不遇職、鍛冶屋
俺は夕日で真っ赤に染まった空の下をとぼとぼと歩いていた。
「追放されちまったなあ。これからどうしようか……」
路頭に迷った時は、これからどうするかを筋道立てて考えるといい。
「生活に必要なのは衣食住!! 着るもの、食うもの、住むところ!!……でもそれを手に入れるには金が必要……」
俯いた俺の視界にさっきもらった袋が映る。 開けてみると輝く金貨が十枚入っていた。
おお! 金、あるやん!! 追放されちまったショックで忘れてた。 これで万事解決だ。
「うっし、宿探しに行くか!!」
そこから俺は頑張った。勇気を振り絞って人に話掛けたのだ。
おいそこ!! 俺はコミュ障じゃねぇぞ!!
考えてみてくれ。 今の状況は極端に言うといきなりアフリカの部族に話し掛けろっていわれたようなもんなんだぞ。
なんとか無事いい宿の場所を聞き出し(普通にいい人だった)、そこへ向かう。
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「う、おぉ……!!」
アニメとかに出てくる『宿屋』って感じの建物だった。
古くても掃除が行き届いているようなので結構いい店だと推測。
暖簾をくぐって中にはいると、埃一つ無い清潔なで物静かな空間。 まるで地球の高級ホテルのようだった。(行ったことないけど)
「いらっしゃい、泊まるならこっち、飯ならテーブルで待ってな」
入り口すぐ横にあるカウンターで恰幅のよいおばちゃんが呼んでいる。
「宿泊で。一週間む」
俺が出した金貨を見たおばちゃんの顔色が変わる。
「あんた!! なに考えてんのよこんな大金出して!! 直ぐしまいな、襲われたいのかい!?」
「へ!? た、大金?」
俺がさっき出した金貨のことだと気付いて仕舞うと、おばちゃんが呆れた顔で話始めた。
「まったく、こんなところで金貨を出すなんて、襲って下さいって言ってるようなもんだよ。金貨一枚ありゃ一月は何もしなくていいほどだからね。金貨を出す辺り世間知らずの坊っちゃんってとこかい。護衛もつけないで、無用心だよ」
「す、すまん。なにぶん世間知らずなもんでな……。とりあえず一週間、いいか?」
「ああ、釣りが面倒だが一枚もらっとくよ。好きなだけいておくれ。 朝食は朝5時から8時まで、昼食は11時から2時まで、夕食は6時から9時までだよ。遅れたら飯は無いからね」
「分かった。ありがとう」
鍵を受け取り部屋へ向かう。 そしてベッドへ倒れ込む。
「これからどうすっかな……占い師さんが生活は保証するって言ってたがあんまり当てにしないほうがいいだろな。仕事探すか……冒険者とかあんのかな」
鋼牙はあの城の連中をまったく信じていなかった。 かつてのクラスメイトでさえも。
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「仕事? それなら冒険者だね。細心の注意を払えば安全だし、その日分の金は稼げるよ」
翌日の朝、ご飯食べてる時におばちゃんに仕事について聞くとそう言われた。
あるんだ。冒険者。
というわけで、冒険者ギルドに行くことになった。
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「う、おぉ……!」
冒険者ギルドは三階建ての大きな建物だった。 盾の前で剣が二本交差したデザインの看板がかかっている。
早速入ると扉についたベルが鳴り、中にいた人たちが一斉にこっちをむき、すぐ目をそらした。
あの教室見たいで嫌だなと、そんなことを思いながらカウンターの前へ行く。
「登録をお願いしたいんだけど」
カウンターにいた美人の受付嬢に言う。
「はーい、ではここに必要事項を書き込んでください」
受付嬢から渡された紙には様々な解答欄があり、戦略は立てられるか、とか、遠征は平気か、とかYes,Noで答える質問もあった。
解答欄一つ一つに書き込んでいく。 ちなみに俺たち勇者は、聞いた言葉や読んだ文字が日本語になり、話した言葉や書いた文字がこの世界のものになる『翻訳』と言うスキルを持っているので普通に日本語で書く。
「ほい、できたぞ」
「はーい、ありがとうございまーす。え~と、え?、天職、鍛冶屋ぁ!?」
いきなり大声を出したかと思うと受付嬢の態度が一変する。
「鍛冶屋って戦闘出来ない落ちこぼれじゃん!! そんなんで冒険者なろうとしたの? なめてんの?」
「は?いやそんなことは良いからさっさと登録」
「はいはーい、登録完了しました~」
投げ捨てるように渡された紙には契約の詳細等がかいてあった。 軽く目を通した俺は絶句した。契約内容が余りにも酷いからだ。
「おいこら!! これどういうことだよ!! 依頼達成報酬、素材買い取り額3分の1って!!」
「冒険者ギルドは人員不足でしてぇ~、使えない無能に当てる人員も払う金も無いってことで~す」
ムカツク、非常にムカツク。 反論しようとしたとき、屈強な冒険者が近づいて来た。
「鍛冶屋の兄ちゃん、あんたみたいな鍛冶屋は使えないんだよ。大人しく帰んな」
「それか人の三倍依頼こなせばいいんじゃねえの~」
ギャハハと笑いながら嘲ってくる。
屈辱と羞恥で頭に血がのぼる。
俺は何も言わずに向きを変え、冒険者ギルドを後にした。しばらく歩くまでずっと笑い声は響いていた。
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「クソッ!!」
鍛冶屋があんなに見下された職だとは思っていなかった。歩いて宿まで戻り、声を掛けてくるおばちゃんを無視し、部屋に入り、布団に突っ伏して泣いた。
女々しいが、耐えられなかった。
俺の人生であんなに理不尽な扱いを受けたことが初めてだったから。
バカにされる事はあった。しかし日本と言う国は平等だった。
殺される訳でもない。ただバカにされるだけ。 だが今回は賃金が減額されるという許しがたいもの。しかもそれに俺は抵抗出来ない。
「見返してやるぞ……」
どんな手段を使おうとも。どんなに蔑まれようとも。
絶対に見返してやると、心に決めた。