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努力を知らない卑怯者  作者: 自宅警備員Lv9999
第一章:王都
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対策会議

 東の森のゴブリン要塞から、ゴブリン軍団が進軍を開始した。


 ざっと聞いたところゴブリン軍団は


 ゴブリン·10000匹


 ホブゴブリン·1000匹


 ゴブリン剣士(ソード)·100匹


 ゴブリン弓兵(アーチャー)·100匹


 ゴブリン騎士(ナイト)·50匹


 ゴブリン魔導士(メイジ)·50匹


 ゴブリン将軍(ジェネラル)·10匹


 ゴブリン(キング)·5匹


 だそうだ。


「ゴブリンキングが5匹!?」


「ジェネラルも10匹!?」


「あの辺りには一週間前まで何もなかったのだぞ!?いつの間にそんな大増殖を……」


「もう駄目だ……おしまいだぁ」


 現在俺は急遽開かれたゴブリン軍団対策会議に出ている。


 ギルマスがどうしても出ろと言ってきた為だ。


 しかし会議の面影などなく、ゴブリン軍団の異常な規模に驚愕し、絶望するだけだった。


 さっさと行った方が良いんじゃないかなーとか思いながら欠伸をしていた。


 いつまで経っても始まらない会議に業を煮やしたギルマスが立ち上がり、一喝。


「静かに!!!!!」


 俺にとっては只の大声だったのだが、騒いでた奴らはヤンキーにメンチ切られたオタクの様に縮こまった。


「今は絶望する時じゃないだろう!!少しでも出来る事を考えるべき時だろうが!!甘ったれてるんじゃないぞ!!」


 ギルマスの一喝により会議室は静まり返る。ギルマスが話し始めた。


「ゴブリン軍団は刻一刻とこちらに迫っている。迅速な判断が求められる」


「し、しかしどうすると言うのだ?こんな異常な規模のゴブリン軍団と戦える戦力などこの街には……」


 街のお偉いさんAが絶望を語る。しかしギルマスは不敵に笑う。


「大丈夫だ。この街にはいるんだよ。ゴブリンキングと一人で渡り合える男が」


「そんな強者はいない!!噂になっている勇者でもない限り……」


「いや、居る。それが彼、クロガネコウガだ!!!」


「「「「はぁ!?」」」」


「はぁ!?」


「何故君まで驚く!?」


「俺ゴブリンキングなんぞ倒した覚えないんだが」


「君のあの大量納品だよ。傭兵ギルドに聞いた所、納品物にゴブリンキングが入っていた」


 あー、あんときか。そう言えばゴブリンが大量にいた所にやけにデカいゴブリンがいたっけな。


 あれゴブリンキングだったんだ。


「彼が……?」


「誰だあれは?」


「し、知りません」


 お偉いさん達は俺を知らないご様子だった。周りが混乱していると、一人の男が立ち上がった。


「クロガネコウガ?それはこの間噂になった、特殊契約を結んだ『鍛冶屋』の少年ではありませんか!!」


 男はやけに『鍛冶屋』を強調して言い、嫌みったらしい笑みを浮かべながら俺に難癖つけ始めた。


「鍛冶屋と言えば皆さんご存知の通り最弱の天職!!それがなぜ我々の希望になるのですかな?マスター、あなたは人を見る目を無くしてしまったようだ」


「……何故だ?理由を聞こう」


「鍛冶屋があんな大量の魔物を殺せるはずがないじゃないですか!!きっと彼は魔物合戦(モンスターファイト)をしたんですよ」


 魔物合戦(モンスターファイト)とは魔物をおびき寄せて別の魔物にけしかけ、戦わせて殺すという、やったら同業者から嫌われる卑怯な戦法のことである。


「彼の不正も見抜けず、あまつさえ強者だと信じて……。失望しましたよ、マスター」


 そして男は俺の顔に自分の顔を近付け


「君も嘘は大概にしておいた方がいい。調子に乗るから実力も無いのに駆り出されることになる」


 と言ってきた。ウザイな。


「彼の実力は本物だ。今日彼は大規模なウォーウルフの群れを討伐している」


「それもおそらく商店で購入した牙を見せたんですよ。鍛冶屋ができることなど無いのだから」


「しかしだな……」


「ちょっと聞いてくれるか」


 ギルマスがなんか言おうとしてたけど遮る。


「俺がどう思われていようがどうでもいい。今はゴブリン軍団をなんとかするのが先だろう」


「何とかとは?何か良い策でもあるんですか?」


「俺が出て殲滅。これで良いだろ」


 俺が言った言葉を聞き、男はしばし呆然としていたが、笑って


「俺が出て殲滅?バカを言わないで下さい。鍛冶屋に何が出来るのですか?ゴブリン軍団の前で鍛冶でもするのですか?」


 何も出来ない無力な存在だと見下してくる。めんどくせぇな。


「ギルマスよぉ、帰っていいか?」


「帰った所で君が出なければ街は滅亡だ。騎士団では太刀打ち出来まい」


「良いよ、この街にそこまで愛着ないし」


 そう言った俺の頭に、宿のおばちゃんとリンちゃん、鍛冶屋のおっさんに魔法屋のおばさん、子爵に子供たちの顔が浮かぶ。


「そこをなんとか……滅亡とまではいかなくても壊滅的な被害を受ける。どうか手を貸してくれ」


「だってなあ、俺に頼るのが嫌そうな人もいるしなぁ。だいたい腕一本無くして結構力落ちてるし」


「報酬の要求はできる限り何でも呑むから、そこをなんとか」


 今なんでもつったな?なんでもっていったよな?


「なんでも、だな?いいだろう、受けてやる」


 何でもの報酬は非常に魅力的だ。やってやろう。


 と、そこで例の男が口を挟んできた。


「そんな卑怯者の手など、借りなくてもいいのですよ」


 お偉いさん達はその言葉に反応する。


「そ、それはどういうことで?」


「ふう、良いですかみなさん。これは機密なんですがね。勇者がいるのですよ、この国には」


 ああ、あいつらか。


「勇者ですと!?」


「噂は本当だったのか!!」


「ええ、王が魔王討伐のため、異界より召喚したのですよ。なんでも伝説の天職『勇者』『賢者』『聖女』が揃っているとか」


「な、なんですとぉーーーー!?」


「伝説の天職が三人とも!?」


「それならば慌てる心配はないですな」


 ただし戦闘初心者です、だろうに。


「まあ、とりあいず俺は行く。じゃあな」


「ふん、必要ないというのに」


 そんな男の蔑みを背中に受けながら、俺は会議室を後にした。



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