暇だったから
あの後いろいろあった。どうしても断るのかとしつこく聞かれ、王女には泣かれ、泣かしたことで王様がキレ、貴族には嫌味を言われ、めんどくさくなったから無理やり帰ったりした。
そんでなんやかんやあって、次のように決めた。
○爵位はいらない
○結婚は見送り
○謝礼として大金貨15枚を渡す
○もしも今後俺達がどっかの国家と敵対した際に味方して欲しい
新たな魔道具を作る上で問題が一つ、タイタニウムが無くなったというのがあったのだが、タイタニウムが原因で掘れなくなった廃坑を丸ごと貰ったので解決した。
姉妹はなんだかんだと引き留めてきたが気にせず帰った。
で、金も入ったし、魔道具の材料も潤沢にある。
そんな俺が抱える問題、それは……
「暇だ」
暇。すっごい暇。
やることがない。人間はやることがないと死ぬというが、それが正しいなら俺はもうすぐ死ぬだろう。
「……ギルドにでも行くか」
暇潰しにクエストでも受けよう。
そう思い立ってギルドへと歩いて行った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なかなかいいクエストは無いなぁ」
暇は暇でもめんどくさいことはしたくないタイプの暇なので、討伐系や採取系のクエストは受けたくない。
なんかこう、いい感じに暇が潰れる話相手がいて人助けが出来るクエストねぇかな?
そんなバカなことを考えながらクエストボードに目を走らせていると、一つのケモミミが目にはいった。
そう、視界に入ったとかの比喩ではなく、物理的に入った。
「ギャァアアアアアアアアアアア!?」
「ふぇ!?も、申し訳御座いませんんん!!!!!!」
少女の声が聞こえた俺はヒリヒリする目を無理やり開ける。
土下座。圧倒的土下座。
涙で滲む視界に土下座を捉えた俺は、瞬時に現状を第三者視点で見る。
明らかな中二病の男が少女を土下座させている。
お巡りさんこの人です。
ヤバイヤバイ。
「大丈夫だ!!土下座するほどじゃないから起きろ!!」
必死に土下座をやめさせようとする。
「いえ、そう言うわけには……」
渋る少女。
「いいから起きろって!!怒んないから!!」
「ホントですか!?」
いきなり勢いよく頭を上げ、またケモミミが俺の目にダイレクトインした。
「ギャァアアアアアアアアアアア!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ひどい目にあった……」
「す、すみません……」
ギルド横の酒場にて、少女と向かい合わせに食事をしている。
腹へったし腹へってそうだったからだ。
「あー、見た感じ冒険者じゃないらしいが、なにやってたんだ?」
「はい、実は……」
少女が言うには、少女はもともとこの国から北に大森林沿いに行った遠くの村に住んでいたそうなのだが、ある日奴隷商に捕まってしまったそうな。
そんでどっかに運ばれている最中に馬車が事故り、そのドサクサに紛れて逃げ出した。
だが既に結構な距離運ばれており、方向も分からぬままさ迷っていたらこの街に着いたそうだ。
なんとかして帰ろうと思ったものの、村の場所は分からず、ここがどこかも分からず、道中には魔物も出るので出発出来ずにいた。
なので心優しい人がいることに賭けて全財産を報酬に護衛のクエストを作成し、受けてくれる人を待っていたそうな。
「苦労してんなぁ……つか奴隷商は人拐いか。世紀末かっての」
「仕方ないんです。亜人は高く売れますし、特に獣人は強い差別の対象なので……」
ハハハ、と力なく笑う少女。
「逆に貴方のように接してくれる人のほうが珍しいんですよ。貴方にやらかしてしまった時死を覚悟しましたしね」
「よかったな、優しい俺にぶつかって」
「はい、本当に。普通の人ならキレられて殺されてもおかしくは……」
「そうじゃねぇ。ちょうど暇だったんだ。その村まで連れてってやんよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ほ、ホントにいいんですか?報酬はちょっとしか出ませんし遠いしで割に合いませんよ!?」
「お前が作ったクエストだろ」
ズカズカ冒険者ギルドにとおろおろしながらちょこちょこ付いて行く少女。
ちょっとジェントー達の気持ちが分かった気がする。
