メンヘラ勇者
ファルの呪いの様なスキルを解除して3日が経った。最初は部屋がある事にもベッドで寝るのも混乱し、恐縮していたが、今ではすっかり馴染んだようだ。
そして何故か俺になついた。
いや、彼女を散々苦しめた呪いの様な物だったスキルを取っ払った俺は確かに脳内補正でかっこよく見えるだろう。
でもなぁ、6、7歳だったらわからんくもないが、見た感じ16ぐらいだしなぁ。チョロインすぎやしないか?将来悪い大人に騙されないか心配だ。
つか、アイツ何歳だ?ちょっと聞いてみるか。
食事中に隣に座るファルに尋ねる。
「なあ、ファル。お前今何歳だ?」
「えーと、今年で8歳になりました」
「ファファファのファ!?」
いけねぇ、変な声が出た。つか8歳!?
「ぜってぇ嘘だ!!最低でも15はあるだろ。敬語使ってるし」
「いや、獣人族は5歳頃に急成長して60歳くらいまで見た目が変わらないんです。エルフ族は3歳頃に急成長して1000歳くらい生きますけど。あと敬語は関係ないです」
幼少期に急成長……野生動物のようだ。しかしファルが合法ロリならぬ違法ババアだったとは。
(説明しよう!!違法ババアとは合法ロリの真逆、実年齢より数歳上に見えることである!!我々の業界では詐欺師として扱われる!!)
まあ、これではっきりした。ファルは子供である。チョロインなのはしょうがない。
むしろ人生の先輩として大人な対応を……。
「でももう心も体も大人ですのでご安心下さい」
「何を安心すりゃいんだよチクショウ!!」
残念、ファルはチョロインだったようだ。
◆◇◆◇◆
なんだかんだあってその日の昼。
「唐突だが、ここにいる俺の仲間でクランを作るぞ」
俺は昼食の席でそう宣言した。ジェントー、マッスルは困り顔。
「本当に唐突ですな」
「何かあったのかっ?」
「うむ、さっきな……。回想入りまーす」
俺とファルが魔法店で必要物質を購入した帰り、元クラスメイトの横嶋マユトにばったり出会った。
横嶋マユトとは、クラスメイトだったらしいが数年間存在を知らなかったほど影が薄い、筋金入りの陰キャである。
「お、お前!!どの面下げて街を歩いてるんだ!!この犯罪者が!!」
「ん?それはあのクソおん……アリアが仕組んだ冤罪だと八雲さんが証明してくれたが?」
「あ?しらねーよ!!俺はお前が城に来たとき居なかったんだ!!」
「マジで!?八雲さんと東谷以外全員いたと思ってたが……」
「影が薄いって言いたいのか!!それにお前はアリアさんを……!」
怒鳴っていたマユトの視線がファルに止まり、その顔が驚愕に染まる。
「お、お前、彼女を、どこで……」
「あ?ああ、奴隷商でな」
「やっぱり、もう買われてたのか……どうりでイベントが進まない訳だ……」
なにやらぶつぶつ口走ったかと思うと、急に皮袋を俺に押し付けてきた。
「お、おい。その金はみんなやるからこいつを寄越せ。どうせ元は金貨1枚だろ?」
そう言ってファルの手を掴み、連れて行こうとする。
「や、止めてください!!」
ファルが暴れて手が離れ、ファルは走って戻ってきて俺の後ろに隠れた。小動物のようだ。可愛い。
「な、なんでだよファルリア!!あんなに愛し合ったじゃないか!!」
「ファル、お前旦那いたのか」
「し、知りませんよあんな人!!」
「おいお前!!ファルリアを解放しろ!!さもないと……」
「まあ待て、とりま事情を聞こうか」
そうして語られた内容はこんな感じだった。
曰く、この世界は自分が以前プレイしていたゲームにそっくりだった。
そのゲームの中には恋愛のイベント分岐があるが、その中でもっとも熱を上げたイベント、『奴隷少女ファルリア』のルートを選んだらしい。
そのイベントは、召喚された主人公が奴隷商に行くとファルに一目惚れし、購入。呪いのスキルを自分の天職、『呪術士』のジョブスキルで消滅させる。
そのことでファルは主人公に思いを寄せるようになり、相思相愛になって結ばれる。という内容だった。
イベントは主人公が奴隷商に来るのが遅れるほど、ファルは弱るが攻略しやすくなる。絶望から救った者というのはやっぱりかっこよく思えるようだ。
