未知との遭遇
「っはぁ!?」
ビクッと肩を跳ねさせて鋼牙が飛び上がる。
「っ!?ど、どうしましたかな?」
心配そうに声をかけるジェントー。
「ああいや、なんか数十年をタイムスリップしたみたいな感覚が襲ってきてな……」
「…………何言ってんですかな?」
「俺にも分からん」
今彼らは代わり映えしない森と草原の中間をずっと走っている。あれから4日が経ったが、人が居そうな雰囲気は全くない。魔物の気配はするが。(ってジェントーが言ってた)
「暇だな」
「暇ですな」
「シリトリしようぜ」
「いいですぞ。ところでシリトリとは?」
「……やっぱいいや」
暇をもて余した大の男二人はなんとか暇を潰そうとするが、鋼牙の知っている暇潰しはジェントーに通じず、ジェントーの知っている暇潰しは鋼牙に通じない。
「そういやリントは?」
「ここにいますぞ」
鋼牙はジェントーが指し示すところ、下に目を向ける。
すると、座っているジェントーの腿に丸まったリントがゴロゴロ言いながら寝ていた。
しなやかな尻尾がゆらゆら揺れている。
「……耳と尻尾から想像はついたが、猫の獣人だったんやな」
「妖猫族という種族だそうですぞ。暮らしていた集落は様々な獣人が暮らすところだと聞きましたぞ」
「え、お前なんでそんなこと聞き出してんの……?」
「幼女から話を聞き出すなど朝飯どころか前日の昼飯前ですぞ!」
「偉そうにすんなロリコンが」
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キィッ!!!
鋼牙が急に車を止める。
「どうしましたかな?」
「疲れたから休憩だ。いい感じなとこ見っけたから。そいつ起こすか抱えて降りてみな」
言われるままにジェントーはリントに向かって蚊の羽音のような声で『起きて下さ~い。朝ですよ~?』と言った。
当然起きるはずもないが、ジェントーは嬉しそうに
「いやぁ、起きてくれないとは残念ですぞ!!」
と言いながらお姫様抱っこして降りた。
降りた先には、森に囲まれた小さな湖があった。
水は蒼く透明で、辺りに咲く花畑と合わさって神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「おお……美しい……」
「だろ?休憩にはもってこいだね」
降りてきた鋼牙が出来るだけ草が多い場所に布を広げる。
「ピクニックと洒落こもうや」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はぁぁ……なんて美しい湖なのでしょう……」
片手にサンドイッチ、片手を頬にあて、リントが感嘆の声を上げる。
獣人はかなり自然を大切にする種族で、このような美しい景色に心酔するのだそうな。
「本当に幻想的やなぁ……ところでジェントー」
「何を聞きたいかは大体分かりますが、敢えて聞きましょう。なんですかな?」
「あの、大量に飛んでる光の玉は幻想的に見せる演出か?」
そう、鋼牙には見えたのだ。湖の畔を編隊飛行する、夥しい数の色とりどりの光の玉を。
「エンシュツというのは分かりませんが、とりあえず目の錯覚ではないことは確かですな」
ジェントーにも見えたらしい。湖の畔を編隊飛行する(以下略)。
「まぁ、害は無いっぽいし、ほっとけばいいか……」
『ねぇねぇ、ニンゲンさん!!』
「「!?」」
いきなり耳元で甲高い声が聞こえ、慌てて飛び退く。
するとそこには赤色に光る玉が。
「い、意志があるのか……魔物か?」
「ま、魔物が人語を喋るなど聞いたことがありませんぞ」
『アハハハハ!!ニンゲンさんびっくりしてる~!!』
『面白ーい!!』
『可笑しなニンゲンさんだね』
『アレレ?ニンゲンさんとジュウジンさんが一緒にいるよ?』
『変だね変だね!』
『しかもこのニンゲンさん、なんかおかしいよ?』
『どこがー?』
『わかんなーい!!』
『『『『アハハハハハハハ!!!』』』』
気づくと周囲を大量の光に囲まれていた。
光の一つ一つが甲高い声でキーキー喋るもんだから喧しくてしょうがない。
「お前らはなんなんだ?」
『ワタシ達はワタシ達だよー?』
『『『『そうだよー?』』』』
光はおちょくるようにフヨフヨ飛び回る。
「!!分かりましたぞ!!これは精霊です!!」
「精霊!?あの伝説のですか!?」
「精霊かぁ……」
鋼牙の脳内には自称高位のハウスゴーストが高笑いする様子が浮かんでいた。
『あっ!!もうお昼の時間だ!!』
サンドイッチから思い出したのか、慌てたように動きがギクシャクし始める。
『ハワワ、ホントだ!!』
『早く帰らなきゃ怒られちゃう!!』
『お母さん怖いもんねー!!』
『帰ろう帰ろう!!』
『じゃあまたね、おかしなニンゲンさんとジュウジンさん!!』
その言葉を残して、光は湖の中へ消えていった。
「……何だったんだ」
「精霊とは本来ああいうものですぞ」
「イタズラ好きの下級精霊でしたからね」
「高位の精霊もしょうもないイタズラするけどな……」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そろそろ出発すっか!!」
しっかり景色を堪能し、休憩をとったので心身共に回復していた。
そろそろ日も暮れかけていたので、出発しようかとなったとき
『ニンゲンさん!!』
またあの光がやってきた。
「ん?なんか用か?」
『お母さんが、ニンゲンさんに会ってみたいって!!一緒に来てくれない?』
「……どうするジェントー、こいつらのいう『お母さん』が何かわかんねぇから行かん
方がいいかな(小声)」
「いやー、行った方が良いと思いますぞ?怒らせるとヤバい人かもしれませんし(小声)」
「……分かった。案内してくれ」
『分かった!!じゃあついて来てね!!』
そう言うと光は湖の中へと消えていった。
「……入水自殺しろと?」
「男は度胸ですぞ」
「お、女は愛嬌なんですけど……」
「よし!!いっせーので行くぞ!!」
鋼牙が音頭をとり、一斉に入水自殺をすることにした。
「よ、よーし…せーn」
ゴボァッ!!!
いきなり膨れ上がった水面が鋼牙達を飲み込み、湖底へと拐っていった。




