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ゴミ捨て場のレイナ  作者: 凪
第2章 キセキの歌声
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一人ぼっちのレイナ

「ママがいなくなっちゃったの」

「ああ」


「ディズニーランドに行ってる間に、ママがいなくなっちゃったの。ディズニーランドになんて、行かなきゃよかった」

 レイナは膝に顔を埋める。


「私たちが頼まれたんだ。レイナをしばらくどこかに連れて行ってほしいって。その間に、身を隠すからって。本当は、ディズニーランドから戻って来たら話すつもりだったんだけど、まだ話してなくて申し訳ない」


 裕は穏やかな声音で、諭すように語りかける。


「ここにいると、君も危険な目に遭うんだって言っていた。だから、しばらく私たちが君を預かることにしたんだ」


「しばらくって、いつまで?」

「それは分からない。だけど、ミハルさんは、君を捨てるようなことはない。それはレイナ自身がよく分かっているだろう?」


 レイナは肩を震わせて泣きじゃくるばかりだ。

 

 裕はジャケットのポケットから、封筒を取り出した。


「これ、ミハルさんから預かってる」


 レイナは顔を上げた。

「君に渡してくれって頼まれたんだ」


 レイナは震える手で封筒を受け取る。封を切ろうとしても、うまくいかない。

 代わりに裕が封筒から便箋を出してくれた。


 見慣れたミハルの美しい文字。


『レイナへ

 だまっていなくなってしまって、ごめんなさい。

 ママにはやらなければいけないことがあります。

 それが終わったら、かならずむかえに来るから。

 それまでは西園寺先生たちといっしょに暮らして、歌のレッスンを受けてください。

 ママはレイナの歌声を、必ずどこかできいています。

 だから、ママのために歌ってね。天国にいるタクマ君のためにも。


 レイナ、私の大切な娘。

 あなたの本当の名前は「怜奈レイナ」です。

 あなたのお父さんから、一字とってつけました。

 怜奈、ママは世界一、あなたを愛しています。

 だから、信じて待っていてほしい。

 またいつかいっしょに暮らせる日が、ぜったいに来るからね。

 ママはどこにいても、ずっとずっと、あなたの幸せだけをねがっています。

                           美晴ミハル


 レイナは読み終えると、床に突っ伏して泣いた。ただひたすら泣いた。

 笑里は、その背中を優しくさすった。裕もそばで見守ってくれる。


        ********


 やがて、涙が枯れて放心状態になったレイナは、裕と笑里に連れられて小屋を出た。

 待っていたジンがレイナに小包を渡す。


「これ、ミハルさんから預かってる。レイナが街に行って一週間したら、レイナに送ってほしいって言われてたんだ」


「ママから……?」

 レイナは憔悴しきっていたので、笑里が受け取った。


「レイナ、行っちゃうの?」

 トムとアミがレイナに抱きついた。


「行っちゃやだよお。タクマもいなくなって、レイナまでいなくなるのは、嫌だよお」


 トムは涙声で訴えかける。アミも「やー」と泣きながらレイナの腰にしがみつく。


「たまに、レイナを連れてここに戻って来るから。君たちも、街に来ればいい」

 裕が言い聞かせると、「そんなのウソだ。絶対に戻って来ない」とトムは睨みつける。


「トム、アミ。行かせてやれ」

 ジンとマサじいさんが二人を引き離す。

「それがミハルさんの望みなんだ」


「レイナあ」 

「あー、あー」


 レイナはみんなにお別れを言う気力もなく、裕と笑里に抱えられるようにゴミ捨て場を後にした。


********


「本当にすみません。事情が分からないのに、ここまで連れてきてしまって」

 森口が裕に詫びている。


「いや、いいんだ。レイナを思ってのことなんだから。早めに伝えなかった私達が悪かったんだ」

 裕は森口を責めることなく、いつものように穏やかな口調で言う。


 笑里は、「これ、開けてみる?」と小包を指した。

 レイナは窓の外をぼんやり見ていて、無反応だ。

 その手には、ミハルからの手紙と、ミハルに渡すつもりだったお土産が握りしめられている。

 

 笑里は包みを丁寧に開ける。なかから、絵本と童話が数冊、アルバムが出てきた。


「これ、何の本だか分かる?」

 笑里が見せると、レイナはハッとした。

「これ、ママが」


 ――小さいころ、ずっと読んで聞かせてくれた本だ。文字もこの本から覚えたんだっけ。


「ママが読んでいた本」

「そう。宝物ね。だから持たせてくれたのね。大事にしないと」


 青い表紙のアルバムだけ、見覚えがない。

 笑里から受け取って開いてみると、幼いころのタクマとマヤの写真がいっぱい貼ってあった。


 ゴミ捨て場に来る前に、家族で撮った写真なのだろう。タクマの父親らしき人も映っている。

 ミハルが、タクマの小屋から持ち出したらしい。

 

 ――お兄ちゃん。ママ。


 レイナの頬に、再び涙が伝う。


 ――どうして、いなくなっちゃったの。私、一人ぼっちになっちゃったよ。


 笑里がそっと抱きしめてくれる。


「いいのよ、好きなだけ泣いて。いいの、いいの」


 レイナは再び声を出して泣き出した。

 裕はバックミラー越しにレイナの様子を見守っている。


 車は街に向かって、緩やかにスピードを上げた。



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