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【書籍化】オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!  作者: コイル@オタク同僚発売中
オタク同僚と偽装結婚した結果、娘が生まれて毎日がメッチャ楽しいんだけど!(コミカライズ発売記念・番外編)
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オタク同僚と偽装結婚した結果、娘が生まれて毎日がメッチャ楽しいんだけど!

2022年12月28日にコミカライズ一巻が発売されるので、番外編を更新します。

三巻の完全な続きです。

まだお読みで無い方は、ぜひお手に取って頂けると嬉しいです。

三巻は特に書き下ろし盛りだくさんの完結編となっています。

「うーん、これはスカートが短すぎるかな」

「ママかわいいよ、とってもすてき」


 心海は、目をキラキラさせて両手をぱちぱちと合わせた。

 「とってもすてき」なんて言われると嬉しくて、久しぶりに着たワンピース姿でくるりと回った。

 心海が再び、ぱちぱちと手を叩く。

 まだいける?! ふわりと広がって膝に落ち着いたスカートを見て冷静になる。

 ……いや、ごめんなさい、やっぱりキツいです。

 『ママ』という感じがしないとか、買ったのは二十代前半だったとか、入園式に合ってるかとかいう前に……ウエストがメチャクチャキツい!

 息を止めて身体全体を縦に伸ばしていれば大丈夫だけど、気を抜くとお腹辺りに変な皺が入る。

 私は心海のほうを見て、

  

「ありがとう心海~~! でもね、ママにはちょっと……キツいかな。会社に着てるこれでいいかなあ」


 私は横にかけておいた会社用のパンツスーツを手に持った。 

 心海を産んで四年、最初の一年は「産後だから……」と何もせず、二年目は「復帰して忙しいから自動的に痩せる」と何もせず、三年目は「少し落ち着いたからビールに復帰」そして四年目……服が合わない!!

 仕事用にパンツスーツを新調したんだけど、体形にばっちり合っていて気に入っている。

 これで良いのでは……とスーツを見ていたら、下にグイッとスーツが引っ張られて床に落ちた。

 下を見るとわかりやすく腰に手を置いて私を睨んでいる心海がいた。


「このおようふくは、かわいくない!」

「えー……でも主役は心海だし、ママは会社の服でいいよお……」


 本音はどうせ新調しても次に着る機会が無い……だ。

 心海は私の服がかけてあるハンガーラックからベージュのワンピースを引っ張り出してきた。

 これはワラビちゃんの息子、大晟たいせいくん、一歳の誕生日パーティーの時に着たものだ。

 この時が一番太っていて、体形をカバーできるストンとしたワンピースを隆太さんが選んでくれた。

 胸元にキラキラと輝く刺繍が入っていてキレイだけど、これぞまさに「つぎに着る機会が無い服」の代表格だ。

 入園式のために何か買ってもこれと同じことになる。

 心海はそれを持って私にグイと押しつけた。


「これにしなさい!」

「これキラキラしすぎて派手じゃないかなあー」

「ママはもっとかわいい服をきたほうがいいの、かわいいのたくさんあるのに、着てないの! よし、ママ……おひめさまやってみようか」


 『やってみようか』に思わず床に突っ伏して笑ってしまう。

 よし、○○をやってみようか? は隆太さんの口癖で、何か心海にチャレンジさせるときにいつも言う言葉だ。

 苦手なにんじんを一口食べるときに『やってみようか』という。

 だから何かさせたいときに心海はそれをまねてそう言う。

 私は心海の横に座り、


「ママは心海のおひめさまが見たいなあ」

「そう? ちょっとまっててねえ~~ちょっとまっててねえ~~」


 そう言って心海は一番奥の部屋にいそいそと向かった。

 ここは最初は私のオタク部屋だった所だ。

 デスクにベッドに本棚……まさに神スペースだった。

 でも結婚して子どもが生まれ、二階で三人で眠るようになり、ここは完全なオタク部屋になった。

 今はパソコンと電子ピアノ、天井まである本棚……神スペース復活!

 ……なんだけど、いつの間にか心海のスペースも作られている。

 どうやら「物をたくさん置いて良い場所」と認識しているようだ。

 まあそんなに間違ってないかな?

 心海のスペースには、壊れたので捨てようと思っていた高さ調節ができないハンガーラックが置かれている。

 隆太さんが昔から使っていたものなんだけど、真ん中の高さを調整するパーツが壊れてしまい、自動的に一番下までおりてしまう。

 もうこれは捨てようと粗大ゴミのシールを貼って廊下に置いておいたら、それを心海がいそいそと持ち込み、自分用のラックにしてしまった。

 使うの?! よく考えたらサイズ的に丁度いいのか~。

 捨てないなら粗大ゴミのシールを剥がして他の物に……と思ったら、シールの盗難防止のためなのか、一度はったら剥がれないのね。

 微妙にもったいない500円のシールと共に壊れたハンガーラックは心海のコスプレ服をかける場所になっている。

 その横には私のコートをかけるハンガーラックも置いてあるのがなんだか笑えてしまう。

 ママのマネをしたがるとは聞いていたけど、ここまでとは。 

 心海はそこからアニメ映画のお姫様のドレスを取って、今着ている服の上から着た。


「ママ、うしろチーして?」

「はいはい」


 私は後ろに回ってファスナーを上げた。

 心海はすぐに私の方を見て、


「かわいくしますからね、ちょっとまっててくださいね」


 と心海はドレスをひらひらさせた。

 何度やってもこの流れは可愛い、飽きない、待ちます!

 このドレスは去年公開されたアニメ映画のお姫様が着ているものだ。

 すべてを焼き尽くしてしまう力を持つお姫様で、火のように真っ赤で真っ白なフリルが可愛い!

