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努力を知らない卑怯者  作者: 自宅警備員Lv9999
短章 やっちまった人達
112/164

やっちまった正義

長なった。


いや、これぐらいが普通?



 アロアにやって来て、守り神のような存在だった道化師の石像を破壊した勇者。


 『僕達特別』派閥の勇者が流したデマを信じている住民からは支持されたものの、スタンピードでの活躍を知っている者達や、実際に命を助けられた冒険者達、特に領主のデイビッド・アロアの反感を買ってしまい、勇者だからと言って横暴に振舞えなくなった。(正義はそんなことはしなかったが、ハーレムメンバーはやっていた)


 一部であっても勇者というブランドが通用しないのはマズいと考えたアリは、勇者パーティーにある提案をした。


「この付近に、ドラゴンの上位種であるエルダードラゴンが住み着いてしまい、犠牲者も出ているようです。せっかくここに来たのですから、悪しき魔獣を討伐しませんか?」


 ダンジョンでの修行によって自信満々の正義は、2つ返事でOKした。


「ああ!!それこそ勇者としての努めだ!!そうだろうみんな?」


「ええ!!その通りよ!!」


 と聖魔道士の秋風舞。


「正義が間違う訳無いもんね〜!」


 と神弓士の草原緑。


「あなたは突き進めばいいわ。私は付いていくから!!」


 と侍の清水渚。


 3人は討伐についてなど考えておらず、只々正義を肯定して気に入られようとしているだけだった。


――バン!!――


 そこに、扉を勢いよく開けて元担任の御坂先生が飛び込んで来た。


「駄目です正義君!!ドラゴンの討伐には行ってはいけません!!」


「せ、先生!?何故ここに?」


「先生達は……」


 御坂先生は生産職だったこともあり、城で武器生産を手伝っていた。しかし、ダンジョンでの訓練で危機に瀕し、生還したものの戦う勇気が出なくなった者達を励ます&サポートする為にアロアにやって来ていた。


 そして正義がやってきたと聞いて挨拶に来たところ、先程の会話が聞こえたという話だった。


「ちょっと先生、せっかくのいいムードを台無しにしないでよ!!」


「寒いですよ〜」


「先生、指揮を下げないで貰えますか?」


 容赦のない口撃にうぅ……と縮こまる先生。


 そこに、先生に付いて来たのであろうクラスメイト達が廊下からドア越しにひょっこりと顔を出した。


 冒険者のような格好の少年、天職『剣士』の剣山晶(ケンザンアキラ)が先生を擁護する。


「落ち着けよ。先生はお前らのことを思って言ってるんだぜ?」


「はぁ?お前らとか何様!?弱っちいくせに生意気いうなし!!」


 ハーレムメンバーで一番口が悪く、性格がキツい秋風が罵倒する。


「なっ、そんな言わなくてもいいだろ!!」


「まぁまぁ二人とも、落ち着いて。先生、ドラゴンの討伐に反対とはどういうことですか?」


「アタシが説明するよ」


 同じくクラスメイトの天職『回復術士(ヒーラー)』の少女、鈴音響子(リンネキョウコ)が話し始める。


「アタシ達は知っての通り、ダンジョンで実践訓練を繰り返してたんだ。その間、冒険者ギルドの依頼をよく受けたんだけど、その内に冒険者さん達と仲良くなってね。色々話するようになったんだ。それで、あるSランククランがそのドラゴンの討伐に行って、帰って来なかったっていう話を聞いたんだよ」


 それを聞いた舞は眉を吊り上げた。


「はぁ?Sランク程度のザコが負けたから正義も負けるって?」


「いや、そういわけじゃ……」


「もういいわ。正義、さっさと討伐して帰りましょ!!」


「そうですよ〜!」


「そうね」


「先生、ご忠告感謝します。でも、その程度でやられる僕ではありませんよ」


「正義君……」


「行こうみんな」


 正義は先生の忠告を無視し、部屋を出ていこうとする。


「正義君!!せめてもっと沢山の人を連れて行ってください!!5人では勝てるはずがありません!!」


 正義はそれもそうだと思いかけるが、勇者の手柄にしたいアリが瞬時に否定した。


「弱者を何人連れていったところで、死人が増えるだけ……。それでは勇者の行いとは言えません……!」


 結局アドバイスは無視し、たった5人で討伐に行ってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ここか……」


