表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!  作者: コイル@オタク同僚発売中
オタク同僚と偽装結婚した結果、娘が生まれて毎日がメッチャ楽しいんだけど!(コミカライズ発売記念・番外編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/63

雨の日のお散歩は楽しい

「今日の雨もすごいですね」

「午後にはやむみたいですけど……」


 俺は外を見ながら言った。

 前線の影響でここ二日ほど雨が降り続いている。

 咲月さんは食器を拭くために新しい布巾を棚から出して、


「隆太さんが導入してくれたガス乾燥機がなかったら、ヤバかったですよ。いやー、あれ本当に優秀ですね」

「あれは買って良かったですね」


 我が家は心海が保育園に入ったタイミングでガス乾燥機を導入した。

 保育園に持って行く服の量も多く、洗濯物が増えて電気の乾燥機では対応できなくなった。

 毎週末持ち帰るお昼寝シーツがくせ者で、電気ではまったく乾かず、この辺りはコインランドリーもない。

 今後のことを考えてガス乾燥機を導入したのだが、これが正解だった。

 夜帰って来てから回しても、朝にはふかふかに乾いている。

 心海は朝一番でその中にあるふかふかに温まった服を着るのが好きで、畳むのも積極的に手伝ってくれる。

 咲月さんと一緒に朝食の茶碗を片付けていると、心海がとことこやってきた。

 