 心海はそのアニメ映画をとても気に入って、隆太さんと三回も見に行った。

 最初の一回は私も見に行ったけど、さすがアニメ映画で有名な会社……といった感じの出来で「何年経ってもこの会社がつくるアニメ映画は変わらないなあ、すごいクオリティーだあ~。今は3Dなんだなあ~~」という感想しかない。

 子どもの頃は結構見ていた気がするけど、ここ数年は全然見ていなかった。

 久しぶりに見たらどの作品も女の子がやたら強い気がするんだけど……これは時代かな?

 この作品もまさにそんな感じで、自分の能力ゆえに閉じ込められていたお姫様が覚醒していく話だ。

 王子様が氷体質の人で、触れたら溶けてたんだけど、そこはなんだか大丈夫なのその設定?! 王子さま溶けるって?! と思ったけど、王子様の形の氷を作る商品がアマゾンで売っていて、それを心海にねだられたから、きっと正解なのだ。王子さまは溶ける時代!

 ぼんやりしていると深紅のドレスを着て、オモチャのネックレスをたくさん付けた心海が来て、

 

「おまたせしました、炎の女王、スカーレットですわ」

「わあーー! 可愛い、テレンテンテンテン~~」

「ほほほお~~~~」


 スカーレットが登場する時に必ず鳴る音楽があって、そのイントロを私が歌うと心海が歌を歌い出す。

 ここまでがセットの流れだ。正直50回以上やっていて、最初こそ新鮮だったけど、飽きたか飽きてないかと言われたら飽きてるけど、最近は歌に慣れすぎた心海がオリジナル歌詞を入れてきて、それがちょっと楽しい。


「ママも~~~おひめさまに~~なりなさい~~~」


 そうきたか。

 ここは素直に、


「イヤです」

「もうママーーーー、だめなのーーー! おひめさまなのーー!」

「心海がお姫様なのーー!」


 プンプン怒りながらジャンプする心海が可愛くて仕方が無くて抱っこして転がっていたら、玄関の鍵が開く音がして隆太さんが帰ってきた。

 今日は土曜日なんだけど出張に行っていたのだ。最近本当に忙しいけど、心海の体調不良とかで急遽休むことも多いので、行けるタイミングの出張はむしろ引き受けているらしい。

 心海はスカーレットのまま玄関に向かって、


「パパ、おかえりなさい!」

「スカーレット、ただいま。今日も美しいですね、触れても良いですか?」

「『わたしにふれると溶けてしまいますわ、それでもよろしいですか』」


 これは王子さまがスカーレットに言った有名な台詞で、これをするのもお約束だ。

 隆太さんはにっこり微笑んで心海を抱っこした。


「心海ただいま。咲月さんも、ただいま」

「お帰りなさい! 一緒に食べようと思って夕ご飯まだ食べてないの。新幹線で何か食べました?」

「一緒に食べたくて何も食べてない。お腹すきました」


 心海は隆太さんの膝の上から飛び降りて、


「心海、スカーレットのままご飯食べる!」

「パパもスーツから着替えるから、心海と一緒に着替えたいな。スーツ、ブラシでヨシヨシする?」

「ヨシヨシする!」


 そう言ってふたりで二階に消えていった。

 相変わらず心海との接し方が優しくて嬉しくなってしまう。

 私だと「もう汚れるから早く脱いで!」と言ってしまうけど、隆太さんはいつも「じゃあ一緒にしようか」と心海に話しかける。

 だから心海は隆太さんのことが大好きで、何かしてもすぐに隆太さんの所に見せに行く。

 朝から出張で疲れてるのに、本当にすごいなあ。

 私は作っておいた手羽先と大根の煮物を温めて、魚をオーブンに入れた。

 自動モードでON!

 料理もかなり上手くなった……というか、自動で魚が焼けるオーブンを隆太さんが買ってくれたので、毎回ここに何かをブチこんでいる。

 その他は本を読んでそのまま作ったりするようになった。

 楽しいとは微塵も思わないけど、普通に出来る。

 マニュアル通りならなんとかなる!

 味噌汁を温めていると隆太さんが心海を抱っこした状態で下りてきた。


「入園式の服を選んでたんですか?」

「そうなんです。大昔に着たフォーマルなスカートで良いかなと思って着てみたら……すごくキツくて、無理!」

「買ったらどうですか? フォーマルならあっても良いんじゃ無いかな?」

「もう結婚式もないし、次のフォーマルの機会は卒園式かなって。やっぱり必要だと思えなくて。喪服と一緒にするのは違うし、うーーんって感じ」

「じゃあ、大晟くんの誕生日に着たワンピースに、フォーマルの上着だけ羽織って……小物を新調するのはどうかな?」

「隆太さん、それ、ナイスアイデアかも知れません。刺繍も微妙に隠せるし」

「パパ、ナイスアイデアーー!」


 小物だけ新調しましょう、靴も、と隆太さんは楽しそうに通販サイトを開いた。

 その膝の上に心海が座って全く関係がないものを買ってくれとねだっている。

 私は味噌汁にネギを入れながら「(実は上着の二の腕も結構キツいけど……まだいける!)」と思っていた。

 それに小物なら卒園式の時も使えるかも! あれ、パールってどこいった?

 私は心海の前に味噌汁を出した。


「はい、わかめ大盛り」

「わかめ!」


 そういって心海は目を輝かせた。

 なぜかわかめが好物で見てて笑ってしまう。

 さあみんなで晩ご飯を食べよう。

 


あと数話あるので、発売日まで不定期で更新します。

よろしくお願いします。

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