鋼牙の異常 【元凶編】
注意 R15が出勤してきた。要するにエロ注意っす。
【鋼牙 7歳】
『エターナルフォースブリザード……効果、相手は死ぬ……!!』
テレビ画面の向こうで、ローブを着た男が最強の必殺技を使い、決め台詞を言った。
「はぇーー……、カッケェー……」
目を輝かせながらテレビ画面を見つめる男の子。
今から10年前、当時七歳の鋼牙である。この頃はまだ可愛げのある愛すべきバカなガキであった。
彼が熱を上げて見ているのは、大人気のヒーローアニメ『大賢者マーリン』だ。
同世代の男の子が『仮面ラ○ダー』を見ているのに対し、彼は誰がどんなにダサいダサい言おうともこのアニメを見た。
そして思う。
(俺も魔法使いてぇ……!!)
彼はバカ正直にちょうど近くにいた父に相談した。
「父ちゃん!!」
「んお?ろうひた鋼牙~~?んなに真剣な顔してよぉ~~?」
仕事が休みで昼間から呑んだくれ、べろんべろんに酔っ払っている父、堅吾。
「俺、将来の夢決めた!!」
「ほうっ!!それはいいことらっ!!何になりたい鋼牙っ!!」
「俺、大賢者になりたい!!俺もあんな凄い魔法使って、カッコいい決めゼリフ言いたい!!」
経験はあると思う。この頃の子供が『仮面ラ○ダーになる!!』『プリ○ュアになりたい!!』とか言い出すのとおんなじだ。
普段の堅吾ならば、傷つけぬようにうまいこと大賢者にはなれないことを伝えたであろう。
しかし、今の彼は急アル一歩手前まで酔っている。そんな正常な対応ができるはずもなく
「おうwww大賢者なwww」
あまりに真っ直ぐな顔でアホなことを言い出したので大爆笑。
「でさ!!父ちゃんは大賢者ってどうやってなるか知ってるか!?」
「お、おうww!!知ってる、ぞww!!」
このとき、堅吾は酔った勢いでとんでもないことを教えてしまった。
鋼牙の人生を大きく変える障害をもたらしてしまった悪魔の知識を……
「大賢者にはな、50歳まで童貞らったらなれるんらよ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
幼い鋼牙は父の教えを忠実に守った。先ず彼は『童貞』の意味が分からなかったため、母に聞いてみた。
「母ちゃん!!聞きたいことがあるんだけどさ!!」
「あらあら、なにかしら?」
「『童貞』ってなに?」
この純粋無垢な質問に母は
「女の人と○○○したことがない人のことよ」
しっかり真正面から答えた。
「○○○ってなに?」
「えーとね、説明が難しいんだけど、ようするに女の人と関わったことがない人よ」
母は父との実演まで考えたがさすがに止めた。
「そっか!!ありがとう!!」
「どういたしまして(鋼牙ちゃんもそんなことに興味があるお年頃かしら?少し早いような気もするけど……)」
少し早いどころか6年ほども早いが、母は基本ユルいので気にしなかった。
そして、母の説明を聞いた鋼牙はこう解釈した。
(大賢者になるには、『童貞』ってやつにならないといけない。いや、母ちゃんの説明だと今もう童貞状態か。ならこの状態を50まで続ければ良いわけだな!!つまり……)
女の人と関わらなければ大賢者になれる!!! ドドーーン!!!!
後ろで波が砕けそうなほどの結論にたどり着いた。
【それから7年後】
「母さん、これはどういうことだ……?」
「私も、分からないわ……」
キッチンの机にて、向かい合わせに座った夫妻が揃って深刻そうな顔をしている。
その理由とは、ズバリ
「鋼牙のベッドの下に、エロ本が、ない!!」
「…………それって、そんなに不味いことなの?」
今初めて問題を聞いた柔美は眉を潜める。
「不味いわ!!スッゴい不味いわ!!俺があれぐらいのころは……いや、この話はよそう」
勢いで口走りそうになってあわてて口を閉ざす。
「とにかく!!バイブルがないのはおかしい!!変だ!!本当に俺の息子か?」
「え?」ズォオオオオ…
柔美から凄まじいオーラが発せられる。
「違う!!疑った訳じゃないんだよ母さん!!奴は異常だと伝えたかったんだ!!」
「あら、そうなの~。よかったわ~」
フフフと笑う柔美と変な汗を垂らす堅吾。
「何叫んでんだ?うっさいぞ」
そこに張本人の鋼牙(13)が降りてくる。
「お、おお鋼牙!!ちょっと母さんと発声練習をな!!」
「そ、そうなの!!街の楽隊で歌うことになっちゃって……」
必死に誤魔化す夫妻。
「そうかい。喧嘩は犬も喰わねぇぞ。ほどほどにしろよ」
すべてお見通しのすでに達観した鋼牙。
「「……はい(シュン)……」」
仲良く同時に全く同じ動作で項垂れる両親を見て、鋼牙は少しだけ微笑んだ。
「で、どうしたんだ?今動画見てて騒がしいの迷惑なんだが……」
「イヤホン使えよ……ハッ!!」
急に何かを思い付いた堅吾がいきなり鋼牙のスマホを奪い取る。
「はーっはっはっは!!ぬかったな鋼牙よ!!スマホの検索履歴は復元できるのさ!!」
「いや、返せや」
取り返そうとする鋼牙の手を掻い潜り、ついに履歴の欄まできた。
「フフフ、どこだぁああああああああ!!」
一気に下にスクロールし、目当ての検索履歴を探す。
しかし
「ない……だと……?」
なかった。
「何だったんだ?」
鋼牙は首を傾げながら帰った。
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