士を睨み付けるジェントー。
「チッ、あいつごと射て!!」
一人が言うと全員でジェントーに向けてクロスボウを発射した。
しかし、相手は今や50人規模の大部隊の隊長。いかに強かろうがクロスボウごときで勝てる相手ではない。
ジェントーは飛んでくる矢を二本の剣で叩き落とした。
「なっ!?」
「遅いですな」
驚愕の声を上げた兵士の首を何の抵抗もなしに撥ね飛ばした。
「て、テメェ!!」
クロスボウを捨て、剣を抜く二人目。
ジェントーの凪ぎ払いを止めた。が、二本目の剣で喉元を一突き。
「と、止まれ!!」
三人目は二人目が殺られている間に幼女の元へ行き、頭にクロスボウを押し付けていた。
動きを止めるジェントー。
「へへへ、動くなよ……」
ジリジリと入り口へ動く兵士。このまま逃げるつもりらしい。
険しい顔をしていたが、剣を納めるジェントー。
「へっ、物わかりが良いじゃねぇか……」
どうやらジェントーが諦めたと思っているらしい。
「いえ、もう必要なくなったのですぞ」
「あ?どういう」
――ガウッ!!!――
真後ろから0距離で、クロスボウを構える左腕を撃つ。
凄まじい威力によってちぎれる腕。
「あ、っぎゃぁああああああああ!?」
「うっせぇ」
「うごぉ!!」
痛みに叫ぶが、頭を踏みつけられ、地面とキスする。
その後頭部にゴリッっと銃口を押し付ける。
「動かねぇ方が賢いと思うぜ」
拳銃を知らないい男は必死にもがいていたが、俺の言葉で大人しくなった。
「さすがコウガ殿。何の迷いもなく後ろから撃つとは」
「あんだけのことやったんだ。撃たれて当然だろう。つか、お前いくら幼女が危ないからって何にも考えずに出ていくなよな。下手すりゃ国際問題だぞこれ」
「幼女の為です。いたしかたありませんぞ」
「お前はよくても……まあ、いいや。俺も結構ノリノリでやっちゃったしな」
自分の足の下に踏みつけられている奴を見ると、なんか自分がサイコパスかなんかになった気がするな。
いや、殺すことに慣れたのか?クソ女には復讐出来ないクセに?
まぁ、人間ってそういうもんだしなぁ。そんなこと考えてたら何にも出来ねぇ世界だし。
「つか、もう一人いたよな。どこいったし」
「あー……コリャ逃げられましたな」
「ったく、人質作戦は最後に残った一人がやるもんだろが……」
よくわからないツッコミをしながら考える。
なぜブローディアンの兵士がここにいる? 知るか
どうして殺人鬼みたいな真似を? そういう奴らしかいない世界だから
「あ」
俺の中で最悪なビジョンが見えた。
逃げる
↓
上に報告
↓
ブローディアン激オコ
↓
報復に軍出撃
↓
この村オワタ
「Oh my God」
気付いた時にはもう遅かった
やっちまった感が渦巻く中、俺は『Oh my Godの発音は《オーマイゴッド》じゃなくて《オーマイガッシュ》が正しいんだよな』と考えていた。
人殺しを殺す。
これは正しいことでしょうか?
俺が聞かれたら、知らね、と答えます。




