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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第3章 小さな勇気の唄
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小さな出会い

「あーれー、先生だっ」


 ゴミの山の麓を歩いて小屋があるエリアに向かっていると、山の上から声がした。

 みると、トムが手を振っている。


 トムは慣れた様子で駆け下りてきた。

 リュックを背負い、そのなかには缶や鉄くずが入っている。鉄くず屋に売るためのゴミを拾い集めているのだろう。


「レイナは? レイナは?」

 トムは目をキラキラさせて尋ねる。

 裕は表情を曇らせた。

「レイナは、今日は来られないんだ。ごめん」


 その言葉を聞くと、みるみるうちにトムの元気は萎んでいく。

「でも、レイナから手紙を預かって来たよ。アミちゃんにもね」

 それを聞いて気を取り直したのか、「じゃ、こっち来て!」と二人を誘導した。


 笑里は、「ねえ、あなたのお母さんはどこ?」と聞く。


「オレの母ちゃんはいないよ。3歳の時にオレをゴミ捨て場に捨てて、どこかに行っちゃったんだ」

 トムはカラッと答える。


「そうなの……じゃあ、お父さんは」

「父ちゃんは知らない。生まれたときにはいなかったみたいだよ」

「そう……」

 笑里はそれ以上、何も聞けなかった。


 そのとき、ペンギンのぬいぐるみを抱いたアミが走り寄って来た。

 裕の袖をつかんで、「あー、あー」と言う。


「アミ、レイナは今日は来ないんだってさ」

 トムが伝えると、アミは驚いたような顔になった。

「あー?」

「歌のレッスンで忙しいんだろ? きっと」


 裕は「そうなんだ」とうなずいた。アミの目に、みるみる涙がたまっていく。


「泣くなよお。レイナは俺たちのことを忘れたわけじゃないんだからさ」

 トムがアミの頭を優しくなでる。


「ねえ、この子、もしかして」

 笑里はそっと裕に尋ねる。


「ああ。話せないらしい。小さいころに大病を患って声が出なくなったって、レイナが話してた」

「そうなの……」

「あの子も、母親はいないらしい。働きすぎて亡くなったって、言ってた。ここには父親と住んでるらしいんだけど、その父親は飲んだくれで、時々暴力をふるうらしい」

「まあ、なんてこと」

 笑里の声が震えた。


「おい」

 そのとき、低い声が背後から聞こえた。


「ああ、ジンさん、クロ。こんにちは」

「なんでここに来たんだよ。レイナに何かあったのか?」

「いや、そういうわけじゃなくて」


 裕はレイナがライブにゲストとして出ること、そこにみんなを招待したいことを伝えた。


「えっ、マジで!? ライブに行けるの? すげえぞ、アミ!」

 トムは興奮した。


「ライブって、すっげえ大きな建物でやるんだぞ。そこで、レイナは大勢の人に向かって歌うんだってさ。それを観に行っていいって」

 アミはレイナに会えるのだと分かり、パッと笑顔になった。


「そりゃ、マサじいさんにも話さないとな」

 ジンにつれられてマサじいさんの小屋に行くと、マサじいさんは畑仕事に精を出していた。


 裕が頭を下げると、マサじいさんは汗を拭きながら柵の外に出てきた。


「ちょうどよかった。レイナにニンジンを持って行ってくれんか」

「ニンジンですか?」

「レイナが畑を耕して、種をまいてくれたニンジンがよく育ってな。レイナにも食べさせたいんだ」


 マサじいさんは小屋の横に積んであったニンジンを10本ほど裕に渡そうとした。


「さすがに、こんなには……うちは3人しかいませんし」

「ニンジンは日持ちするから大丈夫だ」

 マサじいさんは、そんなことも知らんのか、という目で裕を見た。


「でも、これは皆さんで食べたほうが」

「レイナは、うちの畑で採れるニンジンが好きなんだ。ここのが一番おいしいって、いつもおいしそうに食べてた」

「……そうですか」

「マサじいさん、袋かなんかないの? 先生の手が泥だらけになるよ」


 トムの言葉に、「おお、そうだな」と小屋の中から新聞紙を持って来た。

 トムがニンジンを包んで裕に渡した。

 裕は、「レイナもきっと喜びます」と頭を下げた。

 

********


 裕の話を聞き、「それは、子供たちだけで行ったほうがよさそうだなあ」とマサじいさんは頭をかいた。


「大人が汚いカッコをして行くような場所じゃないし」

「そんな、大丈夫ですよ。皆さんでいらしてください」

 笑里が言うと、マサじいさんは笑里の目をじっと見つめた。


「お嬢さん。我々にこれ以上、みじめな思いをさせないでくれ。我々は、街でやっていけなくなったから、ここに流れて来たんだ。今さら街に戻って、自分たちが負け犬だったと思い出したくなんかないんだよ」


「そんな……」

 笑里はそれ以上、何も言えなかった。

「子供たちは行かせることにしよう。街を知るいい機会だからね」


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