 街からさほど遠くない場所にある、おどろおどろしい雰囲気を放つ洞窟に辿り着いた勇者一行。


「いかにも、って感じね」


「うう、恐ろしいです〜……」


 怯えているふりをしながらちゃっかり正義にしがみつく緑。


「……ちょっと緑、正義に張り付くんじゃないわよ。迷惑でしょ」


 眉間にシワを寄せた渚が咎めるが


「え〜、そんなことないですよね〜」


 そんなものどこ吹く風と受け流し、さらに密着し、胸を押し当てる。


「い、いやぁ……」


 童貞である正義君は威風はどこへやら、おどおどして硬直していた。


「ちょっと!!やめなさいって言ってるでしょ!!」


 少し強く背中を押し、無理やり正義から引き離した。


「ちょっ、何するんですかぁ〜!」


「あんたが緊張感もなく引っ着いてるからでしょ!!」


「な、なにをぉ〜……」


「お二方!!」


 軽い修羅場と化していた二人の口論をアリアが遮る。


「今から強力な魔物を討伐するんですよ?しっかりしてください!?」


「そ、そうだ二人とも。緊張感をもたないとな」


「「はい……」」


 二人はしょんぼりとうなだれた。



「じゃあ、作戦を確認するよ?」


 洞窟から少し離れた場所で円形に座る。


「まず、僕が洞窟に入ってドラゴンを見つけ、気を逸らす」


 全員が頷いたのを確認し、続ける。


「そして僕が合図したら舞が全力の魔法を当ててくれ。顔を狙ってね」


 舞が頷く。


「魔法が当たったら、緑が狙撃して目を潰す」


 緑が頷く。


「それから僕と渚で接近戦で押し切って止めを刺す。この時アリアは予知で、舞は結界で援護してくれ」


 全員を頷いた。


「じゃあ、行くぞ!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(スゥーハァー)


 突っ込む役割の正義は深呼吸で息を整え、洞窟に飛び込む。


 暗闇に魔法の光源を打ち上げ、暗い洞窟内を照らし出す。


 天井で輝く魔法に照らし出されたものを見て、正義は息を飲んだ。


 照らし出されたのはかなり大きな洞窟内を狭く感じさせる程の巨大なドラゴン。ドラゴンは全身を赤色の鱗で覆われており、背中には巨大な翼が折り畳まれていた。


 しかし、正義を驚かせたのはドラゴンの存在だけでは無かった。


「う、ぐぅ……」


「な、なんだ……?」


「助けか……?」


 ドラゴンの前足付近に横たわり、広範囲を血の池にしている3人の冒険者であった。


 さらに


『むぅ?最近客人が多いのぉ……』


 その巨大なドラゴンが言葉を発したことだった。




 

「なっ、あれは……!?」


「ど、どうしたのよ!?」


 洞窟の入口から様子を伺っていたアリアの顔が真っ青になる。


「あれは……エルダードラゴンではありません……!」


「えぇ!?」


「エルダードラゴンよりさらに上位……知能を持つ龍『ドレッドドラゴン』です!」


「そ、それってマズいんじゃ……」


「……いえ、今の皆さんでしたらぎりぎり倒しきれるはずです」


「そ、そうですか〜?」


 実際それくらいの実力はある。


 アリアは強大な魔物を討伐したことに出来ると内心喜んでいた。




「お前が、アロアの付近に住み着いたドラゴンか?」


 冷静に語りかける正義。


『住み着いたぁ?違うわ。我が暫し眠っておったら、いつの間にか街が出来とったのじゃ。我の方が先にここに居ったのよ』


「その人達はなんだ?」


『つい数日前、いきなり攻撃してきた奴らじゃよ。安眠を妨害されたんでちぃっと懲らしめたら、これがいい声で鳴くんじゃよ』


 そう言うと、ニタァッと不気味に、ドラゴンの顔でも解るほど嗜虐的な笑みを浮かべ、冒険者の一人に鋭い爪を冒険者の爪先へゆっくりと食い込ませる。


「いっ、ギャァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 激痛によって瀕死の体でありながら手足を振り回し、悶絶する冒険者。


