表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第3章 小さな勇気の唄
53/165

君に勇気の花が降りかかる

 レイナが落ち着くのを待ち、裕はピアノを弾きはじめた。

 タクマがつくった、『小さな勇気の唄』。

 レイナは正面を向いた。


 ――歌って、レイナ。タクマ君に届くように。


 ミハルの声が蘇る。

 レイナは大きく息を吸い込み、歌いだす。

 

♪君に一つの花をあげよう

それは勇気という名の花で

君の胸の奥で

決して枯れることなく

咲き続けていくだろう♪

 

 ふいに、レイナの目の前に花びらが舞い降りたような気がした。


 桜の花びら。

 春に、河原に咲いている桜の木の下で、タクマと二人でよくお花見をした。

 風に舞い散る花びらをつかまえようとしたり、水面に流れていく花びらを、飽きもしないでずっと眺めていた。


 二人でいるだけで、心が満たされた、あの日々。

 レイナの髪や服に花びらが降りかかり、タクマは照れくさそうに言った。

「レイナ、桜の妖精みたいだね」

 

 ――ああ、そうだ。お兄ちゃんはずっと、そばにいる。私のそばにいてくれる。歌っていると、感じる。お兄ちゃんの気配を。


 レイナは空を見上げる。

 空の端では燃えるような夕焼けが広がり、青空は群青色に染まりかけている。

 こんな空の色を、二人で数えきれないぐらいに見た。


 ――消えない。お兄ちゃんとの思い出は、絶対に消えない。私の心の中に、お兄ちゃんはずっといてくれる。永遠にいてくれる。


 裕がピアノを静かに弾き終わり、会場は一瞬、静寂に包まれる。


 それから、地面が揺れるぐらいの大歓声が起きる。拍手と、「レイナ―」「最高―!」と褒め称える声。


 スティーブは震える声で、「レイナ、君は、なんて素晴らしいんだ!」と胸に手を当てた。

「こんなに胸を打つ歌を、初めて聞いたよ」

 裕もレイナに拍手を送っている。


 ――そうだ。ステージで歌えば、いつでもお兄ちゃんに歌が届く。


 レイナはスティーブと握手を交わした。

 ――私は、一人じゃない。


 袖に入ると、涙で顔がグチャグチャになっている笑里とトムとアミがレイナに次々と抱きついた。

 アンソニーも泣きながら、みんなの背後から抱きつく。


「すごい人気だな」

 そういう裕の目にも涙が光っている。


「もう、あなたって子は、なんて子なのっ」

 アンソニーがレイナの顔を両手で挟む。

「あなたは、タクマ君から大事な花をもらったのね。ずっとずっと、咲き続ける花を」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