「パパーー、今日の雨すっごいから、たきに行こう!」

「ああ、確かに。今日はすっごい滝になってるかもしれないな」

「すっごいのになってるよ、たぶん、ジャバアアアアほにゃあああってなるよ!」


 心海は踊りながら目を輝かせた。

 たきというのは滝だ。しかし当然この辺りに滝などない。

 でも少し離れた道の所に、山の中の水を効率的に流すため……? もしくは雨水を一カ所にあつめて川に流すため……? にパイプのようなものが設置してある。

 それがなぜかわりと高台に設置してあり大雨がふるとそこから滝のように水が落ちてくるのだ。

 一度通り掛かった時から心海はあれが大好きで、毎回傘を持って滝の下に立ち楽しんでいる。

 傘にドバババと水が当たるのが良いようだ。

 個人的にはその心海を動画で撮影するのが楽しいので、付き合うのは全くイヤではない。

 心海は咲月さんのほうに行き、


「ママ、大きなの、かってくれた?」

「買っといたよ」

「お絵かきしよう、お絵かきしてかわいくして、たきするの!」

「じゃあ描こうか! シールも100均で買ったよ~~!」

「えっ、みせてみせて、ママ見せて!」

「待ってて~~!」


 心海と咲月さんは部屋の奥からビニール傘とシール、そして油性ペンを取りだした。

 ビニール傘を開くとかなり大きい。それを見て心海は目を輝かせて油性ペンを持った。

 傘は子ども用に可愛いものを購入したのだが、心海はなぜかそれを使わず、俺が仕事用に使っているビニール傘を使いたがった。

 咲月さんは「すんごくわかります。私も大好きだったんです、ビニール傘。ここに雨が当たるの見てると楽しいんですよね」と微笑んだ。

 そして自分が子どもの頃したいと言っても許されなかったから……とビニール傘に絵を描いたのだ。

 それを心海がものすごく気に入って「もっと大きなこの傘がいいの、それにたくさんお絵かきして、たきしたいの!」と言っていた。

 だから咲月さんは最大サイズのものをコンビニで買ってストックしていたのだ。

 咲月さんが描いた絵を見て心海が目を輝かせる。


「ママ、キラちゃん描くの上手!」

「このキラちゃんは……雨に濡れてしまっているのだーー」

「わあああ、ここにたき当てたら、キラちゃんがヒャーーってなるのね!」


 咲月さんが描いた絵は今子ども用番組で一番人気の犬のキャラクターだ。

 そのキラちゃんが身体をブルブルと震わせている絵を描いている。

 たしかにここに雨をあてたら、そういう風に見えるだろう。

 咲月さんはイベントにこそ出ていないが、たまに絵を描いているようで、その筆力は衰えていない。

 ふたりは楽しそうにただのビニール傘をオリジナル傘に仕上げていく。

 咲月さんは昔お母さんに「子ども用に可愛い傘を買ってあげたんだから、それを使いなさい」と言われたのがイヤだったんですよね~と言っていた。

 だから今、昔自分がしたかったことを心海としているのだろう。

 20分くらいかけてふたりは傘に絵を描いてシールでデコレーションして仕上げた。


「じゃじゃーん、できた! どう? パパ、かわいい?」

「うん、すごく素敵な傘だね。じゃあこれをもって滝に行こうか。ついでに駅前でガチャガチャしてくる?」

「!! ガチャガチャする!!」


 心海は室内で傘をさしたままジャンプして喜んだ。大きすぎて若干危ないから早く外に出よう。

 咲月さんはササッと玄関のほうにいき、心海の長靴とカッパの上下と帽子を取りだした。

 心海はそれを身について外に飛び出した。俺も防水の上着を羽織り傘を掴んだ。


「じゃあちょっと散歩行ってくるね。ついでにガチャガチャ回して、お昼にうどんでも食べてドーナツでも買ってくる。15時くらいかな」

「おやつにいいですね、気をつけて!」


 咲月さんに見送られて俺と心海は歩き出した。

 雨は本当にすごくて傘を激しく叩くけど……心海は完全装備だし長靴だし、なにより前を歩いている傘にたくさん絵が描いてあって可愛い。

 傘が大きすぎて心海自体が傘に包まれるようになっているのが面白い。

 一度帽子なしでこの遊びをしたら、傘の骨組みの部分に髪の毛が絡んでしまって、痛い思いをさせた。

 それから大きな傘で滝遊びをするときは帽子が必須だ。

 心海は遠くに滝ポイントを見つけると「わああああ!」と歓声をあげて走って行った。

 ポイントからは今まで見た中でも一番の水量が筒から出ていた。

 もうなんというか、普通に壊れた蛇口レベルだ。

 それが地面に当たって大きなしぶきをあげている。


「これはすごい」

「パパ、すっごい、すっごいたきだよ」


 そういって心海は傘を持って滝の下に入り込んだ。

 同時にドバババと水がすべて傘にあたって、周りに飛び散り始めた。

 心海は大興奮して叫ぶ、


「ほおおおお、すごいいい、たのしいいい!」

「あははは! ちょっと水が跳ねすぎて何も見えないな」

「すごいよ、パパ、すっごい!! 今まででいちばんすごい!!」


 心海は傘でそれを受け止めて、傘の中から水を見ている。

 俺は少し離れた場所でスマホを動画モードにして心海を撮影した。

 撮影しているが、水量がすごすぎて正直何も見えないどころか、見ているこっちのほうが被害甚大だ。

 むしろ中心地にいる心海は傘に守られているのであまり濡れず……と言いたい所だが、傘にかなり激しく雨が当たっていて、ちょっとすごい。

 傘が折れないのか一瞬心配になったが、強化傘だと書いてあった気がするから大丈夫か?

