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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第4章 もう、夢なんて見ない~ミハルの闘い~
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せめて、今だけでも。

 それから、みんなでどうやったら占拠を成功させられるか、議事堂の見取り図を見ながら綿密な計画を練った。


「参議院の議場は2階にあるから、地下通路からそこまで一気になだれこむか」

「いや、入り口さえ封鎖しちゃえばいいんじゃない? 2階に行くまでの間に取り押さえられちゃうかもしれないし」

「衛視(国会議事堂の警備担当)が駆けつけるとしたら、中央玄関と、1階の参院と衆院の玄関と、後はどこだ?」


 動線を確認しながら、何度もシミュレーションしてみる。

 12時を回り、その日はいったん解散となった。


「美晴ちゃんって、もしかして、怜人とつきあってるの?」

 白石がこっそり聞いてきた。

「ええ、まあ」

「なんだよ、あいつ、そんな話を何もしないで」

 軽く舌打ちをする。

「そうなんだ。いつから?」

「そんなの、今はどうでもよくないですか?」 

 美晴はため息交じりに答えた。


 ――これから生きるか死ぬかの決戦が始まるのに、この人は何を気にしてるんだろう。


「美晴、行こう」

 怜人に呼ばれて、「それじゃ」と白石に頭を軽く下げる。白石は苦々しい表情で二人の後姿を見送っていた。


****************

 

「臓器移植の話、占拠に成功したらネットで公開しようと思う」

 怜人の腕の中で美晴が顔を上げると、怜人は硬い表情をしている。


「議事堂を占拠するだけじゃ、たぶん、まだ弱い。オレらを排除したら、何もなかったかのように矢田部が政権を握ったままかもしれないし。だから、やっぱり今、あの情報を使うしかないと思う。片田さんが関係してるって分かったら、さすがに総理と官房長官は失脚するでしょ。そのあとに民自党のほかの人が総理になるにしても、好き勝手はできなくなるだろうし」


「じゃあ、国会の中で動画を配信するとか?」

「うん。それがいいんじゃないかって。マスコミにリークしようにも、どこが信頼できるか分からないし、どこかから情報が洩れて官邸に伝わるかもしれないし。やっぱり、自分で直接動画を配信したほうがいいんじゃないかって考えてて」


「他の野党の人に協力してもらうとか?」

「それも、うまくいくかどうか。だって、選挙法案だって、ほかの野党は死に物狂いで反対してるわけじゃないからね。労働組合が支持母体の政党は、支持層が40代以上だから、法案が通っても通らなくても、あんまり関係ないんだよね。だから真剣度が足りないっていうか」


「そっか……」

「もし失敗したら、この情報を持ってるだけで危ないかもしれないから、美晴もスマホのデータは消しといたほうがいいと思う。USBに落として隠し持っておいたほうがいい」

「分かった」


 怜人は美晴を抱きしめる腕に力を入れる。

「ホントは、占拠のときは、美晴にはいてほしくないんだ。警察に襲われて、ケガするかもしれないし」

「でも、私は怜人と一緒にいたい」


 怜人はフッと微笑むと、美晴にキスをする。

「それはオレも同じだよ」

 二人は強く抱きあう。


「でも、逮捕されたオレに会いに来て、ガラス越しに愛を語るほうがロマンチックじゃない?」

「それもいいかもね」

 二人で見つめあいながら笑う。

「この騒動が終わったらさ、ずっと一緒にいよう。一緒に暮らそう」

「うん」

 怜人は美晴を抱きしめる。

「ずっと、ずっと一緒だよ」


**************


「ねえ、美晴さんと怜人さんって、結婚するの?」

 その日も、事務所で占拠の計画を練っていた。

 ゆずとランチを買いに外に出た時に、急に聞かれた。


「うん、そういう話は出てるけど、どうして分かったの?」

「だって美晴さん、急にキレイになったもん」

「えっ、そう?」

「うん。だから、幸せなんだなって思って。私は、全然ダメなんだよねえ」


 ゆずはため息をつく。

「白石さんが一週間ぐらい前に、突然部屋に来た」

 ポツリと言う。

「えっ、そうなの?」

「うん。なんかね、優梨愛さんにフラれたみたいで。私、拒みきれなくて、部屋にあげちゃったんだよね。それで、そういうことになっちゃって。でも、翌日からは何事もなかったかのようにしてるし。それの繰り返し。分かってるのに、ダメなんだよねえ」

 ゆずの眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「私、ゆずちゃんには幸せになってほしい。ゆずちゃんには、もっといい人がいるって思う」

「私もそう思う。でも、ダメなの。白石さんが目の前にいると、どうしても、突っぱねられないの。バカみたいだよね」


 ゆずは耐えきれなくなって、ポロポロと涙を流す。美晴が肩を抱きかかえると、美晴の肩に顔をうずめてワンワン泣き出した。

「大丈夫、大丈夫。ゆずちゃんを大切にしてくれる人と、いつか出会えるからね」

 美晴は背中を優しくさする。


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