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偽装結婚から新婚さんへ

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滝本さんと一緒の朝に

「……!? 滝本さん……?」


 目を覚ますと知らない部屋で、横の布団に滝本さんが眠っていたので驚いてしまった。

 そうだ、実家に来てたんだ。

 昨日の夜は、自宅にいるのと同じくらい全力で絵を書いたので、記憶が混乱してしまった。

 疲れたけど、ホンさんや、同室のリンさんも喜んでくれて、私も調子に乗ってしまった。

 やはりアニメや漫画は世界共通で楽しめるからすごい。


「……ん?」


 ふと気が付くと、私の浴衣は布団の中で9割脱げていた。

 キャミソールとショートパンツを着たうえから浴衣を着ていたんだけど、事実上ショートパンツの上に紐があり、浴衣がマント状態になっている。

 めっちゃあるあるな状況だ。

 こうなることは分かっていたので、パジャマに着替えようと思っていたのに、すっかり忘れて力尽きていた。

 横の滝本さんはまだぐっすり眠っているのを確認して私は適当に浴衣を直して部屋着を掴んで洗面所で着替えた。


 私と滝本さんは『本当の夫婦』ではないので、同じ部屋で着替えるのは、やはり緊張する。

 実の所、昨日の夜温泉に入ってる時に「あれ、初めて同じ部屋で寝るぞ?」と少しドキドキした。

 まあその後のお絵かき大会ですっかり忘れてたけど。


 でも滝本さんは上手に気を使ってくれて、荷物の場所も離して置いてくれたり、着替えのタイミングで席を外してくれたりする。

 その一つ一つの気遣いが「もう少し近づいても大丈夫な人なんだな」と私の中の境界線を取り除いていく。

 学生の恋のように「ウオー好きだ―!!」みたいな感情は無いけれど、滝本さんといるほうが私は間違いなく安心している。


 だって今まで8回ほど、旅館に手伝いに来てるけど、他の従業員と話す事など無かった。

 ただ心を無にして朝から晩まで掃除や運び屋をしていただけだ。

 でも今回は初日に滝本さんがお母さんに強く出てくれた事も関係あるのか、心に余裕がある。

 それが本当に楽だ。

 

 準備を終えて時間を見ると5時半だ。

 朝食の準備が始まるのが6時過ぎからなので、そろそろ動き始めないと間に合わない。

 

「滝本さーん、そろそろ起きないと駄目かもしれません」


 声をかけてみたが、滝本さんは身動き一つしない。

 布団が乱れてないし、なんというか置物のような寝相で羨ましい。

 私は正直かなり寝相が悪いと思う。

 ふと横をみるとさっき私が着ていた浴衣の細い帯が落ちていた。

 私はそれを持って滝本さんの顔の上でふさふさ動かしてみる。

 ……滝本さんは動かない。

 すごいな。

 さっきは少し遠慮していたので、今回は思いっきり帯で顔をふさふさ撫でてみた。

 その瞬間滝本さんの目がカッ……! と開いて、私の方をクッ……と見て、数秒止まった。


「……」

「……」


 私たちは数秒見合った。

 たっぷり5秒ほど見つめあった後滝本さんはムクリと腹筋するような動きで起きて


「おはようございます」


 と機械のような正確さで言ったので、私は思わず畳に倒れこんで笑ってしまった。

 きっと私と同じように一瞬どこにいるのか分からなかったのだろう。

 私は枕元に置いてあったメガネを「はい」と手渡して


「すいません、あまりに起きなかったので、イタズラしてしまいました」


 と正直に謝った。滝本さんはいつも通りのメガネをクッとして


「いえ、大丈夫です。もう起きました」


 とこっちを向いた。私は再び笑って倒れこんでしまった。

 あんなに寝相が良いのに、髪の毛はかなり乱れていて鳥の巣のようなものが頭上にある。

 滝本さんは私の視線に気がついて、髪の毛を手で押さえて


「すいません、中途半端に長いので、いつも後頭部だけグチャグチャになってしまうのです」


 と洗面所に消えた。

 数分後、滝本さんは、いつも通りの髪型に作務衣を着て「お待たせしました」と出てきた。

 私はやりすぎた事を素直に謝ることにした。


「……すいません、楽しくてやりすぎてしまいました」

「起きたら相沢さんが真横にいて、心底驚きました」

「そういえば……私の寝相は大丈夫でしたか? ワラビちゃんとは何度か泊まりに行った事があるのですが、わりと酷いって聞いたんですけど」


 横を見ると滝本さんはまた仏像のような表情をしている。

 もはや無表情で木彫り状態。

 私は思わず畳みかける。


「やっぱりうるさかったですか?」

「……いえ……」


 滝本さんが瞳だけ左に寄せる。

 そんな!! 嘘ついてる人がしてるみたいな典型の表情……!

 滝本さんは私のほうに視線を戻して……また逸らして言った。


「……いえ……大丈夫です」

「全然大丈夫じゃないですよね?」

「いえ、大丈夫でしたよ、少し、お布団から出ていたのが気になりましたが」


 私は頭を抱える。


「焼かれてるバームクーヘンみたいな動きしてましたか?」

「はっ?! え……、あっ……なるほど……」


 滝本さんはメガネを押さえてクッ……クッ……と笑いを押し殺していた。

 ワラビちゃん曰く、大きなデパートにあるクルクル巻いて焼いているバームクーヘンみたいな動きで私は寝ているらしい。

 なんだかよく分からない例えだと思ったけど、滝本さんの表情を見ていると、その通りのようだ。


「今日はちゃんとパジャマ着ますね?」

「よろしくお願いします」


 私たちは目を合わせてクスクス笑いながら廊下を急いだ。

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