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努力を知らない卑怯者  作者: 自宅警備員Lv9999
第二章:深淵
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深淵



「ヒャッハァーーーーーーー!!」



 現在俺達は王都の北に広がる大草原を爆走している。



 このまま最高速度で突っ走れば3日程で目的地に到着するだろう。



「コウガ殿、いつの間にこんなアーティファクトを作ったのですかな?この大きさだとかなり目立ったと思うのですが……」



「ああ、前に壊滅させたゴブリン要塞で作ってたからな。試走中に冒険者と会って魔法ぶっぱなされたけど」



 例の軍団が発生した場所だ。調査も済んで放置されていたので有り難く作業場にさせて貰った。



 試走中に会った冒険者は森で凄まじい勢いで走行し、尚且つ魔法が効かない化け物と会ったと言いふらし、さすがにヤバいと思った俺が謝って、俺が倒したとすることで何とか治めた。



 収まるまでギルマスの胃を痛め付けた悲しい事件である。



「ああ……。まあ、こんな物が動いていたら確実に魔物だと思うでしょうな」



「うむ、それは現状を見れば分かるな」



 現在俺達は街道脇を走っているためちょこちょこ冒険者や貴族や商人とすれ違うが、冒険者は魔物と勘違いして迎撃体制を取るか情けなく逃げていき、貴族は怯えて馬車で逃げようとし、商人は見た目を記録したり真写水晶に記録したりと三者三様の反応を見せた。



 まあいきなり土煙を上げながら黒い金属塊が突進して来たらビビるだろう。



 なんか申し訳ない。だが同時に面白いので止められない。ビビれビビれ。



 ……この後目撃者の証言によってメルカバが『謎の黒い魔物』として討伐クエストが出されることになることを鋼牙は知るよしもなかった。



 そんな感じで草原を突っ走り、夜は冒険者を轢く可能性があるので走らないでキャンプをして休む。



 そんな感じで本来1ヵ月の道のりを3日で走破してしまった。



 大草原を越えると山岳地帯に入る。山岳地帯は強力な魔物が生息し、腕利きの冒険者ですらクエスト以外ではめったに近づかない。



 まあ俺は気にせず突っ込んだがな。魔物はそもそも恐れて近寄らないし、近寄ってきても撥ね飛ばて轢き潰して車上に搭載された砲台で吹き飛ばしてで物ともしないからな。



 結構快適なドライブだった。



◆◇◆◇◆◇◆



 そのまままた3日程走る。悪路なので徐行しなければならない所が結構あって時間がかかった。



 だが、遂に到着した。



「お、見えたな。あれか」



「なにやら禍々しいですな」



「彼処には行きたくないと僕の筋肉が訴えているぞっ」



「うう、怖いですう……」



 俺達の前の丘には要塞のような巨大な建造物が佇んでいた。



 言わずと知れた例の深淵牢獄である。



 中にいるのは訳ありで犯罪奴隷にできなかった凶悪な犯罪者なので、建物から立ち上る禍々しいオーラが凄い。俺には曰く付きの廃屋と同じような感じに見える。



 とりあえず看守らしき人に話しかける。



「おーい、ちょっとすまん」



「ん?こんなとこになんか用か?」



「おう、とりあえず上に合わせてくれんか?」



「ああ、ちょっと待ってな。今囚人が一人脱走してて……」



 ガゴォォォォン!!



 門番のおっさんの話を遮って門が内側から破壊され、そこから白黒の囚人服を着た奴が飛び出してくる。



『脱走者が門外へ脱走!!捕縛水晶の使用を許可する!!』



 アナウンスが響き渡り、ウ~ウ~とサイレンが鳴り始める。



 そして壁の上や門から兵士が現れ、水晶玉を構える。



 水晶玉からは電撃みたいな物が発射された。おそらく当たった者の動きを止めるとかそんな感じの魔道具なのだろう。



 囚人服の男は必死で避けていたが、一斉射撃を受けて敢えなく拘束されてしまった。



 男は何かわめき散らしながら連行されていった。



「なあおっさん、アイツは何やらかしたんだ?」



「あ?ああ、奴は貴族の屋敷で盗みを働いたんだそうだ。バカな奴だよ」



「ふーーん。そっか」



 俺のこの国に対する好感度が一気に下がった。



 というのも、俺がさっき近くを通ったあの男を鑑定したからだ。



 俺のスキル『鑑定』は犯罪者は名前の横に赤いドクロマークを表示してくれるという便利機能を持っている。



 なのでドクロがないアイツは無罪。なのに犯罪者として扱われている。つまりは冤罪。



 本当にこの国は……。まあ、仕方ないのかもしれない。人間の行動力の90%は欲だからな。



◆◇◆◇◆◇◆



 その後俺は皆を外に待たせて一人で中に入れてもらい、看守長に会わせてもらった。



 看守長はデップリ太ったキモいおっさんだった。



「本日はどのようなご用件で?」



「うむ、お前らは勇者が召喚されたということを聞いているか?」



「い、いいえ!?そんなことがあったのですか!!」



「じゃあ教えてやる。俺が召喚されし勇者の一人、コウガだ!!」



「な、なんですとぉーーーーーーーーーー!?」



 まあ、嘘はついていない。実際に召喚されたしな



 看守長は大げさに立ち上がって驚く。出世に使えるとでも判断したのかニコニコと気味悪い笑みを浮かべる。



「そ、その勇者様がこのような所になんのご用件で?」



「うむ、魔王討伐のため、さらなる戦力が必要となった。なので犯罪者を一時的に奴隷とし、兵士にすることにした」



「犯罪者を、兵士にですか……」



「ああ、武勲を挙げれば無罪とか言って、捨て駒として使ってやるのさ」



「な、なるほど。ではさっそく手続きを……」



「待て。どいつを解放するかは俺が決める。他人の強さが分かるスキルを持っているんでな」



「は、はあ」



「そして……」



 俺は持っていたトランクを机の上にのせ、開ける。中には金貨が溢れんばかりに詰まっている。



 看守長の喉がゴクリとなる。



「魔王討伐に犯罪者を使ったとなれば……な?このことは秘密にして貰いたい」



「も、もちろんですとも!!この世界の為ですからな!!」



 清々しい程いい返事だった。

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