『本当はもっと居ったんじゃが、ちとハードに扱い過ぎてな。人族は弱っちくて困る』


 悪びれもせず、自分が快楽目的で殺したと明かした。


 正義に生きる正義の心で、怒りの炎が燃え上がった。


「そうか……貴様は楽しみの為に人を殺したんだな?」


『まぁそうじゃな』


「許さない!!」


 バッと正義が手を振り上げ、下ろす。


「喰らいなさい、『ホーリージャベリン』!!」


 洞窟入口で待機していた舞が全力の聖魔法を放つ。


 巨大な魔法陣が展開され、光の柱が一直線にドラゴンに向けて伸びた。


『グワァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 聖なる光によって全身を焼かれたドレッドドラゴン。

 

「はい〜っ」


 間髪入れずに緑が目を狙って矢を射る。


『フン!!』


 しかし、当たる直前に瞼を閉じられ、弾かれてしまった。


「し、失敗ですぅ〜」


『クックック、あの程度の魔法では我にとっては気持ちいいだけじゃぞ』


 怪物の顔を恍惚に染めて語るドラゴン。


「問題ない!!このまま行くぞっ!!」


「分かったわ!!」


 剣を構えた正義と、特別に作成された日本刀を構えた渚がドラゴンに切りかかった。


「せい!!」


「はっ!!」


 鱗のない場所を狙って剣を突き刺す。


『クウッ……このっ』


 表情を苦痛に歪め……なぜか喜びを感じられる顔痛がるドラゴンで首を持ち上げ、炎のブレスを吐いた。


 しかし、舞の結界によって防がれる。


『クソッ』


「アリア!!あの人達に回復魔法を!!」


「はい!!」


 横たわる冒険者に駆け寄り、瀕死だった彼らに回復魔法をかけた。


 なんとか動けるレベルまで回復させ、戦闘に巻き込まれない場所まで移動する。


 しかし、3人の内二人は長らく続いた拷問のショックで気絶してしまった。


「君らは、どれぐらいの人数できたんだ?多くは見えないんだが…」


 気絶しなかった一人が尋ねる。


「5人ですが?」


 平然とと答えたアリアに対し、


「なんだと……!?」


 驚愕する冒険者。


「やめろ!!今すぐ逃げるんだ!!っつ!!、ぐぅぅ……」


「えぇ?なぜ逃げる必要が……勝てますよ!!」


「バカ野郎!!勝てる勝てないじゃなく……ぐぅぅ……!!」


 痛みに耐えきれなかったのか、喋らなくなった。


(あぁ?この私をバカ呼ばわりとはいい度胸ですねぇ……)


「ど、どうかしたのかーー!?」


「いいえ!!なんでもありませーーん!!」



 

