寝返りオタク
短いですがご勘弁下さい
「皆、聞いてくれ!!!」
夕飯を食べていた勇者達が長机の端、お誕生日席で声を上げた傷だらけの青年に注目する。
「も、茂部君、その傷はどうしたんですか!?」
先生がおろおろしながら心配の声をあげる。
「ああ、この傷はあの卑怯者、鋼牙にやられたんだ!!」
「ど、どういうこと!?」
「街を散策していたら、いきなり襲って来たんだ!!いきなりだったから抵抗も出来ずにいたぶられた……」
「ひ、ひどい……」
「あの野郎……八雲さんはああ言ってたけど、やっぱり卑怯者の犯罪者だ!!」
「きっと悪どい商売とか殺人とかやってんのよ」
「僕ら勇者に傷を負わせるなんて、この国への反逆行為だ!!」
「それどころか世界の敵だ!!救世主を襲うなんて……」
自分たちは正しい。自分たちに従わない者は悪。そんな『自分特別理論』に取り付かれている勇者達。
なぜ鋼牙は襲ったのか。なぜ抵抗できない程いたぶられた割には元気そうなのか。
そんなことを考える者は最早居なかった。
「話は聞きました」
バン!!と食堂の扉を開いて一人の青年が入って来る。
「あ、東谷さん……」
そう、伝説の天職【賢者】を持つ勇者達のリーダー格だ。
「勇者への暴行。これはれっきとした国家反逆罪です。世界の救世主である僕達勇者に危害を加えたのですから。特別な僕達が、あんな薄汚い卑怯な【鍛冶屋】ごときに傷つけられていいはずがないのです」
彼は元々の傲慢さに賢者という『特別さ』が加わって『勇者』=『めちゃくちゃ尊い存在』という思考を持ち、その考えに従った者で派閥を構成していた。
ちなみにもう一つの派閥は正義の『勇者は正義で勇敢で最強』という考えの派閥だ。
「ようやくあの卑怯者に制裁が加えられる……。さあ皆さん、あの卑怯者に天罰を下しましょう!!」
「おお!!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
「まずい、まずいですぞ佐々木氏!!!」
小太りの小男が慌てた様子で言う。
「ああ、まずいでござるな田中氏!!!」
もう一人のひょろりと痩せたノッポも慌てた様子で言う。
「あの流れではテンプレートを回避することはできませんぞ!!」
「ああ、このままだと覚醒したバカ強の鋼牙にフルボッコにされるでござる!!それだけは嫌でござる!!!」
「あんなに慢心したり、追放した奴をけなしたら復讐エンド路線まっしぐらですぞ!!」
「どうすればいいでござるかねぇ……?」
「……いっそのこと寝返るというのはどうですかな?」
「それはどういうことでござるか?」
「殺気に負けて追い出してしまったりもしましたが、きっと受け入れてくれるはずですぞ!」
「ならば早速行くでござる!!」
その夜、守衛は闇夜を駆ける2つの影を見た。
太く小さな影と、細く大きな影と。
一瞬で闇に溶けたので、気のせいだと守衛は忘れてしまった。




