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【書籍化】オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!  作者: コイル@オタク同僚発売中
二人は新婚さん

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冬コミ、そして


「隆太さんが最近お家で弱ってるの。すごく可愛い」

「はーい、ゴロ島さん、スケブ終わってまーーーす。取りに来てくださーい」


 今日は年末恒例冬コミだ。

 なんと今回、私の同人ライフで初めて早期入稿に成功したのだ。

 10年以上同人やってて初めて!

 本が信じられないほど安く作れたので、もう1冊コピー本書いちゃったくらい余裕だった。

 なんなら前日に美容院も行ってしまった。

 こんなの初めて……髪の毛がすごくサラサラで迎える冬コミすごい。

 昨日もたっぷり寝たので体力満タン、久しぶりに頼まれたスケッチブックを書いている。

 ちなみに本は1時間で売り切れてそこは反省している。


 私が所属しているデザイン部は10月くらいが一番忙しくて、12月に入るとわりと暇になる。

 年末印刷物動かしても、チェックが進まないのだ。

 年始に一気に忙しくなるが今は暇だ。


 でも隆太さんがいる営業は違う。

 毎週金曜日が忘年会で、一番忘れたいのは仕事だろうに、忘年会で忘れらないという地獄のループ。

 でも隆太さんは最近大きな得意先を得たそうで「来春から昇進間違いなし」と長谷川さんに聞いた。

 隆太さん、カッコ良すぎる。

 うちの会社は昇進すると責任が重くなるが、出張が減る。

 もうちょっと家でゆっくり出来ると良いなあと思う。

 

 この前も偶然会議室の前を通りかかったら、隆太さんがバリバリ仕事しててめっちゃ素敵だった。

 それなのに家では私に甘えていて、本当に可愛いのだ。

 だから沢山甘やかしている。

 今までずっと隆太さんに甘やかされてきたのだから、今度は私の番だ。

  

 あれ以来洗濯はなるべく私がしている。

 単純に今は家にいる時間が長いからだ。

 来月私が忙しくなったら、隆太さんがしてくれるのだろう。

 私たちはそうやって線引きを変えていく。


 アイロンがけは、たまにテーラー乾さんの奥様の所に顔を出して修行させてもらってるけど、下手すぎて修行してることも言えない。

 クリーニング店は駅の反対側にあるから私がしてあげられると良いんだけど……10年スパンで未来に期待してほしい。

 


「12月は飲み会が多くて大変なんだけど、お家の廊下で寝ちゃって可愛いの」

「世の奥様が『迷惑だ!!』とマジキレする案件ですよね、それ」

「隆太さんはね、今まで私に全然愚痴ったり、甘えたりしなかったの。でもやっと言うようになってね、でも少し『言っていいのかな?』みたいな感じが可愛いの!」

「……黒井さん、今までの私はやられっぱなしでしたけど、秘技のろけ返ししますよ! 今引出物考えてるんですけど、見て下さいよ」


 ワラビちゃんがスマホをいじって写真を見せてくれた。

 そこにうつっていたのは


「どうですか、紅白餅2キロ。老舗の旅館がテストで作ってくれたんですけど、めっちゃ重たいですよ」

「想像をはるかに超えて迷惑……うち二人で4キロになった餅どうすればいいのよ……冷凍庫パンパン……邪魔……」

「だったらこっちはどうですか、絵織部手付鉢40cm×20cm×20cm。焼き物なのに持ち手付き」

「これはもうあれじゃん? 台所から柿ピー入れて持ち歩けるから、いいよ。2日で割るから大丈夫」

「黒井さん!! 人の家から出す引出物割るとか言わないでくださいよ!!」


 私たちは『迷惑だった引出物』を延々検索して笑った。

 どうやら変な引出物を言ってもパリピ婚約者は「面白いですね」と反論しないらしく、ワラビちゃんは「頭の中大丈夫なのか心配になってきました」と言っていた。

 それを提案している自分の頭の中こそ大丈夫なのだろうか。


「ドレス見て下さいよ。両家の両親、結婚に喜びすぎて5回着替えることになってます」

「ちょっとまって。何時間パーティーするつもりなの?」

「インフィニティ・ウォーとエンドゲーム見終わるくらいやりますよ」

「なるほど、5時間42分。インド映画なら2回トイレタイムがある」

「超エンタメ目指しますよ。やっぱゴンドラですかね?」

「ねえ、涙出るほど笑うと思うけど、本当にそれでいいの?」


 こんな事言ってるけど、間違いなく品の良い引出物つけて、素敵な式をするんだろうなあと思う。

 ワラビちゃんは本のネタ出しでも、適当に面白いこと言うけど本当に書かない。

 すごくいい話ばかり書く。

 変な話をそのまま書くのは私。


 今回の私の新刊は義勇さんが天下一武道会に出る本だ。

 クリリンと戦う義勇さんという一点突破だが、アクションが多くて大変だった。

 私はとても楽しんで書いたけど、ファボも少なかったし売れ残るかなと思ったら1時間で売り切れた。

 そろそろBL作家の看板を下ろしてギャグ漫画を名乗った方が良い気がする。

 そして届き始めた感想は全てクリリンについて。違う、そうじゃない。

 一緒にネタ出しして楽しんでいたはずのワラビちゃんは、めっちゃ泣ける恋話書いてた。

 ナッパと義勇さんがバカンスにいく話書くって言ってたのに!

 変な結婚式なんてするはずがない!!