 正義達は順調に戦っていった。


 暴れまわる巨体をかわし、避けられない攻撃やブレスは結界で防ぐ。


 そして隙をついて攻撃を与えジワジワと傷を付け、動きを鈍らせていく。


 数回吹き飛ばされたりしたが、高度な回復魔法ですぐに復帰した。


 15分ほど戦いは続き、正義達にも疲れが見えて来たが、ドラゴンも全身から血が流れ、明らかに弱っていた。


「おっ、りゃぁああああああああ!!」


『グハァアアアアア!!!??』


 正義の剣技によって胸を大きく切り裂かれた。


『ハァ、ハァ、ハァ……』


 明らかに弱り、荒く呼吸し始める。


 あと一息。全員がそう思った時。


『う、うーむ、これはちょっと厳しそうじゃのう』


 ドラゴンはそう言い、いきなり入口に向けて突進し始めた。


 殆どの戦闘経験がダンジョンでしかない正義は、ドラゴンの行動の意味が分からなかった。


 ダンジョンの防衛システムである魔物は死ぬまで侵入者に攻撃を仕掛けてくる。その為、今回ドラゴンがとった行動はこの場にいる全員の思考を一瞬停止させた。


 そして気付く。ドラゴンは『逃げようと』しているのだと。


 慌てて追いかけようと走るが時既に遅し。


 洞窟の外に飛び出したドレッドドラゴンは、攻撃されないよう守っていた翼を広げて空へと飛び立った。


「クソッ……」


 取り逃がしてしまったドラゴンがゆっくりと飛び去っていく姿を見つめるしかできなかった。


 悔しさに震える正義を、ハーレムメンバーが取り囲み、慰めと励ましの言葉をかける。


「どんまいだよ正義!!仕方ないって!」


「逃げ出すなんて思いもしなかったです〜」


「一応ここから追い払ったんだし、結果オーライよ!」


「みんな……ありがとう……」


 目の縁に涙を浮かべながら、自分を立ち直らせてくれた仲間に感謝する。


「そうだな!あそこまで弱っていれば悪さは出来ないだろう!」


 なんとか自分が侵した失態を正当化し、立ち直った。


 まさに不屈と言っていい立ち直りの速さである。


「じゃ、帰ろうか」


 ひと仕事終えたような雰囲気で街への帰路に着こうとしていたその時。


「待ちやがれ」


 後ろから声がした。


 振り返ると、意思が戻った冒険者3人が互いに肩を貸し合って洞窟から出て来ていた。


「なんですか?お礼でしたら結構で……」


「てめぇとんでもねぇことやってくれたな」


 激昂した怒りではなく、重大な失態に対する静かな怒りが込められた言葉だった。


「ちょ……ちょっと!!助けて貰ったくせになによその言い草は!!」


「こんなことになるならあのまま死んだ方がマシだった!!」


 とんでもない叫びだったが、他二人も同意のようだった。


「一体どういうことですか?ドラゴンは逃げて行きました。弱っているので脅威になるとは……」


「お前はっ……ああ、駄目だ!!いいからさっさと街に戻れ!!」


 正義達が訳も分からず呆然としている間にも、自分達の装備を洞窟内から持ってきて、ポーションで回復して街に戻り初めてしまった。


「ちょっと待って下さいよ!!」


 正義は説明を求めたが、森を野生動物の如く高速で移動する彼らは返事せずにひたすら街へと走って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『クソッ、あの小僧め。まさかあんなに強いとは……。しかし、なかなか気持ち良かったのぉ……』


 逃げたドレッドドラゴンは、低空飛行で大森林の上空飛んでいた。


『さて、さっさと回復せんとな……む?』


 ふと下を見ると、森の地面が蠢いていた。


『?……!!』


 目を凝らして良く見ると、地面が蠢いていたのではなかった。


 おびただしい数のゴブリンやその上位種達、さらにはオーク、コボルド、サイクロプス、リノセウス等の大森林で発生する魔物が行進していたのだ。


 そして、その大群が行進していく先には……


『……なんじゃ、あれは……』


 今まで感じたこともないような膨大な量の魔力が一点に集中しているのを感じた。


 しかも、それは強大な魔物や強者の気配ではない。魔力だけが単品で置いてあるような妙な感覚であった。


『これは行くしかないじゃろ』


 ドラゴンは力強く羽ばたき、魔力に向かって、街に向かって飛び始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 これから起こる大惨事の、主な原因は正義達の慢心にある。


 アリアは手柄を独り占めするために少人数でドラゴンに挑んだ。


 そして、そのドラゴンを逃した。


 最も大きい原因は、石像を破壊したことだろう。


 破壊さえしなければ、もっとマシだった。




『これは……』


 魔力の気配があった場所に降り立ったドラゴンの足元には、石像だった瓦礫が山になっていた。


(この瓦礫から凄まじい魔力を感じることは間違いない……が)


 どこからどう見ても只の石片。石ころである。


「いたぞ!!」


 森から飛び出してきた正義達がドラゴンのめがけて走ってくる。


『……ええい、ままよ!!』


 思い切ったドラゴンはガブッと瓦礫を口に収め、そのまま


『ンックン』


 飲み込んだ。


「ん?」


「今、何か食べた?」


「あれは、僕が破壊した像の破片……」


 瞬間


『ンッ……クァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』


 凄まじい激痛が全身を包み込み、余すところなくズクンズクンと痛みを感じている。


 同時に、全身がメキメキと変化し始めた。


 全身の鱗は真っ黒になり、強度を増した。爪は更に鋭く尖り、翼は巨大になった。


 前足が縮み、四つん這いだったのが後ろ足で立つ形になった。


 その姿はドラゴンと言うより、もはや竜。いや龍であった。


「なっ、なにっ!?」


 急に変化した為、驚愕して足を止める。


 しばらくうずくまっていたドラゴン?がゆっくりと正義達の方を向いた。


『逃げたりしてすまんかったなぁ。小僧』


 噛み合わされた鋭い牙の間から、真っ赤な炎をちらつかせながら言う。


『再戦といこうぞ?』



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