長い回想
よう皆!!俺だ!!
さっそくだが、現在俺は何処にいると思う?
飛行船?チッチッチ
正解はぁ~~~~~
『冒険者コウガよ。前へ』
「は、はい……」
はい、王様の前でした~~。
……………
なんでこうなったんだっけ?
回想入りまーす。
【数日前】
「コウガ!!あれだよ、あれ、あれ!!!」
「私達の国です!!早く見てください!!」
長い空の旅がゴールを迎えようとしている。
自分の家(王城)が見えてきてハイテンションな二人。
「おお、あれですか」
不敬罪が恐いので敬語に変えた鋼牙。
「……なんでそんな畏まった態度とるの?」
朝になって急に態度が変わった鋼牙を訝しげに見る妹。いや、ミリアム。
「畏まってなぞおりませんよ。当然の態度をとっているだけです。というか王族だと分かっていればあのような無礼は働きませんでした。どうかお許し下さい」
「えぇ~、いいよ全然!!お友達みたいにお話しよう?」
「そうです。そんなに畏まらなくてもいいんです」
「いえ、そういう訳には」
それから数十分の間何とか鋼牙の敬語を止めさせようと試みが成されたが、自分でこうと決めたら他人の力では一切動かない鋼牙は「いえ、そういう訳には」の一言ですべてかわしていた。
そして遂に最終手段が
「……命令です。敬語を止めなさい」
「残念ですが私は姫様の国の国民ではありませんので、その命令に従う必要はありません」
かわされた。
「うー、じゃあせめてミリアムって呼んで!」
「私のことはプリシラと!」
「姫様」
「ミリアム!」「プリシラ!」
「姫様!」
「ミ・リ・ア・ム!」「プ・リ・シ・ラ!」
「チッ……ミリアム、プリシラ……」
「やった!!」
「それで良いのです!」
「で、姫様」
「「アレ!?」」
敬語を使っていても結構危うい所を行く鋼牙であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
凄い音を立てながら船着き場に着陸する飛行船。
「着いたっぽいですね」
「これからコウガ達はどうするの?」
「とりあえずは自由行動ですね。家を買わないといけないので」
「家がいるのですか?」
「はい、百人規模で住める家がないとですから。心当たりはありませんか?」
「……あるにはあるんだけど……ねぇ?」
「少し問題がありまして……」
歯切れ悪く言葉を濁す姉妹。
「まぁこっちでやります。では姫様」
二人に跪く。
「本当に、ありがとうございました。このご恩は必ずお返しします」
「こっちこそ、助けてくれてありがとう」
「恩があるのはこちらの方です」
「では、これで」
「はい!」
「いつかまた会いましょう!」
俺達はぞろぞろと下船する。いつの間に仲良くなったのかマッスルやジェントーは船員達と固い握手をしていた。
こうして国外に変態が拡散してしまったことを鋼牙はまだ知らない。
そして鋼牙は、姉妹が鋼牙が降りた後
「まぁまた直ぐ会うことになるんですけどね」
と黒い笑みを浮かべていたことも知らない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「じゃあ俺とファルでいい感じの家探すから、適当に過ごしといて。ケンカはダメだぞ」
『了解でーす!!』
「じゃあ解散!!」
それぞれの隊ごとに別れて去っていった。
「じゃあ不動産屋に行くか」
「はい!!」
道行く人に聞きながら、街一番の不動産に行く。
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件で?」
バリバリのキャリアウーマンって感じの人に接客される。
「家が欲しい。百人規模で暮らせる家がないか探してくれ。多少高くても構わん」
やっぱ敬語は合わんな!!これが一番だ。
「はい、百人規模となりますと……一件しか……」
「そうか……じゃあそこを見せてくれ」
「それが……」
「ん?」
「その家なんですが……出るんですよ……」
ずいぶん古風な言い回しするな。
「幽霊か?」
「はい、実は……」
曰く、その家は昔この国にいた大貴族の家なのだが、その大貴族というのが清々しいほどのクズで、領地の農民に何をするにも高額な税金を払わせ、おまけに視察と称して各地の村を回り因縁をつけて子供を殺したり、若い女性を拐って辱しめた後に拷問して殺したり、とにかくクズだったそうだ。
