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努力を知らない卑怯者  作者: 自宅警備員Lv9999
第四章:ミグレア
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未知との遭遇



「っはぁ!?」


 ビクッと肩を跳ねさせて鋼牙が飛び上がる。


「っ!?ど、どうしましたかな?」


 心配そうに声をかけるジェントー。


「ああいや、なんか数十年をタイムスリップしたみたいな感覚が襲ってきてな……」


「…………何言ってんですかな?」


「俺にも分からん」


 今彼らは代わり映えしない森と草原の中間をずっと走っている。あれから4日が経ったが、人が居そうな雰囲気は全くない。魔物の気配はするが。(ってジェントーが言ってた)


「暇だな」


「暇ですな」


「シリトリしようぜ」


「いいですぞ。ところでシリトリとは?」


「……やっぱいいや」


 暇をもて余した大の男二人はなんとか暇を潰そうとするが、鋼牙の知っている暇潰しはジェントーに通じず、ジェントーの知っている暇潰しは鋼牙に通じない。


「そういやリントは?」


「ここにいますぞ」


 鋼牙はジェントーが指し示すところ、下に目を向ける。


 すると、座っているジェントーの腿に丸まったリントがゴロゴロ言いながら寝ていた。


 しなやかな尻尾がゆらゆら揺れている。


「……耳と尻尾から想像はついたが、猫の獣人だったんやな」


「妖猫族という種族だそうですぞ。暮らしていた集落は様々な獣人が暮らすところだと聞きましたぞ」


「え、お前なんでそんなこと聞き出してんの……?」


「幼女から話を聞き出すなど朝飯どころか前日の昼飯前ですぞ!」


「偉そうにすんなロリコンが」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 キィッ!!!


 鋼牙が急に車を止める。


「どうしましたかな?」


「疲れたから休憩だ。いい感じなとこ見っけたから。そいつ起こすか抱えて降りてみな」


 言われるままにジェントーはリントに向かって蚊の羽音のような声で『起きて下さ~い。朝ですよ~?』と言った。


 当然起きるはずもないが、ジェントーは嬉しそうに


「いやぁ、起きてくれないとは残念ですぞ!!」


 と言いながらお姫様抱っこして降りた。


 降りた先には、森に囲まれた小さな湖があった。


 水は蒼く透明で、辺りに咲く花畑と合わさって神秘的な雰囲気を漂わせていた。


「おお……美しい……」


「だろ?休憩にはもってこいだね」


 降りてきた鋼牙が出来るだけ草が多い場所に布を広げる。


「ピクニックと洒落こもうや」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はぁぁ……なんて美しい湖なのでしょう……」


 片手にサンドイッチ、片手を頬にあて、リントが感嘆の声を上げる。


 獣人はかなり自然を大切にする種族で、このような美しい景色に心酔するのだそうな。


「本当に幻想的やなぁ……ところでジェントー」


「何を聞きたいかは大体分かりますが、敢えて聞きましょう。なんですかな?」


「あの、大量に飛んでる光の玉は幻想的に見せる演出か?」


 そう、鋼牙には見えたのだ。湖の畔を編隊飛行する、夥しい数の色とりどりの光の玉を。


「エンシュツというのは分かりませんが、とりあえず目の錯覚ではないことは確かですな」


 ジェントーにも見えたらしい。湖の畔を編隊飛行する(以下略)。


「まぁ、害は無いっぽいし、ほっとけばいいか……」


『ねぇねぇ、ニンゲンさん!!』


「「!?」」


 いきなり耳元で甲高い声が聞こえ、慌てて飛び退く。


 するとそこには赤色に光る玉が。


「い、意志があるのか……魔物か?」


「ま、魔物が人語を喋るなど聞いたことがありませんぞ」


『アハハハハ!!ニンゲンさんびっくりしてる~!!』


『面白ーい!!』


『可笑しなニンゲンさんだね』


『アレレ?ニンゲンさんとジュウジンさんが一緒にいるよ?』


『変だね変だね!』


『しかもこのニンゲンさん、なんかおかしいよ?』


『どこがー?』


『わかんなーい!!』


『『『『アハハハハハハハ!!!』』』』


 気づくと周囲を大量の光に囲まれていた。


 光の一つ一つが甲高い声でキーキー喋るもんだから喧しくてしょうがない。


「お前らはなんなんだ?」


『ワタシ達はワタシ達だよー?』


『『『『そうだよー?』』』』


 光はおちょくるようにフヨフヨ飛び回る。


「!!分かりましたぞ!!これは精霊です!!」


「精霊!?あの伝説のですか!?」


「精霊かぁ……」


 鋼牙の脳内には自称高位のハウスゴーストが高笑いする様子が浮かんでいた。


『あっ!!もうお昼の時間だ!!』


 サンドイッチから思い出したのか、慌てたように動きがギクシャクし始める。


『ハワワ、ホントだ!!』


『早く帰らなきゃ怒られちゃう!!』


『お母さん怖いもんねー!!』


『帰ろう帰ろう!!』


『じゃあまたね、おかしなニンゲンさんとジュウジンさん!!』


 その言葉を残して、光は湖の中へ消えていった。


「……何だったんだ」


「精霊とは本来ああいうものですぞ」


「イタズラ好きの下級精霊でしたからね」


「高位の精霊もしょうもないイタズラするけどな……」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そろそろ出発すっか!!」


 しっかり景色を堪能し、休憩をとったので心身共に回復していた。


 そろそろ日も暮れかけていたので、出発しようかとなったとき


『ニンゲンさん!!』


 またあの光がやってきた。


「ん?なんか用か?」


『お母さんが、ニンゲンさんに会ってみたいって!!一緒に来てくれない?』


「……どうするジェントー、こいつらのいう『お母さん』が何かわかんねぇから行かん

方がいいかな(小声)」


「いやー、行った方が良いと思いますぞ?怒らせるとヤバい人かもしれませんし(小声)」


「……分かった。案内してくれ」


『分かった!!じゃあついて来てね!!』


 そう言うと光は湖の中へと消えていった。


「……入水自殺しろと?」


「男は度胸ですぞ」


「お、女は愛嬌なんですけど……」


「よし!!いっせーので行くぞ!!」


 鋼牙が音頭をとり、一斉に入水自殺をすることにした。


「よ、よーし…せーn」


 ゴボァッ!!!


 いきなり膨れ上がった水面が鋼牙達を飲み込み、湖底へと拐っていった。

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