 

 私は人前に立つのが基本的に苦手で、誰かが自分についてコメントするとか、それを聞くとか、本当に苦手なのだ。

 自分がそれを他の人にするのは楽しいのに、どうして自分は受け入れられないのか分からないが、とにかく結婚式の類は避けたい。

 だからちゃんとするワラビちゃんは偉い。

 理想のドレスについて書き散らしていたら、目の前に女の子がきた。


「すいません、今日は完売しちゃって……」


 ワラビちゃんが言うと、女の子の一人がツイ……と私の前に座り、小声で言った。


「滝本さん初めまして、デザロズの、のんです」

「?!?! あっ……初めまして」


 目の前に座ってほほ笑んだのは、隆太さんが応援しているアイドル、デザロズののんちゃんだった。

 変装なのか、深く帽子をかぶっているが、オーラが凄まじいので周りが見ている。

 後ろにはラリマー艦長も見えて、私に小さく会釈してくれた。

 私は書き散らしていたスケブを置いて立ち上がった。

 ここはR18スペースだ。たぶん良くない。

 すぐに立ち上がって外に出た。


 物販スペースから遠く離れて人が少なそうな場所で私は立ち止った。

 のんちゃんは帽子を取って頭を下げた。


「ご迷惑かと思ったのですが、いらっしゃると伺ったのでどうしても一言お礼が言いたくて。イラスト本当にありがとうございました」

 

 たしか隆太さんの推しがのんちゃんだ。

 キラキラとした瞳と、小さな頭、それに髪の毛がマットPP加工したみたいに艶々していて美しすぎる。

 これは人種が違う……!

 とりあえず私は一息ついて冷静になる。可愛さはないが、私は大人だ。


「初めまして。滝本咲月と申します。イラスト喜んで頂けて嬉しいです。お仕事忙しくなってきたようで活躍楽しみにしてます」

「咲月さんのおかげです。年末に少しだけテレビに出られることになったんです。来年絶対ブレイクするので、またイラストお願いしてもいいですか?」

「もちろん。えっと分析官補佐ボルトンですから」

「あはは! そうでしたね、ボルトンさん、よろしくお願いします!」


 のんちゃんはラリマー艦長に連れられて、その場を離れていった。

 デザロズの絵をかく時に名前を変えたのは、私がR18を書いている同人作家だからだ。

 私は好きで書いてるけど、そんな私の色をこれから羽ばたいていく女の子に付けなくても良いと思う。

 

 さて戻ろうと振り向いたら、柱の陰に隆太さんが居て震えて感動していた。


「隆太さん?! 見てたなら、来てくださればいいのに。私ひとりで対応して緊張しましたよ」

「……すいません。俺はお金を払わないとアイドルと会話できないのです」

「なるほど? それは配慮が足りませんでした……??」


 隆太さんは手の汗をハンカチで丁寧にふいて、お茶を一口飲んだ。


「俺の二大アイドルが共演していて動けませんでした……すいません」

「いや……のんちゃん、めっちゃ可愛いですね。本当に惑星が違うのでは……」


 本当に宇宙人なのでは? と思うほど顔が小さくて足が長かった。

 ライブも見たし写真も見ながら書いたけど、本物は全然違う。

 隆太さんは私の横に立ち、手に優しく触れて言った。


「アイドルは人前に立つことで磨かれていくのです。咲月さんは俺の前だけで可愛ければ良いです」

「……私、隆太さんのそういう独占欲、全然嫌いじゃないですよ」

「あまり調子に乗せないほうが良いです。本当は咲月さんを家に閉じ込めたいほど、独占欲が強いですから」


 隆太さんは優しく私の頬に唇を寄せた。

 イベントに興奮していたが、いつもの隆太さんの体温にどっと疲れを感じた。 


「……疲れたし、ご飯行きましょうか」

「そうですね、お腹がすきました」


 撤収作業をして、ワラビちゃんの引出物とドレス写真を見ながら、三人でご飯を食べた。

 隆太さんは「結婚式用に咲月さんにドレスを用意します!」とワラビちゃんと盛り上がり始めた。

 ワラビちゃんのドレスネタはギャグだけど、隆太さんは本当に凄いドレスを買いそうで怖い。


「奥様だし、着物はどうですか、滝本さん」

「ああ……想像するだけで美しいですね……」

「このドレスも黒井さんに絶対似合うと思う……シンプルだけど裾が可愛くないですか?」

「間違いなく似合いますね……ワラビさん、素晴らしい見立てだと思います」

「黒井さん、どうして結婚式しないんですかー」

 

 ワラビちゃんがプリンを食べながら私を睨む。

 そういえばワラビちゃんに伝えて無かった。


「写真撮りましたよ、ねえ、隆太さん」

「見ますか?!?!」


 隆太さんが食いぎみに私とワラビちゃんの間に入ってきて机の上にリュックをザバーと広げた。

 動きが素早くて少し驚いてしまう。

 ワラビちゃんは空になったプリン容器を遠ざけて身を乗り出してくる。


「見ます見ます!」

「素晴らしい出来栄えなのに、語り合える仲間がいなくて寂しかったのです」


 え……そうなんだ。なんだか悪い事をした気がする……けどやっぱり悪くないよね……?

 何この罪悪感。

 隆太さんはカバンの中から小さなアルバムを取り出してワラビちゃんに見せていた。

 アルバム持ち歩いてるの??

 恥ずかしくて私は頭を抱える。

 でも隆太さんが嬉しそうで、ワラビちゃんも楽しそうだったから、まあ良いかと思った。


 店から見える町はお正月ムードに溢れている。

 そういえば去年の年末は隆太さんと温泉旅行に行ったんだ。  

 『ちゃんと』結婚して一年ちょっと経つ。


 ……そろそろ次のステージにいこうかなあ。

 

 先の仕事スケジュールを確認する。

 何があっても私たちなら大丈夫だ。

 相変わらず優しい隆太さんを見て思った。




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