そんでそんな貴族が許されるはずもなく、クーデターや裏切りで悪事がすべてバレて粛清されたそうだ。
その貴族は屋敷に乗り込んできた兵士殺される際、ありったけの呪詛を吐いて死んだそうだ。
それからというもの、その屋敷からは夜になるとその貴族が吐いた呪詛が聞こえてくるのだそうな。
「その屋敷ってのが」
「はい、百人規模で住める巨大な屋敷です」
ふむ、俺は幽霊信じない人だけど、このファンタジーの世界じゃ断言出来ない。
怖いなぁ。
「どうするよファル?」
「一応見てみては?ガセかもしれませんし」
その言葉に押され、とりあえず見てみることにした。
「はぇー、デッケェなぁ」
庭も屋敷も凄まじくデカイ。これなら普通に百人暮らせるだろう。
地下室なんかもあったが怖かったので行かなかった。
「幽霊か……夜にまた来ようぜ」
「そうですね。そうしましょう」
夜に来てみることにした。
「じゃあ夜まで…そうだな、冒険者ギルドに行ってみっか」
「お供します!」
この街の冒険者ギルドに行ってみることにした。
冒険者ギルドは王都やアロアのギルドと比べれば小さいが、立派な建物だった。
「なんかいいクエストねぇかな」
「クエストの種類は……討伐系が多いですね」
この街は周囲を森に囲まれているため、大森林ほどではないが魔物が多い。
なので討伐系のクエストが多かった。あと採取系のも。
現在の俺のランクは圧倒的F。ファルはDだった。
「じゃあCランクのこのクエストにすっか」
「そうですね」
クエストはその人のランクの一個上まで受けられる。
なので受けるのはファル、こなすのは俺とファルって感じで行こう。
選んだのはライノバードの卵の採取。
ライノバードは小さくて大人しい鳥だが、その卵が大層美味で、貴族層からの要求が絶えないそうだ。
しかしライノバードはその臆病な性格故凄まじく高いところにしか巣を作らないのだ。
しかもその巣も小さく、周囲に擬態するので見つけにくいことこの上ない。
その上ライノバードは卵を取られると烈火の如く激怒し、仲間を大量に呼んで取った者をつつき続ける。
あまり痛くはないがライノバードは大きな声で鳴き、周辺の魔物を呼び寄せる。
なので冒険者はライノバードにつつかれながら戦闘をしなければならず、時には上位の魔物を呼ばれて死亡したものもいるため、Cランクのクエストになっている。
まぁ俺には関係ないけどな。ファルのような獣人は総じて索敵能力高いため、直ぐに巣を見つけられる。
いくら高い所にあろうと浮遊魔法を得た俺には関係ない。
そしていくら強力な魔物を呼ばれても皆大好きガントレットの熱線で一発だ。
という訳で
「よし、じゃあファル、受けて来て」
「はい、了解です」
クエストの紙を剥がして、受付へと歩いていった。
【第三者視点】
他の受付が結構混んでいたので、一番空いている受付に並ぶ。
『~~~~』
『~~~~~~!?』
前でなんか受付嬢と剣を背負った少年が揉めている。
ファルは少し聞き耳を立ててみた。
「なんで受けちゃいけないんだよ!!」
「だから、あなたのような子供がゴブリンの討伐などできるはずがないからよ。そもそも本当にEランクかも怪しいしね」
「こないだの受付嬢さんは受けさせてくれたぜ?」
「それはその受付嬢が責任感の無い女だったからよ。私は責任を持ってあなたを止めてるの」
「そんなこと言ったってこのクエストを受けないと……」
「あなたにも親がいるのでしょう?親を悲しませたくなかったら早く帰りなさい」
「でも……」
「しつこいわよ!帰りなさい!」
「……分かったよ」
少年はとぼとぼと歩いていった。
【鋼牙視点】
ファルが並んだところでガキと受付嬢が揉めてる。
聞いてみたところ受付嬢が一方的に出来ないと決めつけて受けさせていないらしい。
お、あきらめたガキがしょんぼりしてる。
「おい、そこのガキ」
呼び止める。
「……何だよ」
訝しげにこっちを見てくる。
「まぁまぁ、ちょっとこっち来いや」
ホレホレと手招き。
少し迷ったようだが最後には来た。
「なんか用かよ?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。あの受付嬢はいつもあんな感じなのか?」
