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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第3章 小さな勇気の唄
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ステップ・バイ・ステップ

「スティーブ・ムーア?」

 レイナはきょとんとした顔をした。


「そう。世界中で人気がある歌手なんだ。その人が、レイナに自分のステージで一緒に歌ってほしいとお願いしてきたんだ」


「なんで私のことを知ってるの?」


「ヒカリのライブに出たときのラジオ中継の音源が、ネットで拡散されているらしい。スティーブのチームのスタッフがたまたま聞いて、スティーブに聞かせたらしいんだ」


「ふうん。どんな曲を歌う人なの?」


 裕はパソコンでスティーブが歌っている動画を探して、見せてあげた。


 スティーブは黒人で、体格のいいロック歌手だ。高い音も楽々出すパワフルな歌声に、レイナは一瞬で惹きつけられた。一転して、バラードでは優しく切なく歌い上げる。


 いくつかの動画を観た後で、レイナは「すごい……」と感嘆の息を漏らした。


「こんなにいろんな声が出るなんて。すごすぎる」

「そうだね。スティーブは元々声の質がいいんだと思う。でも、レイナもレッスンを続けたら、いろんな声で歌えるようになるよ」

「そうなのかなあ」


 レイナは裕の顔を見た。


「そのステージって、ラジオで中継されるの?」

「ラジオで中継されるかどうかは分からないけど……スポンサーにテレビ局も入ってるから、テレビでは放送されるんじゃないかな」

「そっか。それなら、ママに見てもらえるかな」


 裕はハッとした。


「ママはいつもレイナのことを見守ってるからって手紙に書いてあったでしょ? テレビでやるのなら、見てもらえるんじゃないかなって思って」


「――そうだね。きっとミハルさんもどこかで見てくれるんじゃないかな」

「それなら、私、歌いたい。スティーブさんと一緒に歌ってみたい」

「そうか。それなら、スティーブにそう伝えるよ。スティーブも大喜びすると思う」


 レイナはコックリとうなずいた。


「それと、そのステージは大切な人たちに見に来てもらおう」

「大切な人たちって?」

「アミちゃんとかトム君とか。マサじいさんやジンおじさんだっけ? レイナがいつも話しているゴミ捨て場の人たちに来てもらおう」


 レイナの顔がパッと輝いた。


「ホントに!? ホントにいいの?」

「ああ。みんなに来てもらおう。レイナもみんなに会いたいだろ?」

「やったー!」


 レイナは飛び跳ねて喜んだ。レイナがここに住むようになって、初めて見る心からの笑顔だ。

 裕の顔に、寂しそうな色が浮かんだ。


*******


 その日から、一カ月後のステージに向けての特訓がはじまった。

 スティーブの曲を一緒に歌うので、英語の歌詞を覚えないといけない。笑里に教えてもらいながら、何とか歌えるようになった。


 ある日、レイナが家庭教師に見てもらっている間に、裕と笑里はゴミ捨て場に向かった。


 搬入口の近くに車を止め、車から出ると、強烈なニオイがする。

 前来たときはまだ肌寒かったので、ゴミのニオイがそれほどしなかったのだ。


 笑里はたまらず、ハンカチで鼻と口を覆った。裕も、「これはすごいな」と顔をしかめる。

 作業員が、裕と笑里の姿を見て、飛んで来る。


「ちょっと、こんなところに入って来られちゃ困りますよ。探し物ですか?」

「いや、ゴミ捨て場の人たちに会いに来たんです」

「はあ?」

「あっちから入りますから」

「ちょっと、ちょっと!」


 作業員が制しても意に介さず、裕はさっさと歩きだした。笑里はあわてて後を追う。


 搬入口から一歩中に入り、笑里は軽く悲鳴を上げた。

 辺りにはハエが飛び回っていて、足元には嫌なニオイがする水があちこちに流れ出している。


「こんなところで、レイナちゃんは……」

 笑里は絶句して立ち尽くしていた。裕が肩を叩く。


「気分が悪いなら、車に戻ったほうがいい」

 笑里の耳元で、大きな声で伝える。

 笑里は大きく頭を振った。


「私も行く。だって、あの子はここにずっと住んでいたんだもの」

 笑里の目に宿った強い光を見て、裕はふっと微笑んだ。


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