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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第4章 もう、夢なんて見ない~ミハルの闘い~
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希望の朝

「陸がね、最近、美晴ちゃんがうちに来ないから、寂しがってるみたい」


 千鶴に言われて、美晴はとっさに何て答えたらいいのか分からなかった。ゆずがニヤリと笑う姿が、千鶴の肩越しに見える。


 美晴たちは国会前に集まっていた。

 今日は法案の採決の日だ。若者が数千人集まって、「法案改正反対」「若者を排除するな!」などと書かれたプラカードを掲げている。


 太鼓を叩きながら、シュプレヒコールを上げる者もいる。国会議員が到着するたびに、「法案改正、反対」「民意を聞け!」と投げかける。


 与党の議員は無表情で警備員に囲まれながら素通りし、野党の議員はにこやかに手を振って応じている。

 さすがにメディアも無視できないのか、テレビ局の中継車が何台も止まっている。メディアの取材に応じているのは、野党の議員だ。


「ごめんね、なんか、デモに参加した後は、いつも疲れちゃって」

「そうよね。私もそう言ってるんだけど。事務所では会ってるでしょって言ってるんだけど、本を読んでほしいみたいで」

「そうね、『モモ』は途中になってるし。じゃあ、今晩は泊まりに行こうかな」


 陸は顔をぱあっと輝かせる。

「なあに、もしかして、陸の初恋の相手って、美晴さん~?」

 ゆずが陸をからかう。陸は顔を赤らめた。

「そうねえ、我が息子ながら、面食いなのね、きっと」

 千鶴がなぜか嬉しそうに言う。


 ――今晩は、法案が否決されたらデモはないだろうし。怜人もあちこちの調整で忙しくなるだろうし。大丈夫だよね。


 そのとき、怜人と白石が車から降りてきた。歓声が上がる。


「怜人さーん、頑張ってー!」

「法案、通さないでくださーい!」


 若者たちが呼びかける。怜人は笑顔で片手をあげて、「ありがとう」と答える。握手を求められて応じていた。

 テレビのレポーターからマイクを向けられて、怜人は立ち止まる。


「選挙法改正法案を阻止するために、僕はずっと動いてきました。これが通ったら日本は本当に終わります。与党の議員さんの中でも、良心的な人はいるって分かってます。その方たちが反対票に投じることを、僕は信じています。国民の皆さんも、最後まで彼らにエールを送り続けてください。皆さんの声が彼らの支えになりますから」


 背筋を伸ばして、堂々と答える。

 その場にいた人たちから拍手が起きる。美晴も力いっぱい拍手した。


 美晴の前を横切る時、一瞬目が合い、微笑みながらうなずいた――大丈夫だ、と瞳は語っている。美晴もうなずき返す。心から怜人が誇らしい。


「えっ、もしかして」

 千鶴が驚いた顔で美晴を見る。

「二人って、そういう関係だったの?」


 ――なんで分かるんだろ。女性って、ホント、こういうのに鋭いよね。


 美晴はイエスともノーと言わずに、微笑んだ。

「まあ、そうなの。そうだったの。二人がそうなったらいいなって思ってたけど。え~、いつから? いつからそういう関係になってたの?」

 千鶴が興奮気味に尋ねて、足元で陸がきょとんとしている。


「ゆずちゃんは? 知ってたの?」

「まあねえ」

「え~、ずるい、ずるい! 私だけ知らないなんて。美晴さん、水臭いじゃない」

「美晴さんに聞いたんじゃないよ。私が気づいたの」

「ゆずちゃんも教えてくれないなんて、ひどい!」


 千鶴もゆずもやけにハイテンションだ。ここの熱気がそうさせているのだろう。


 法案はきっと否決される。そうなれば、政権交代への流れが一気にできるかもしれないのだ。

 もしそうなったら、怜人は立役者となり、総理大臣になるのも夢ではないかもしれないと、ここにいるスタッフはみんな信じている。


 ――神様を信じてないけど。今日は祈るしかない。神様、どうか法案は否決されますように。


 美晴はそっと両手を握って、心から祈る。



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