小話 妹編
ふと思い付いたので何にも考えずに書きました。
反省も後悔もしていません。
「二学期お疲れーーーー!!!!」
黒鉄鋼牙(中2)は勢いよくグラスを掲げた。今日は12月23日。鋼牙の学校では二学期終業式である。
「いやー、一年経つのは早いなぁ。こないだ5年生になったと思ってたんだが」
それに答えるのは父・黒鉄堅吾と
「あなた、それ夏休み前にも言ってたわよ」
母・黒鉄柔美。
「しかし、この時期に二人がいるのは珍しいよな。クビになったか?」
父は大企業の部長を勤めているらしいのだが、よく『オトナノジジョウ』とやらで海外へ行く。
それに母もついて行く為家族三人が日本に揃うのは珍しかった。
「ちゃうわ!!!いい感じにヒマになったんだよ」
「でも鋼ちゃん。私達がいないせいでお友達にいじめられてない?」
「大丈夫だ。問題ない」
両親がいないことをからかうバカが結構いたがすべて鋼牙が物理的に黙らせた。
「ホント出来がいい息子に育ってくれたな!!」
「安心して家を開けられるわねぇ」
この時期の少年を家に一人にして良いのかと思うかもしれない。
しかし鋼牙は多感な時期に両親がいなかったことで妙に達観してしまい、思春期·反抗期がとてつもなく短かった。
鋼牙自身はかなり微妙な心境であるが、まぁしゃーないと諦めたのが中1の夏休みだった。
ゲーム、友人、勉強、適度な運動とかなり快適に疑似一人暮らしを満喫していたのが実際のところである。
「でだ鋼牙!!お前いつも一人で寂しいだろう?」
「一人にしてんのお前らだけどな親父」
「うっうっ、こんな親でごめんねぇ!!」
「あーー!!!鋼牙がお母さん泣かしたーー!!!ら~らら~こ~ら~ら~、い~けないんだいけないんだ~」
「チッ大丈夫だよ母さん」
「今舌打ちしたでしょぉ?ダメよぉ?」
「ういっす」
ウザイ父、のほほんお母さん、達観した息子の組み合わせが最適なのか家庭は実にゆったりしていた。
「でだ、本題に行くぞ。そんなクリボッチの鋼牙君に……」
「そんな寂しい鋼ちゃんに……」
「「クリスマスプレゼントとして妹をあげることにしました~!!!」」
「…………一応年齢的に思春期の息子に言う事じゃねぇぞ」
じゃじゃーん!!とばかりに意気揚々と発表した二人に鋼牙は冷めた目を向ける。
「ち、違う!!そういうことじゃない!!誤解だ!!」
「そうよ鋼ちゃん!!それに鋼ちゃんが思ってる事だとあと数ヶ月掛かるわ!!!」
「やめようねお母さん。息子よ、我が家は非常に裕福だ」
「そうだな。ホントに親父の仕事は何なんだよって位には稼いでるよな」
「ああ。だから私は考えた。どうせこんな息子に継がせる金なんだから、社会の為に使おうと」
「おい」
「と、いう訳で我が家に養子を迎えることになりました~~!!!!」
「!?」
いきなりのカミングアウトに驚く鋼牙。
「ちょっと待って、いきなり過ぎるだろ!!聞いてねぇぞ!!」
「そりゃ言ってないし」「「ねぇ?」」
「……はい、わかったわかりました。1億歩譲って良いとしよう」
「おお、分かってくれたかさすが我が息子!!!」
「あの子達も喜ぶわよぉ!!」
「諦めただけだけどな……マテ」
「なんだい?」「なぁに?」
「あの子達って言った?達って言ったよな今?」
「ああ、お前より年下の女の子が四人来るぞ」
「仲良くしてあげてね?」
「いやいやいやいや四人とか聞いてねぇぞ!?」
「そりゃ言ってないし」「「ねぇ?」」
「もういいよ!!わかったよ!!来るなら来いってんだ!!」
「分かってくれたかさすが我が息子!!」
「そのフレーズさっき聞いたぞ」
このクソ親父が。鋼牙は深くため息をついた。
「そうそう、全員美少女だけど襲うなよ?」
「襲わんわ!!!!!人を何だと思ってやがる?」
「性欲を溜め込みすぎて爆発寸前の危ない奴」
「シニテェヨウダナ」
「サーセン」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
12月24日。意気揚々と養子を孤児院の迎えに行った両親を見送り、ソファーにねっころがって適当にゴロゴロしておく。
そうするうちに眠気が襲ってきて、抵抗卯むなしく意識を手放した。
「……が!こう…!お…ろこ…が!」
小さい声が聞こえる。
どうでもいいから寝てしまえとまた意識を遠ざけるが
「うぉきろぉ!!!!!!!!!」
「どわぁああああああああああああ!!!!!!!!」
いきなり耳元で叫ばれ、俺の意識は戻ってきた。
