仲間その3、オネェ武闘家 ゲッツ
俺は『嘘じゃない嘘』で看守長を丸め込み、監獄で囚人をかたっぱしから鑑定していった。
「なかなか居ねえな……」
「?何がでありますか」
「気にすんな、こっちの話だ」
付き添いの看守が邪魔だ。鑑定自体はバレないと思うが、誤魔化すのがめんどくさい。
「俺ちょっとトイレに……」
「ご案内致します」
「一人で大丈夫……」
「規則ですので」
あの手この手でどっかへやろうとするがなかなか上手いこといかない。
しかし免罪の奴いないな。まあ居たらダメなんだが。
しかし一人も見つけられないまま牢獄が終わってしまった。
「他にいないのか?」
「居るには居るのですが……」
「難有りでも構わん。案内しろ」
「……了解しました。こちらへ……」
案内された所は正に深淵だった。看守が持つランタン以外の光源が一切無く、地下にあるため日の光も射し込まず真っ暗闇で、牢屋も鉄格子ではなくゴツい金属の壁だった。
「どんだけヤバい奴がいるってんだ……」
「大半は凄まじい力を持つ者、他は国家に反逆した者が収容されております」
「はーん。反逆者か」
つまり冤罪にされた奴は此処にいる訳だ。
さっそく探そう。
そして鑑定すること1時間弱。ついに見つけた。
第一印象はマッスル程ではないがムキムキのおっちゃんだが、ドクロが無い。冤罪の被害者だな。
「なあ、おっちゃん」
話掛けるとおっちゃんはゆっくりとこちらを向き、
「アタシに何か様?」
オネェ口調でこう言った。
「oh……オネェだったのか」
「アタシはオネェじゃないわよ」
「嘘つけ、その見かけと口調は完全にオネェ……」
「あ"あ"ん?どぅあれがSAN値直送の化け物じゃゴラアァァァァァ!!!」
『その見かけ』に反応したのかいきなりキレる。
「申し訳ございませんでした」
凄まじい覇気を受けて俺の体が勝手に腰を90°に曲げて謝罪した。
「ま、良いわ。そんな扱いを受けるのは珍しくないしね。で?なんの用?」
「おう、お前さんは何やって此処に入れられたんだ?」
「アタシはね、表じゃ貴族を殴ったって事になってるでしょうね」
「貴様!!まだそんなことを……」
「黙れ。事になってるってのはどういうこった?」
「……アタシは商業都市コマーシャルで服屋をしてたんだけどね……」
―――――――――――――――――
【1年前 商業都市コマーシャル】
貴族の屋敷で豪華なドレスを纏った女性達がお茶をしている。
「ねぇねぇ、もう聞いた?あのお店がまた新作出したんだって!!」
「聞いた聞いた!!素晴らしく素敵なドレスなんですってね!!」
「あのお店の服を着てると男性によく誘われるようになったの~」
「私はあのお店の服を着てたらお母様が『素敵な服ね』って~」
「ええ!?最近流行りだった服をバッサリ『ダサいわね』って言ったあなたのお母様が!?」
「つまり本当に素敵って事よ!!ねぇ、今から行かない?」
「良いわね!!新作の服も見たいし!!」
この女性達の話に出てきた服屋は、2ヶ月前ほど前に開店してから直ぐに、その奇抜なセンスと大胆な露出で女性達とその服を着た女性を見た男性のハートをかっさらった有名な店である。
その店を経営しているのは天職;武闘家の女性だった。裁縫向きの天職ではまったく無いが、たゆまぬ努力と勉強、そして武闘家ならではのセンスが火を吹き、武闘家でありながら商人ギルドに登録し、売り上げ2ヶ月前連続1位を記録するなど、様々な快挙を挙げていた。
その店に来た者は、初め店主の見かけに驚き、次に服のセンスの良さに仰天し、必ず一着は買って行く。
そんな平民の服屋の大流行を快く思わない者がいた。
商業都市コマーシャルで同じく服屋を経営するファッシャン一族である。
ファッシャン一族は貴族ならではの豪華で雄大な服で何度も流行を起こした裁縫貴族である。
「何なのだ!!あの平民服は!!私達の服がとるべき流行を奪いおって!!」
「本当ですわ!!あんなチンケな布切れが私達の流行を……」
実は先ほどの女性達が話していた『最近流行りだった服』というのは彼らが作っ物である。
ファッシャン一族は初めはとても豪勢で雄大で美しかったのだが、代を重ねるごとに豪華さでセンスや形を誤魔化すようになっていった。
しかし彼らにはそれが分からない。自分たちの作る服こそが至高で、流行していなければならないと本気で思っているのだ。
なので彼らは最近流行りの服屋を姑息な手段を使って流行を奪った卑怯者としか認識していなかった。
「なんとかあの卑怯者を引き摺り下ろして皆の目を覚まささせてやらないとならん」
「お父様、私にいい考えがございますわ」
「ほう、話してみなさい」
「はい、まず……」
【数日後 服屋にて】
お昼頃。少し客が少なくなるので経営者にとっては貴重な休憩時間だったこの時間を勢い良く開けられた扉が引き裂いた。
「この店の責任者は誰だ!!」
踏み込んで来たのは鎧を着た貴族の私兵らしかった。
「責任者はアタシよ。何か用かしら」
「貴様には特許侵害の疑いが掛かっている。ご同行願おう」
「…………分かったわ。皆、後をよろしく」
こうして服屋の店主は城に連行された。
王の前での裁判で、原告であるファッシャン·グゲルは王に訴えた。
「この服屋の店主が私達が考えた服の案を盗み、自分の案として利益を上げていたのです!!」と。
商業都市コマーシャルでは特許が定められており、特許を取得すると他の人は特許所有者の許可が無ければ製品を作れず、作るのならば特許使用料をとられる。
ファッシャンは彼女はこれに違反していると告訴したのだった。
もちろん完全にでっち上げで、案は100%彼女が考えた物だし、特許に関しても彼女が特許を申請している最中に特許を申請し、貴様パワーで受理を早めてもらったのだった。
もちろん彼女は抵抗したが、貴族が相手では平民に勝ち目などなく、特許侵害で捕まってしまった。
彼女の天職が上位職の武闘家で、レベルも高いことから泣く子も黙る深淵牢獄へ入れられてしまった。
そして、今に至る――――――――――――
「と、そういう訳よ」
「お前さんも苦労してんなぁ。それと気になったんだが、彼女ってのは?」
「……アタシ、こう見えても……」
筋肉が浮かび上がった足を優雅に組み、リンゴどころか石でも粉砕できそうな手で髪をかきあげる。
「女よ?」
「嘘は良くない。古事記にもそうかかれている」
「あ"?」
「すいません申し訳ございません反省してます」
「人は見かけで判断しちゃだめよ?」
「ういっす。肝に命じておきます」
閑話休題
「本題だ。お前さん、こっから出たいか?」
「出られるなら直ぐにでもね」
「じゃあさ、俺の仲間になれ。一緒に行こうや」
「…………こんな見た目だけど?」
「人は見かけで判断しない。さっき教わった」
「結構乱暴よ?」
「既存の仲間が変態と変態だからお姉さん的な奴が欲しいんだ。頼む」
「……分かったわ。あなたに付いていってあげるわ」
「マジで!!やったぜ、これからよろしくな!!」
仲間が増えた。めでたいめでたい。