俺は聖人ではないし、必要でないなら人助けなんぞやらんでいいと思っている。
だが、俺はそれ以上に理不尽が大嫌いだ。
理不尽に巻き込まれた奴は、なんとか助けてやりたい。
辛さが少し分かるから。
「この護衛クエストを受ける。手続きを頼む」
そんな崇高で美しい俺の精神だが、何故だか理解されないことが多い。
「待ちなさい。動かないでね」
スッと俺の左後ろから剣が首筋に当てられる。
「ふぇ!?な、何を……」
「はいはい、お嬢ちゃんはこっちにいましょうね~」
少女(名前聞いてなかった)はゆるふわお姉さんに優しく抑えられる。
「抵抗しようとは思わないことね!!」
右後ろからも声が聞こえるので動いた瞬間蹴るなり殴るなりしてくるだろう。
「……ヘイヘイ、いきなり凶器を突きつけるのが君の故郷の挨拶かい?止めた方がいいぜ」
「この状況で軽口が叩ける精神は褒めましょう」
参ったな、冗談が通じないぞ。
「おーいギルドの人?ギルド内とかで剣抜いたら罰則とかないの?」
「ないですよ?全て自己責任ですので。殺しちゃったら捕まりますけど」
「ルール作っといたほうがいい」
さて、どうするか。ぶっちゃけ逃げよう思たら逃げれるんやけど、死傷者出る可能性あるしなぁ。
「で、なんで俺は凶器を突きつけられているのかな?説明プリーズ」
「その少女が作成したクエストは本当に割に合いません。どうして受けたのですか?」
「俺の中の良心が助けてやれと囁いたから」
「……あなた、奴隷商か人拐いでしょう。その亜人の少女を甘言で誘って連れ出し、高値で売ろうと」
「そういう魂胆なんでしょ!!このクズ男め!!」
めんどくせぇタイプの奴その2だな。
その1はあんときの受付嬢。
さて、どうするのが吉か……。
いや、悩む必要性は無いな。
「わーった。このクエストは破棄。それでいいな?」
「ええ。悪事は出来ないわよ。この『ティシュポネー』が目を光らせてる間はね」
「へいへい。んじゃ」
俺はとっととギルドを後にした。
「ふう、良かったわね」
「ダメよ?あんな怪しい男に着いてっちゃ!!」
「それじゃあおたっしゃで~」
めんどくせぇ女トリオは『私ら良いことしたわ』みたいな雰囲気で去って行った。
たった一人少女を残して。
「……え?」
てっきり彼女らがクエストを受けてくれるのだろうと思っていた少女は呆然とする。
「……せっかく……チャンスだったのに……」
少女は一人項垂れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ってな訳よ。俺ぁどうするべきだったかねぇ?」
屋敷に帰り、ファルに愚痴を聞いてもらう。酒が入ってる訳ではない。
「そうですね。その子に意見を聞いて、断られら帰れば良かったのでは?」
「あの場面でそれ言ったら『窮地に乗じて選択肢をなくしている』とか言われる。俺ぁ詳しいんだ」
いかにあの女トリオがめんどくせぇ奴らだったかをとつとつと聞かせていた。
その時、幼女護り隊とジェントーが帰ってきた。
「只今戻りましたぞ」
「おう、お疲れー」
「お疲れ様です」
「何か話中でしたかな?」
「あー、ちょっと相談事でな」
「ほう、聞き上手と定評のある私に話してみては?」
「おう、聞いてくれ。実はn…」
「なんですとぉ!?不幸な境遇の幼女が故郷に帰れなくて困っていたですとぉ!?」
「なんで分かったの!?」
「こうしてはいられませんぞ!!!今すぐ救って差し上げねば!!!!!」
「え!?もう夕方だけど……」
「やかましい!!幼女の幸せとどっちが大事なんだ!!」
「俺の夕飯の圧勝じゃい!!」
「とにかく行きますぞ!!!」
「え、ちょグフゥ!!」
エルボーを決められ、引きずられていく。
俺は力を振り絞り、叫んだ。
「冷蔵庫のトンカツ食ったら殺すからなぁあああああああああああぁぁ…」
冷蔵庫は鋼牙がクールストーンの力を利用して再現したものである。
思い付いたけど使い所が無かったネタその5(前回は4だった)
「おう、読者から愚者と呼ばれている勇者」
「な、なんだ貴様!!」
「俺は神だ。お前の願いを叶えてやろう」
「じゃあ鋼牙をフルボッコに出来る力をくれ!!」
「よっしゃ分かった。朝起きたらその力が宿ってるぜ」
「や、やった!!」
次回に続く(かもしれない)