「おうおう、ちょっとはしおらしくそわそわしながら待ってるかなとか思ってたらこれかよ?」
なんか身に覚えが無いことで責められる。理不尽だ。
「なんだよ。眠かったから寝たんじゃんか」
「それはダメだっつってんだよ。まぁいい。ホレ、挨拶しろ」
「んお?」
親父が指し示す方には、四人の美少女が立っていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「………………」
「「「「………………」」」」
静寂が響き渡る。静寂なのに響き渡る。
今俺は先ほどの四人と向かい合って座っている。
あのクソ親父と母が
『じゃあ私達は仕事があるから~~』
『大晦日にはかえりまーす』
と言ってスキップで行ってしまったからである。
誰も何も言わないので、場を静寂が支配していた。
(っべぇ。マジっべぇよ。どうしよう)
静寂が嫌いな俺は焦る。
とりあえず話のタネを探すために先ほどの自己紹介を思い出す。
俺から見て右端に座るロングヘアの子。
『麗子です。どうぞ宜しくお願いします』
一番年上で『お姉さん』って感じだな。
麗子さんにぴったりくっつく幼女。
『ちゃこです。おねがいします』
どうでもいいけどペコッと頭を下げる動作がむっちゃ可愛かった。
そんで俺の正面に座る長い髪をお団子纏めた子。
『美帆。よろしくおねがいするね』
この子は中国人か?なんで一人だけ外国人が?
最後に左端に座る少し日焼けしたショートヘアの子。
『か、薫です。よろしく……』
声がヒューンって小さくなったから最後が聞こえんかった。
コミュニケーション苦手かな?
(さて、この静寂をどうするか……)
腕組みして考える。
後に麗子から聞いたが、この時の俺の顔が大層怖かったそうだ。ゴメンネ。
(クリスマスプレゼントって、面倒なことにしやがって……)
面倒なことにした輩を心の中で罵倒する。
(……よし、鋼牙流コミュニケーション術『親善編』を使うか)
考えを纏めた俺はスッと立ち上がる。
いきなりの動きに女の子達の肩がビクッと跳ねる。
そして部屋の棚を暫く漁り、目当ての物を持って元の位置へ戻る。
「おう、お前ら」
全く意識していないがドスの聞いた声で喋る。(これも怖かったそうだ)
戦々恐々といった顔でこちらを見てくる妹達に一言。
「トランプ、やるか?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一時間後。
「うぇーい俺の勝ちぃーーーーー!!!!!」
「ま、まですかぁ?」
「絶対なにか不正してるアル!!!」
「不正はしてる。だが見破れなければ不正じゃなーい」
「そんな理不尽な……」
「悔しかったら見破ってみろ~~」
「「「ぐぬぅ~~」」」
けっこう打ち解けてきた。さすが場を和ませることに定評のあるトランプ先輩。
しかしバレねぇな不正。ただ単にトランプの端っこに小さく番号を書いてるだけなんだが。
「あ"あ"ぁああああああああ!!!また負けたアル!!!!!」
「もうおやつ券無いよぉ!!」
俺達は毎回おやつ券というものを賭けている。
おやつ券とはその名の通り、おやつと変えられる券だ。
キッチンにあるなんかハイテクな機械に入れると指定したおやつが貰える食券みたいな物だな。
おやつ券は月曜日に7枚貰えて、良いことがあったり、良いことをしたりすると追加で貰える。
家族に加わった大事な日なので大盤振る舞いで一人15枚発行してくれた。
俺は一気に10枚賭け、妹達は一枚ずつ賭けていたが、俺が勝ちまくったせいでもう後3枚になっていた。
(一位が総取り)
「……あぁ!!!!!!カードの端っこにちっちゃく番号書いてある!!!!」
「あ、バレた」
やっとか。これを親父にやられた時は三回目で気付いたぞ。
「不正を見破ったよ!!!!!おやつ券返して!!!!!!」
「返すの!!!!!」
「返すアル!!!!!!」
「返してください!!!!!!」
一斉に手をつきだして要求してくる。
「はいはい。じゃあ不正の詫びに五枚上乗せして20枚ずつやろう」
「わーい!!!やったの!!!!」
「18、19、20。はい、確かに20枚頂きました」
「ふぅ。で、どうする?まだやるか?」
「もちろん!!!!」
「全部巻き上げてやるアル!!!!!!」
「じゃあドン○ャラでもやるか」
彼女達は知らなかった。知るはずも無かった。
この家のパーティーゲームにはすべてにイカサマが仕込まれていることを……。
中華美少女はアル語尾という固定概念が……。