そしてファルが絶望で狂うギリギリまで粘り、満を持して奴隷商に向かうと売れた後だった。
なので購入者を探したが見つからず、慌て始めたころに俺と会った。ということだった。
「いや、お前が早く来れば良かったんやん。マッチポンプめいた事をするからこうなる」
「うるさい!!なぁファルリア、俺の所に来いよ。ソイツは女を強姦したクズだよ。俺の所に来いよ、な?」
女を強姦したってww男を強姦するやつが居るわけないだろww。……何をバカらしいことを考えてるんだ俺は。
「うるさいです!!私はコウガ様に助けられたのです!!わざと助けるのを遅らせたあなたの方がよっぽどクズです!!」
「う、うるさいうるさい!!お前は黙って俺に従えばいいんだよ!!」
「なぁ、マユトよ。今回はお前が悪い。諦めろ。俺もファルを手放したくない」
「……そうか。渡さないなら奪うまでだ!!勇者、横嶋マユトが犯罪者、クロガネコウガに決闘を申し込む!!」
◆◇◆◇◆
「めんどくさい事になった」
俺は20メートルほど離れた所に立つマユトを見据えながら呟く。
負ける訳には行かないが、相手は腐っても勇者。手加減できる相手ではない。
かといって本気でボッコボコにしてもクソ女がこれ幸いと騒いで俺を世界の敵にしかねない。
めんどくさいな。
「じゃあ、初め!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
立会人の冒険者の声でマユトが突っ込んで来る。
「おらぁ!!」
走り込みからの凪ぎ払いを阿弥陀で受ける。すると急に阿弥陀が重くなる。
「んあ!?」
「ふ、俺のジョブスキル『デバフ付与』だ。今お前の刀は100キロ位になってるぞ」
「そうかい」
踏み込んで居合い。剣で受けられたが後ろに吹っ飛ばされていった。
重くするなら持てない位にしないと重さを利用されるぞ。
「く、クソッ、もう一度……!!」
「喰らうかよ」
また凪ぎ払いでデバフを付けようとしてきたのでジャンプで避け、上から頭を踏みつける。
そして起き上がったマユトの顔を掴み、持ち上げて石畳に叩き付けた。
道が陥没したが、多分生きてるだろう。
「俺の勝ちな。じゃあそういうことで」
さっさと立ち去ろうとした俺の肩に、コツンと何かがぶつかった。
見ると女の子が涙目で小石を投げて来ていた。
「マユト様を、苛めないで!!」
そう言って石を投げてくる女の子に触発されたのか、大人達も投石に加わる。
「おらっ!!」
「この犯罪者がっ!!」
「どうせ卑怯な手使ったんだろうがっ!!」
そう言って俺にブンブン石を投げつける。ショックで固まっていた俺の傷が徐々に増えていき、遂に大きめの石を額に受けて膝を付く。
首輪を付けたおっさん達がファルを連れて行こうとする。
「大丈夫、お嬢ちゃんも救って頂ける」
「マユト様が助けて下さる」
そんな事を言いながらファルを引きずって行く。
痛みをこらえて立ち上がり、懐からアーティファクトを取り出す。
【アーティファクト·ピストル】
殺傷能力は無いが、周囲に爆音を轟かせる。運動会のアレの上位互換。
それを空に向かって打つ。
ドオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
凄まじい爆音に周囲の家窓ガラスがビリビリ震える。
さっきまで石を投げつけていた奴らも耳を押さえて踞っている。
その間にファルを抱えてさっさと逃げた。
「と、こんなことがあった訳さ。俺はこの国に嫌気がさした。こんな町にいられるか、俺は帰らせてもらう!!となった訳よ」
「なるほど、しかしなぜクランを?」
「この街出て刑務所行って他の国へ行ってクラン作ったらなんかめんどいから」
「ふむ、なるほど。私に異論は有りません」
「僕も異論は無いよ!!」
「ファル、お前は?どう思う?」
「え、わ、私はコウガ様の奴隷なので、コウガ様の意思に従います」
「じゃあ満場一致ってことで、クランを作りに行くぞー!!」
「「「お~~!!」」」