 心海は上だけではなく下も防水パンツを履いていて、それをINするように長靴を履いているので、むしろ全身濡れても問題ない。

 いやこれから駅前にいくなら……と思っているが、心海はまるでそんなこと関係なく楽しそうに傘に雨を当ててくるくる回った。

 人間スクリューのようで……ちょっともう少し離れないとスマホのカメラが濡れて何も撮れない。

 心海は30分以上全力で滝遊びをして、やっとその場を離れた。


「すっごく、すっごく楽しかったーー! キラちゃんがうわあああってなってたよ。パパ動画とれた? みせて?」


 動画を見せると心海はケラケラ笑って飛び跳ねた。

 そしてゆっくりと坂道を下って駅前に行くことにした。

 ここは山の上にあるので、水が坂道をものすごい勢いで下っていく。

 道自体がもう川のようになるので、心海は毎回激流ポイントで立ち止まり、足でそれをせき止めて……一気に流す遊びをしながら歩いた。

 普段「雨がふるとこんなに歩きにくいのか」と思っていた坂道だけど、心海と一緒ならそれも遊びになる。

 心海はお気に入りの激流ポイントがあるらしく、毎回そこに長靴を入れてピチャピチャさせて楽しんだ。

 駅前のショッピングセンターに到着すると、俺はまずお着替えルームがあるトイレに向かった。

 このショッピングセンターは男性用のトイレにも子どもと入れるブースがあって助かっている。

 そこで雨具を脱がせて、着ていても濡れてしまうズボンも履き替えさせた。

 雨の日はわりと恒例になっている遊びなので、毎回流れが出来ている。

 まさか雨の日がこんな遊びの日になるなんて子どもが生まれるまで知らなかった。

 心海は俺の腕をクイクイと引っ張って、


「さあパパ、ガチャガチャしよう?!」


 とジャンプした。このショッピングセンターはガチャガチャの森という200個以上のガチャガチャが置いてあるブースがあって、心海はここで一回だけガチャを回すのをとても楽しみにしている。

 一回だけと決めているので、もう毎回ブースをくまなく回って、どれをするか吟味している。

 咲月さんはここが出来た時に推しを見つけて当たり前のように10回ほど回しそうになったが、そんなことしたら「心海も!」となると気がついて一回だけ回してきたと聞いた。

 そこから我が家は、ここに来たら一回できる! というルールが決まった。 

 咲月さんは後日仕事終わりにカラになるまで回したらしく、何も変わっていない。

 実は俺もデザロズが主題歌を歌ったアニメのガチャがあったので、仕事帰りにカラになるまで回した。

 心海には残念ながら秘密だ。


「んん~~~心海、やっぱりコナンくんにする!!」

「最近コナンくん好きだね。これでいいの?」

「うん、心海さいきん、すごく好きだから!」


 そう言って心海は名探偵コナンのキーホルダーが出てくるガチャを選んだ。

 そして嬉しそうに200円入れてガチャを回し、無事にコナンくんをゲットして飛び跳ねて喜んだ。

 コナンは幼稚園児の間でも非常に人気で、咲月さんも「面白いですよ」と一緒に配信を見始めた。

 俺もたまに一緒に見るけど、この街はあまりに殺人事件が起きすぎだとおもうが、それを逆手にとった作品まであって驚いた。

 心海はコナンくんのキーホルダーを手に持って俺の方を見て、


「心海ね、コナンくんがすっごく好きだから、サッカーしたいなっておもってるの」

「?!?! コナンくんが好きで、サッカーを?!」

「うん、心海もあんな風にすっごいゴールするの!」


 そう言って心海は足を振り上げた。

 これは……咲月さんに報告したらものすごく楽しく話を聞くだろうな。

 というか、あの殺人ばかり起きているアニメを見てサッカーをしたくなるものなのか?

 俺はほとんど見ていないので、内容をあまり知らない。

 この辺りは咲月さんのほうが強いので、


「家に帰ってママに相談してみようか」

「幼稚園にサッカークラブがあるんだよ。心海そこに入るー!」

「そうなのか」


 どうやらわりと本気でやりたいようだ。心海がサッカー?!

 インドアな人生をすごしてきた俺には未知の世界だ。

 幼稚園の話を聞きながらフードコートでお昼を食べて、ドーナツを買った。

 そして外に出るともう雨はやんでいて、水たまりに入りながら坂を上がった。

 さあドーナツを食べながらコナンの話をしよう、ものすごく楽しみだ。





 



 本日『オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!①』

 コミカライズ一巻が発売されました。特典もたくさんあるのでぜひお店のほうもチェックしてみてください! 私もSSを書きましたし、雪子先生のイラストもあります。なにより話数と話数の間に挟まっている小さな絵がめっちゃ可愛いので、ぜひ見て欲しいです! よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