「ああ、あんな感じで一方的に出来ない出来ない言ってクエストを受けさせてくれないんだよ。だからあんまり人気が無いな」
「そうか……ところでお前、ゴブリンの討伐なんか出来るのか?」
「ああ、出来るよ。というかやらなきゃいけないんだよ」
「ほう、何でだ?」
「……俺ん家、貧乏で……父ちゃん死んで、母ちゃん病気で……金がいるんだよ」
「……」
「だから、俺が受けられる一番報酬が高いクエストがゴブリン討伐だから、このクエストを受けないと母ちゃんの薬が買えないんだよ!」
「分かった。苦労してんなお前も」
そう言って俺は大きめの巾着袋を投げ渡す。
中には大量の大銅貨。
「な、なんだよこれ!施しは受けねぇぞ!」
「違う、情報料だ。俺のツレがその面倒臭い受付嬢のとこ行っててな」
「……そうかよ。じゃあ貰っとく。……ありがと」
「つか、そのくらいの大銅貨、俺にとってははした金だしぃ?」
「ッキャーーーー!!!ムカつくぅーーーーーー!!!!」
歯ぎしりするガキを置いて話し込んでるファルの下へ行く。
【第三者視点】
「すいません、このクエストを受けたいのですが……」
「はい……失礼ですが、あなたのランクは?」
「?Dですが」
「他に仲間は?」
「あそこにいる方です」
「ランクは?」
「Fですけど……」
「はぁ……悪いことは言わないわ。止めておきなさい」
心底呆れたわ、みたいにため息をついて止めてくる受付嬢。
「な、なんでですか?」
「沢山いるのよ。あなたたちみたいに報酬が高いからって採取クエストを舐めて受けて死ぬ人。だから止めときなさい」
「あー、お気になさらず」
「そういう訳にいかないのよ。あなたたちが死んだら私の責任になっちゃうの。だから身の丈に合ったクエストを受けなさい」
「大丈夫だから受けたんです!」
「大丈夫じゃないから止めてるの!」
ファルは面倒臭い受付嬢だと、ここに並んだことを後悔する。
「よう、どうしたファル。なんか話し込んじゃってよ」
なかなか終わらない会話に痺れを切らした鋼牙がやってくる。
「ちょうど良いからあなたにも言っとくわ。クエストが高いランクに設定されてるのはちゃんとした理由があるの。だから受けられるからって受けちゃダメ。身の丈に合ったクエストじゃないと失敗して違約金が発生するし、命の危険があるのよ」
「はぁ……」
「だからこのクエストは止めて、身の丈に合ったクエストに……」
「あの、悪いんすけど」
唐突に会話を遮る鋼牙。
「なんであんたにんなこと忠告されにゃならんのですか?」
「なっ、私は善意で危険から遠ざけて上げようと……」
「今は善意とかマジどうでもいいんで。ファル、隣の受付が空いてるからそっちに行こう」
鋼牙とファルはちょうど空いた隣の受付へ行き、クエストを受けて出ていった。
「なんなのよ!こっちは善意で止めるよういってるのに!」
受付をガン!と叩く受付嬢。
そこに別な受付嬢が話し掛ける。
「荒れてるわねぇ」
「クエストの大変さを分かってない新人が生意気言ってね。いっぺん痛い目見るのも教育かしら」
「あんたも大変ねぇ。何にも考えずにクエストまかせてりゃ良いのに」
「そういう訳にいかないでしょ。まったく、世話が焼ける……」
呆れた……という感じに受付嬢は溜め息をついた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「なんか、優しいんですけど、なんかなぁ~、って人でしたね」
「俺の故郷には『余計なお世話』って言葉がある。心配するのもいいが、相手のことを何も知らないのにグダグダいうのはただの迷惑だ」
「でも、善意であることには変わりないんですよねぇ」
「……俺の故郷にはこんな言葉もある。『地獄への道は善意で舗装されている』」
「……怖いですよ」
思い付いたけど使い所がなかったネタその1(その2があるかは分からん)
「う~~~~~」
「どうしたんだっ」
「あ、マッスルさん!ちょうどいい所に!ビンの蓋が開かなくて困ってたんですよ!」
「なにっ、ビンの蓋が開かない?そんな時は!」
マッスルは二等上腕筋を見せつけるポーズをとって
「蓋を火で熱するといいぞっ」
「いや開けて下さいよ」




